“失敗”から学ぶ

配属先の人と連携が少ないまま、活動を進めてしまった

文=志賀容子さん(ペルー・観光・2017年度3次隊)

トルヒーヨ国立大学の学生に対して、SNSの「インスタグラム」にラ・リベルター州の観光に関する記事を投稿することのメリットを説明する志賀さん

 私はラ・リベルター州の州政府通商観光局観光課に配属された。同州のトルヒーヨ市はペルー第3の都市と言われ、魅力的な世界遺産がある観光地だ。観光課は、主に観光客の統計に関する集計、ホテルの営業認定などを定期的に行い、州内の観光サービス業に関するワークショップの開催なども行っている。私への要請内容は同市への観光客誘致だったので、活動内容を観光課の課長と話し合ったが、明確な指示はなく自由に活動してほしいとのことだった。観光課長は入れ替わりが激しく、隊員の活動への関心も高くはなかった。
 活動当初、私は観光課の同僚を巻き込んで、マンパワーでない同市を中心とした広報活動をしたいと考えていた。観光課は、観光団体などと連携したイベントのPRをごくたまに行うものの観光促進に関する活動は少ないように感じたためだ。しかし、観光課は慢性的な人手不足で、常に隊員の活動に協力したり同行したりすることは難しい状況だった。
 1年目は語学力の不足により、積極的に観光促進に関する活動を行うことはできなかったが、配属先の業務補助を行いながら、市内の主要観光スポットの訪問などをして状況把握に努めた。さらに34の旅行代理店を訪問し、観光に関するアンケート調査を実施した。
 2年目にはその調査の内容を踏まえ、観光促進のための企画の1つとして、外国人観光客向けの観光ツアーとして日本人を対象にしたツアーを企画。観光客誘致という要請内容にも沿っているため、同僚と一緒に取り組もうと観光課長に相談したが「大学の実習生をサポートにいれる」との回答。相談できる同僚はいたが、彼女も忙しく一緒に活動することは困難だった。その後、企画に協力してくれる業者の開拓、旅行代理店との調整や参加者の募集などを1人で行い、最後まで観光課と連携した活動にはできなかった。
 この企画以外にも、外国人観光客誘致を目的に、地元大学と協働したSNSのアカウント開設、観光サービス業従事者向けの日本語教育なども実施し、終盤の活動自体は順調だった。しかし、配属先の人とかかわりが少ないまま活動している自分に「このままで良いのだろうか」という後悔が残り、その気持ちを最後まで拭い去ることができなかった。

隊員自身の振り返り

 配属先に向けて、もっと積極的に自分の活動の趣旨を分かってもらえるようなプレゼンテーションやワークショップを開催できていれば、配属先を巻き込んだ活動ができたかもしれません。ツアーを提案する際も、このツアーが観光課にどんなメリットをもたらすのか、もっと詳細に話をすることができれば、配属先も真摯に取り組んでくれたのではないかと今振り返れば思いますが、当時は度重なる観光課長の交代と人手不足の現状を見て難しいと考えていました。配属先との連携に捉われず、配属先以外の観光団体に積極的に足を運んでいれば、観光ツアーの継続的な開催など活動の幅を広げることができたのではないかと思います。

他隊員の分析

悩みに捉われず、誇りを持って

 中南米の観光業では主に欧米からの観光客を誘致しているので、日本人の自分だからできる活動を見つけるのは難しいですよね。「結局目の前のことをやるしかない」という葛藤は私にもありました。配属先で自分ができること、やりたいことを共有する機会をつくれれば改善したかもしれません。しかし、配属先に実施した活動を反対されなかったのであれば、そこまで後悔する必要はないと思います。観光業はいつどこで芽が出るかわかりません。いつか、志賀さんがかかわった現地の人が地域観光に大きく貢献したり、観光客に感動を与えたりするときが来るかもしれません。
文=協力隊経験者
●中南米・観光・2016年度派遣
●取り組んだ活動
観光開発公社にて、ヘリテージツーリズムや地域主体の観光促進に従事。地域素材を利用したお土産品の製作と販売を支援するワークショップの開催、町の歴史を紹介する案内看板の設置アドバイス、地域住民の啓発クイズ大会の支援などを行った。

「焦り」は禁物! 「知る」ことから始めよう

 私も赴任当初、配属先に新しい授業の提案を受け入れてもらえず、自分一人で活動を始めてしまったことがあります。しかし、それでは何も残らないと思い、焦る気持ちを抑え、まずは同僚とのコミュニケーションを重視するようにしました。そのおかげで、双方のやりたいことを理解し合え、配属先の協力を得て授業ができました。周りを巻き込み協働するには、ヒアリングと自分をアピールすることが大事です。企画提案時に時間をかけてでも話し合いの機会を見つけ、会話を重視することができていたら、また少し違う結果が得られたのではないかと思います。
文=協力隊経験者
●アジア・観光・2016年度派遣
●取り組んだ活動
職業訓練校のホテルコースにて、教師への技術指導と授業改善を中心に活動。また、生徒に対しホテル業に必須である英語の授業を行う。その他、市内のホテルや大学でも技術指導やホスピタリティについての理解を深める活動を行った。

志賀さん基礎情報





【PROFILE】
1984年生まれ、新潟県出身。2005年、県立新潟女子短期大学英文学科を卒業後、東日本旅客鉄道株式会社新潟支社に入社。18年1月、青年海外協力隊員としてペルーに赴任。20年1月、帰国。現在は、休職していた会社に復職し、乗務員として働いている。

【活動概要】
ラ・リベルター州トルヒーヨ市を中心に観光客誘致のため、以下の活動を行った。
●外国人観光客誘致のための記事の作成やインスタグラム開設による広報活動
●観光サービス事業者向けのプレゼンテーションやワークショップの実施
●観光サービス事業者向けの日本語教育の強化

知られざるストーリー