拡充を進める「一元的相談窓口」の
担い手として期待

話=田平浩二さん
出入国在留管理庁 在留管理支援部 在留支援課長

日本への外国人の受入れに関する環境整備を政府全体で推し進めるプラン「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が、2018年12月に関係閣僚会議で決定された。その総合調整機能を担う出入国在留管理庁に、プランの概要や、協力隊経験者がその実施の担い手となることへの期待などを伺った。

政府全体で進める対応策

たびら・こうじ●1968年生まれ、福岡県出身。93年、労働省(現・厚生労働省)に入省。長崎県産業労働部政策監、厚生労働省雇用均等・児童家庭局均等政策課均等業務指導室長、内閣府男女共同参画局推進課長、厚生労働省大臣官房参事官等を経て、2020年9月より現職。

 近年、日本に住む外国人の数は増加傾向にあります。コロナ禍で今年6月末の人数は昨年末より減少していますが、昨年末には各年末の人数で過去最高の約293万人を記録しました。5年前の約1.4倍に当たる数字です。国籍は中華人民共和国、韓国、ベトナムが多く、全体の約57パーセントを占めます。なかでもベトナム人の増加が顕著で、5年前の約4倍の人数となっています。在留資格で多いのは「永住者」「技能実習」「留学」で、全体の約53パーセントを占めます。特に増加が顕著なのは「技能実習」で、人数は5年前の約2.5倍で、全体の約14パーセントを占めています。昨年4月の改正「出入国管理及び難民認定法」の施行で「特定技能」(*)という在留資格が創設されたことも踏まえますと、コロナ禍が収束した後には、外国人住民の増加傾向はさらに強まっていくことも見込まれます。
 そうしたなか、外国人の受入れに関する環境整備を政府全体で推し進めるべく、2018年7月にそのための基本方針が関係閣僚会議で決定されました。外国人の在留や人権擁護などを所管する法務省が司令塔的機能を担いながら、関連府省が連携し、地方自治体と協力しながら取り組んでいくこととされています。この基本方針に基づき、同年12月には「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下、「総合的対応策」)という具体的施策のプランが閣議決定されました。「生活者としての外国人に対する支援」「外国人材の適正・円滑な受入れの促進に向けた取組」「新たな在留管理体制の構築」といった柱で構成されるものです。昨年4月には、法務省の内部部局だった入国管理局が出入国在留管理庁(以下、入管庁)へと改編され、「総合的対応策」の総合調整機能を担うこととなりました。

* 特定技能…農業や介護など、人手不足が深刻な産業分野で即戦力となる外国人に認められる在留資格。

相談体制の整備

 入管庁の在留支援課は、「総合的対応策」の中の「生活者としての外国人に対する支援」に盛り込まれている「相談体制の整備」などを担当しています。その施策の1つとして取り組んでいるのが、「外国人在留支援センター(FRESC〈フレスク〉)」 の運営です。法務省、厚生労働省、外務省、経済産業省という4省の計8機関がワンフロアに詰め、在留資格や就職、ビザなど、各機関が所管する行政サービスやその情報を、訪れた外国人住民に一元的に提供できるようにした施設で、今年7月にオープンしました。9月からは、期間限定で14言語に対応するフリーダイヤルの電話相談窓口を設け、新型コロナウイルス感染症の影響で直面している生活の困難に関する相談にも応じています。
 FRESCはあくまで国の機関を集約したものですが、外国人住民が受けられる行政サービスのなかには、生活困窮対策など、地方自治体が制度の実施主体となっているものも多くあり、外国人の状況に応じて対応の可否もさまざまです。そのため、地方自治体にも外国人住民からの相談を一元的に受け付けるような機能が備わっていることが望まれますが、国では一昨年度からその促進を目的とした施策を実施しています。
 その1つは、「外国人受入環境整備交付金」という財政的な支援です。外国人住民を対象とする一元的相談窓口の設置にかかる費用の全額、運営にかかる費用の半額を、一定の限度額のなかで国が負担するというもので、今年9月の時点で交付決定をしている地方自治体の数は189にのぼります。
 もう1つは技術的な支援で、全国11カ所の地方出入国在留管理局とその支局に配置した「受入環境調整担当官」が、一元的相談窓口の設置・運営に関する助言、あるいは実際の相談対応などにあたっています。外国人住民が集住する地域の地方自治体のなかには、以前から一元的相談窓口を設けているところもあり、そうした地方自治体には、一元的相談窓口の運営に関するノウハウの蓄積があります。また、相談者が同じことを何度も説明する必要がないよう、最初に相談対応した機関が他機関に対応を委ねる際に、どのような情報をどのように伝えるかといったノウハウも重要です。FRESCでもそうしたノウハウを蓄積していき、地方自治体が蓄積しているノウハウと合わせて、新たに窓口を設けた地方自治体に共有していくことが重要だと考えています。

協力隊経験者への期待

 JICA海外協力隊の経験者には、地方自治体が設置する一元的相談窓口の相談員としてご活躍いただけるのではないかと思います。海外での生活を経験し、外国人とのコミュニケーションを図ってきた経験は、外国人のことを理解した的確な助言に生きると思われますし、外国人住民からの信頼も得やすいと思われるからです。
 また、相談業務では、相談者と信頼関係を築くことがきわめて重要です。日本人同士の間でも同様ですが、信頼していない人からの助言は、なかなか受け入れにくいものです。例えば、一元的相談窓口で「この部署に相談してみてください」と勧められても、、相談員への信頼がなければ、勧められた部署への連絡を躊躇してしまうこともあるでしょう。海外での経験を生かして、担当部署とのそうした橋渡し役となり、一元的相談窓口と担当部署との間の連携を推進していただくことも期待できると思います。
「自分の語学力のレベルで対応できるだろうか」という不安を感じる協力隊経験者もいらっしゃるかと思います。もちろん、外国語の力は相談員にとって1つの強みにはなりますが、地方自治体の一元的相談窓口は多言語に対応するため、三者通話のシステムを使うなどして通訳者を入れて相談に応じるのが一般的になっています。
 一元的相談窓口の相談員には、「一元的」であるがゆえに、外国人住民にかかわりがある制度の幅広い知識は不可欠です。そうした知識は勉強して身につけることができますが、勉強だけで身につけることができないのが、外国人との交流経験です。一元的相談窓口の相談員になっていただく協力隊経験者の方々には、単に相談対応にあたるだけでなく、協力隊を経験していないほかの相談員に対して、あるいは担当部署の担当者のなかには外国人住民への相談対応に不安や苦手意識を持っている方もおられると思いますので、そうした担当者に対して、助言をする役割も果たしていただけるのではないかと期待しています。

知られざるストーリー