新潟医療福祉大学大学院に進学し、
リハビリ専門学校の教員に

渡邉 司さん(コスタリカ・理学療法士・2013年度2次隊)

2年間のブランクを埋めるため、帰国後は大学院に進学して専門性を高めよう——。そう考えて赴任した渡邉さんが選んだのは、協力隊活動の一部に単位が与えられる大学院に、任期の途中で進学する道だ。






渡邉さんのキャリアパス

1988年生まれ、愛知県出身
[専修学校生]
理学療法学科を卒業。
[理学療法士]
理学療法士としてリハビリ病院に勤務(3年間)。
[協力隊員]
2013年9月に青年海外協力隊員としてコスタリカに赴任。2015年9月に帰国。
[大学院生]
2015年4月から2017年3月まで、新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科に在籍。協力隊活動と並行して研究を進める。
[理学療法士]
大学院で研究を進めるかたわら、2015年11月から総合病院に理学療法士として勤務。
[専門学校教員]
2017年3月、学校法人医療創生大学が運営する理学療法士と作業療法士の専門学校「千葉・柏リハビリテーション学院」(千葉県柏市)に専任教員として就職。

渡邉さんの進学概要

■ 進学先
新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科
※修士課程(協力隊活動の中でのフィールドワークで単位が与えられる「青年海外協力隊等プログラム」を利用)
■ 在学期間
2015年4月〜2017年3月
■ 入学金・授業料
約220万円
■ 学習/研究の内容
保健学(修士論文のテーマは「慢性腰痛患者に対するスペイン語版自主練習メニューを用いた運動指導の効果 —コスタリカの貧困地方における考察—」)


【協力隊時代】コトブルス地方保健センター(プンタレナス県サンビート市)に派遣され、理学療法の実施、自主練習の促進などに取り組んだ。写真は、自主練習するよう勧めた体操の方法を患者に指導する渡邉さん。患者が手にしているのは、渡邉さんが提供した腰痛予防の自主練習のマニュアル

【大学院時代】入学は帰国の約半年前で、帰国後は大学に近い病院で理学療法士として働きながら研究を続けた。写真は、帰国後に大学院の学生として学会発表をする渡邉さん

【現職】現在は理学療法学科の専任教員として、主に1年生の「運動学」と2年生の「義肢装具学」の授業を担当。国家試験対策の担当教員も務めている。写真は、膝関節の動きについて学生に実技指導する渡邉さん(右)


−−修士号を取得された新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科の「青年海外協力隊等プログラム」(以下、「プログラム」)について、概要をお教えください。

 協力隊の選考試験に合格して派遣を待っている間や、協力隊員として派遣されている間に入学する、修士課程の特別なプログラムです。協力隊活動でのフィールドワークが修士課程の演習とみなされて単位が与えられるなど、協力隊員にとって修士号の取得が容易になっている点が最大の特長です。最短で帰国の1年後に修了することができます。

−−進学した動機は?

「プログラム」を知って関心を持ったのは、協力隊の選考試験に合格してから派遣前訓練に入るまでの間です。日本の医療技術は日進月歩ですから、日本の医療現場を2年間離れることへの不安にかられるなか、ブランクを埋める方法だと考えたのが、帰国後に大学院へ進学し、専門性を高めるというものでした。そうして大学院の情報をインターネットで集めたところ、「プログラム」の存在を知りました。派遣前に入学することも検討したのですが、協力隊活動を通して自分の興味のありかを見極めてから、何を研究するかを決めたほうが良いだろうと考え、派遣前の入学はやめることにしました。そうして赴任したコスタリカでは、理学療法士が少ないため、当初はマンパワーとして患者の治療にあたるだけの日々が続きました。「このまま自分の活動が終わってしまって良いのだろうか」という不安が募ったのですが、派遣中に学術的なフィールドワークを行えば、コスタリカのリハビリ分野の将来にとって何か有益なものを残せるかもしれないと考え、「プログラム」への出願を決めました。オンラインで口頭試問を受け、帰国の半年前に入学しました。

−−協力隊活動でのどのようなフィールドワークで大学院の単位が認められたのでしょうか。

 私が協力隊時代に取り組んだ活動の1つは、それぞれに合った自主練習のマニュアルを患者たちに提供し、自宅での実践を促すことです。任地は理学療法士が少なく、すべての患者が医療機関で十分なリハビリを受けることが不可能であること、任地の医療機関にリハビリを受けに来る人の大半は腰痛患者であり、腰痛を治す練習は独力でできるものが多いことなどから、この活動に取り組みました。自主練習のマニュアル作成には、さまざまな練習の患者向けマニュアルをまとめた自作のデータベースを日本の理学療法士の方から提供していただき、スペイン語に訳して活用しました。そのため、現地の理学療法士も個別の患者に向けたマニュアルを容易に作成できる状況になりました。大学院の単位が認められたのは、自主練習を促進するこうした活動の効果を測るために行ったモニタリングとその分析に対してです。
 統計的に有意なデータを得るためにはどれくらいの患者を対象とすべきかなど、学術的な調査のノウハウは大学院の担当教官に遠隔で指導していただきながら進めました。それにより、研究の基礎を身につけることができただけでなく、自分の協力隊活動の意義を客観的に評価することも叶いました。そういう意味で、「プログラム」の利用は私にとってとても良い選択だったと思います。

−−修了後の進路として、リハビリ職の人材を育てる教員の道を選ばれた動機は?

 途上国のリハビリ分野では、専門性を持つ人材の育成をいかに充実させていくかということが課題です。それを支援する仕事にいずれ携わりたいという希望を私は持っていました。そのためには、日本のリハビリ職の教育についてもっとよく知る必要があると考えたのが、教員の道を選んだ最大の理由です。現在の勤務先である千葉・柏リハビリテーション学院はリハビリの専門学校ですが、教員の求人情報はインターネットで見つけました。
 当校の教員は、修士号を持っていることが必須とされてはいないのですが、実際に働いてみると、大学院で学んだことで、できることの幅が広がっていると感じます。例えば、勉強の意欲が高い学生に、「文献の調べ方」など、私が大学院で学んだことを伝えると、なかにはまとめたレポートを学会で発表できるまでになる学生も出てきています。リハビリの「ハウツー」を教えるだけでなく、文献にあたって治療法の科学的根拠を探究する姿勢を身につけさせることは、修士号を取得している私の役目だと考えています。

−−仕事に関する今後の抱負をお聞かせください。

「義肢装具学」は横文字の専門用語が多く、苦手とする学生が多いのですが、私が協力隊時代に義肢装具を手づくりしたことを授業で話したところ、義肢装具に興味を持つ学生が増えました。そうしたことから、協力隊経験者だからこそ果たせる教員としての役割は大きいと感じているので、今後も当面は教員としての研さんを積み、学生に還元していきたいと考えています。

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