JICA Volunteers’ before ⇒ after

小谷枝薫さん(キルギス・手工芸・2014年度2次隊)

before:手芸用品メーカーの営業事務
after:防災関連団体の事務局員

「協力隊に参加したことで、自分自身の心の持ち方にも、人からの評価にも変化があり、以前より生きやすくなったと感じています」。キルギスで活動した小谷さんはそう話す。
「協力隊参加前は就活に失敗し、人間関係で苦しみ、自信がなかったので、『働くことに向いていないんじゃないか』『日本社会に適応できない不適格者』と落ち込んでいました。でも、異文化の中で現地の人とぶつかりながらも乗り越えた経験が自信につながり、周囲からも良くも悪くも『協力隊に参加するくらい思い切りのある人』と思われるようになって、自分らしく過ごしやすくなりました」

国際協力は特別な人のもの

キルギスで協力隊員として活動する小谷さん(後列右端)と、地域組合エルアイウムの女性たち

 小谷さんが国際協力に興味を持ったのは大学時代。国際協力を学ぶ同級生の話に惹かれ、フィリピンの山奥にある集落を訪れたときだ。初めて触れた異文化での生活が刺激的だったことに加え、現地語を巧みに使い現地の人のために活動をする日本人を見て、国際協力に強い関心を抱いたという。とはいえ「国際協力は専門で学んだ人のもの」と進路として考えることはなく、卒業後は趣味の手芸を生かし、手芸用品メーカーに就職した。
 しかし、就職先で人間関係に悩む日々が続く。人に相談しても、返ってきた答えは「仕事はみんな大変。石の上にも3年」。「辛くても3年はがんばろう」と踏ん張り、その間にやりたいことを真剣に考えるようになる。心に浮かんだのは異文化での生活とそこで活動していた日本人の姿だ。協力隊に参加すれば異文化の中で生活でき、また手工芸職種であれば貢献できることもあると感じ、協力隊に応募。3年間働いて退職し、キルギスで手工芸隊員として活動することになった。
 一村一品運動で手工芸プロジェクトにかかわる地域組合の女性たちを対象に、製品の品質向上と新商品の開発の支援をする活動に取り組むことになった小谷さん。
「『よく言えば素直』な女性たちとの関係づくりには苦労もありましたが、日本で悩んだことと比べればかわいいワガママだと思えることも(笑)。彼女たちとぶつかりながらも話し合って活動を進めていきました」
「でも基本は気持ちの良い方たち」と現地でかかわった人たちのことを話す。シルクロードの交易地でもあったキルギスには、昔から旅人をもてなす文化がある。活動では考え方が異なっても、皆、小谷さんを家に暖かく迎え入れ、食事を共にした。キルギスの大自然にも心が癒やされたという。キルギスが大好きになり、この国で生活する方法も模索し始めた頃、任期が満了し、帰国することになる。

メキシコで開催された「UNDRR(国連防災機関)Global Platform2017」でのARISE(民間企業グループ)の展示ブース

2018年にモンゴルのウランバートルで開催されたアジア防災閣僚会議に参加したキルギス代表者(右)と小谷さん(左)

仙台で開催された世界防災フォーラム2019に出展したJBPブース

日本の防災技術を世界に

 国内外どちらで働くか悩んだ理由には、前職の経験から、日本で働くことにネガティブな印象があったことも関係している。しかし、隊員仲間から多種多様な職場の話を聞いたことで「日本で働くこと=不幸、ではない」と思えるようになった。そして、JICA進路相談カウンセラーと相談を重ね、今後のキャリア形成を考えた上で選んだのが、日本の団体「日本防災プラットフォーム(以下、JBP)」だ。JBPは、防災技術を保有する日本企業が集う会員団体で、優れた防災技術を国内外にビジネスを通して展開することで、世界の災害リスク削減に貢献している。
「防災が自分には関係ないと言える人は世界中に誰もいません。国内で働いても、キルギスの人を含め世界中の人にかかわりがある仕事だと思い、現職を選びました」
 現在は、法人運営にかかわる理事会や総会などの準備・開催に加え、会員企業・団体の防災技術を世界にアピールするJBPのウェブサイト運営、また、防災に関する二国間会議や国際会議などが開催される際は、会員企業・団体の発表とブース出展の調整などさまざまな業務に携わっている。
「昨年は、キルギスの防災・教育関係の政府職員が研修のために来日した際、民間企業セッションのアレンジにかかわることができました。この仕事をする中で、キルギスの防災にも何らかの形で貢献したいという思いがあったので、JBPの会員企業による防災技術のプレゼンテーションをアレンジでき、『この仕事をしていてよかった』と思いました」
 新型コロナウイルス感染症が拡大する前は国際会議に参加するなど、海外に行く機会も多かった。そんな小谷さんの仕事振りを見たJBPの会員企業の方から「海外でも落ち着いた対応ができるのは協力隊経験者だからなんだね。うちでも協力隊経験者を採用してみようかな」と伝えられたときは、「本当に嬉しく感じた」という。
 私生活ではキルギス情報の発信を続けている。隊員経験者が集まり、キルギスの楽器「コムズ」の演奏や、文化紹介と料理の提供をセットにしたイベントなども開催した。
「今後もキルギスファンのひとりとしてキルギスの魅力を伝え続けたいと思っています」






小谷さんのプロフィール

【before】
[1988]
埼玉県出身。
[2011]
3月、津田塾大学学芸学部英文学科卒業後、手芸用品メーカーに就職。

【JICA Volunteer】
[2014]
10月、青年海外協力隊に参加(協力隊への参加には「井戸を掘れるくらいの体力が必要なのでは?」と不安を感じていたが、募集説明会に参加して隊員経験者と話したことで、不安が解消され、応募に踏み切った)。キルギスのイシククリ州カラオイ村にある地域組合エルアイウムに配属され、一村一品運動の推進活動として、新商品の開発と、品質の向上に携わる。フェルト商品の開発や、商品化に必要な作業用の仕様書、品質管理マニュアルの作成などを行う。
[2016]
9月、帰国。

【after】
[2017]
4月、一般社団法人「日本防災プラットフォーム」に入社(海外の仕事にも内定をもらっていたが、日本での職務スキル獲得を重要視したこと、また職場見学で人間関係の良い環境だと知ったことで、現職を選んだ)。

一般社団法人 日本防災プラットフォーム(JBP)
設立:2014年6月4日
住所:東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門1006号
活動概要:民間主体、産官学連携の防災プラットフォームとして、世界の災害による被害を削減することに、企業が事業を通じて貢献することを推進する

知られざるストーリー