帯広畜産大学大学院に進学し、
農業分野の専門性を深化

加藤裕太さん(ルワンダ・食用作物・稲作栽培・2014年度3次隊)

稲作に関する知識を持って協力隊に参加し、その技術指導に取り組んだ加藤さん。稲作の「ハウツー」は教えられるものの、「農作物の内部の仕組み」への理解不足により、農家にわかりやすい説明ができなかったことから、帰国後、それを学ぶために大学院に進学した。






加藤さんのキャリアパス

1988年生まれ、愛知県出身
[大学生]
農学部で主に農産物の生産技術について学ぶ。
[農業研修生]
就農希望の若者を対象とする研修機関で稲作を学ぶ(1年間)。
[農業指導員]
農業法人や社会福祉法人などで農業指導に従事(約1年半)。
[協力隊員]
2015年1月に青年海外協力隊員としてルワンダに赴任。2017年1月に帰国。
[大学院生]
2017年4月から2019年3月まで、帯広畜産大学大学院畜産学研究科の植物生産科学コース博士前期課程に在籍。
[民間企業社員]
2019年4月、農業生産資材の製造・販売などを行う自然応用科学株式会社に入社。

加藤さんの進学概要

■ 進学先
帯広畜産大学大学院畜産学研究科
※植物生産科学コース博士前期課程(修士課程と同じ)
■ 在学期間
2017年4月〜2019年3月
■ 入学金・授業料
約140万円
■ 学習/研究の内容
資源環境農学(修了論文のテーマは「アズキの上胚軸の伸長に関する量的形質遺伝子座(QTL)領域の同定と候補遺伝子の探索」)


【協力隊時代】東部県ガツボ郡の郡庁に配属され、ネリカの栽培普及を目的に農業者や農業学校の生徒への技術指導などに取り組んだ。写真は、配属先が管轄するエリアの農業者たちを相手に土壌の改良方法について説明する加藤さん

【大学院時代】加藤さんが研究のなかで育てたアズキ。実がつく高さがさまざまな個体の間で交配させたもので、子世代の実がどの高さにつくかを確認し、実がつく高さを左右する遺伝子を突き止めていった

【現職】自然応用科学(株)が製造する堆肥。加藤さんは現在、農業者への堆肥の販売のほか、同社のグループ企業が行う特定技能外国人(改正出入国管理法上で新設された「特定技能」の在留資格を持つ外国人)の就労支援事業にも携わっている


−−帰国後に大学院へ進学した動機をお教えください。

 私は協力隊時代、ネリカ(*1)栽培の普及に取り組みました。肥料の撒き方や水の打ち方など、栽培の「ハウツー」を農業者に指導していくうちに収量も増え、それなりに評価してもらえたのですが、彼らから「これまで我々が栽培してきたイネとどこが違うのか?」と聞かれたときに、満足のいく回答ができませんでした。大学時代や農業研修生時代に得た知識で「乾燥に強い」など性質の特長は伝えることはできるけれども、「異種のイネの交配によって出来た新たな遺伝子が、乾燥に強いという性質を発現させている」など、「内部の仕組み」を合わせて説明することはできなかったのです。私は農業分野の国際協力の仕事に就きたいという希望があったので、「内部の仕組み」をもっとよく知り、途上国の方々が納得するような説明ができるようにならなければと考え、その手段として大学院に進学することにしました。

*1 ネリカ…NERICA(「new rice for Africa」の略)。高収量や耐乾燥性、耐病性を兼ね備えたイネの品種。

−−進学先の選択理由は?

 進学先については、協力隊の任期が1年を過ぎたあたりからインターネットで情報収集を始めました。その際、前述の課題意識から「遺伝子」をキーワードの1つとしました。もう1つのキーワードとしたのは「マメ」です。途上国ではマメが重要なタンパク源であり、栽培も消費も盛んです。そのため、高収量かつ高品質のマメの品種開発ができるだけの専門知識があれば、農業分野の国際協力の仕事をするうえで武器になると考えました。この2つのキーワードに合致するような研究をされていたのが、実際に私の指導教官となっていただいた帯広畜産大学の先生です。インターネットでそのことを知り、コンタクトをとってご相談させていただいたところ、「ここならあなたがやりたい研究ができるだろう」とおっしゃっていただけたため、進学先に決めました。
 同大大学院の入試には、獣医・農畜産分野の国際協力に資する人材の育成を目的とする「国際協力特別選抜」という特別枠があり、私はその制度で入学しました。入試で筆記試験が免除される点、授業料に相当する額の奨学金が貸与される点などが、この枠の特徴です。応募書類の提出期限は帰国前だったのですが、郵便事情で期限までに届かないおそれもあったので、書類のデータを日本にいる家族に送り、大学への提出を頼みました。入学は帰国の3カ月後です。

−−取り組まれた研究の内容についてお教えください。

 アズキの実が地面からどれくらいの高さにつくかを左右する遺伝子を特定する研究です。アズキは地表に近い位置に実がつくため、収穫機で収穫する際に多くの取りこぼしが出てしまうという問題があります。私の研究は、取りこぼしが出ないような高い位置に実をつけるアズキの開発の出発点となるものです。

−−修士課程での学びは、その後の就職や仕事にどのように結びついていますか。

 農業分野の国際協力に携われる就職先を「PARTNER(*2)」で探し、見つけたのが、現在の勤務先である自然応用科学株式会社の求人情報でした。国内で農業生産資材の製造・販売などを行う会社ですが、カンボジアで農業技術を指導する事業も行っており、私はその現場管理を担当する人材として採用されました。おそらく、協力隊での海外経験と大学院で得た専門性の両方が評価材料になったのだろうと思います。
 入社後、残念ながらカンボジアの事業はコロナ禍でストップしてしまい、現在は国内の事業に携わっています。担当している業務の1つは、農業者への堆肥の販売です。この業務では、農業者が抱えている問題を聞き出し、その解決策を提案することが重要な営業活動となるのですが、そこでは大学院で学んだことがとても役に立っています。例えば、「農作物が病害に罹る」という問題が発生した際、どのようなメカニズムで病害が発生した可能性が高いかを推定したうえで、その発生が避けられるような遺伝的性質を持つ品種の導入を勧めることができるので、専門知識が豊かな農業者の方からも信頼を得ることができていると感じています。以前なら、「この農薬が有効です」など、マニュアル的に覚えている「対症療法」を伝えることしかできなかっただろうと思います。

*2 PARTNER…国際協力のキャリアに関する情報を提供するJICAのウェブサイト。

−−仕事に関する今後の抱負をお聞かせください。

「食」というのは、人間的な暮らしを享受するための大前提だと思います。おなかが満たされ、安心感やゆとり、笑顔が生まれて初めて、家族や友人と共に過ごす時間などを楽しむことができるからです。農業はそうした「食」を支えるものである点が、農業の仕事に対する私のモチベーションの源です。今後も、農業の発展のために貢献できるよう、さらに学びを続けていき、いずれは、「食」に困窮する人がいる途上国の現状に対して有効なアプローチを見つけ出すような仕事に携わるチャンスを得ることができればうれしいですね。

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