海外経験を基盤に
日本で働く外国人の行政手続きを支援

話=寺澤孝和さん
●テラ行政書士事務所 代表
●青年海外協力隊経験者(エクアドル・野菜・2003年度3次隊)

協力隊をはじめとする外国暮らしの経験を生かし、外国人住民の支援をメインのフィールドとする行政書士として働く寺澤さん。強みとなっているのは、自らが外国人として働いた経験で得た、日本で働く外国人の状況を察する力だ。






PROFILE

てらさわ・たかかず●1979年生まれ、愛知県出身。名城大学農学部を卒業後、2004年4月に青年海外協力隊員としてエクアドルに赴任。06年4月に帰国。短期派遣の青年海外協力隊員(ドミニカ共和国・病虫害・2007年度派遣)を経て、切り花の専門商社の社員として、マレーシアの農場の経営などに従事。18年に行政書士の資格を取得し、愛知県でテラ行政書士事務所を開設。

協力隊時代●ボリーバル州サンミゲール市にある農業高校に配属され、野菜栽培の授業の支援や、周辺の先住民農業者を対象とするサツマイモやダイコンなどの栽培普及に取り組んだ。右写真は、指導対象の先住民農業者たちと寺澤さん(左端)。


−−行政書士として携わっている仕事の概要をお教えください。

行政書士として業務の依頼を受けているペルー国籍のジェイミーさん(左)と寺澤さん。愛知県名古屋市で中南米料理の店を構える男性だ

 行政書士は、官公署(*)に提出する書類、あるいは「権利義務」や「事実証明」に関する書類の作成やそれに関する相談などを行うことが認められた国家資格です。扱える書類の分野は多岐にわたるため、お客様を獲得するためには、得意なフィールドを絞って打ち出すことが必要です。私は短期出張や長期滞在、協力隊を含めると、コロンビア、エクアドル、ペルー、ブラジル、ドミニカ共和国、メキシコ、パナマ、フィリピン、マレーシア、タイ、台湾の11カ国で、スペイン語と英語を使って仕事をした経験があります。そこで、「スペイン語と英語で外国人に対応できること」を第一の売りとしており、ウェブサイトも日本語、スペイン語、英語の3言語のものを設置しています。そのほか、これまでに携わってきた仕事に関連する「建設業」や「農業」、「貿易」もあわせて売りにしています。

* 官公署…省庁、都道府県庁、市・区役所、町・村役場、警察署など。

−−外国人住民からは具体的にどのような依頼が多いのでしょうか。

 もっとも多いのは、在留期間更新許可や在留資格変更許可、永住許可などの在留資格に関する申請です。そのほか、ご自身で事業を始められる外国人住民もいらっしゃいますので、その際に必要な会社設立や建設業許可の申請などに関する依頼をいただくこともあります。依頼主の国籍は、スペイン語で対応している国ではペルー、パラグアイ、アルゼンチンなど、英語で対応している国ではインド、スリランカ、パキスタン、中華人民共和国、ベトナムなどが中心です。その立場も、研究所の調査員、大学の教員、会社経営者、工場に勤務されている日系人などさまざまで、在留資格もそれぞれ「高度専門職」「教授」「経営・管理」「定住者」と異なっています。

−−外国人住民から依頼を受ける手続きは、やはり本人が自力で進めるのは難しいものなのでしょうか。

 日本の官公署に提出する書類のほとんどは日本語になります。それは、読み書きができない外国人にとっては非常に高いハードルだと感じます。日本語を話すことはできるけれども、読み書きは苦手だという方は少なくないからです。日本語を話すことはできるけれども、読み書きは苦手だという方は少なくないからです。また、官公署に提出する申請書類などは、書き方や準備する書類によって不許可となることもあり、専門家のサポートを受けずにそれを避けるのは難しいでしょう。そもそも、手続きをする機関は法務局や公証役場、市役所などさまざまで、日本人にとってもわかりづらく、外国人がその情報を得るのは容易ではないと思います。
 そうしたなか、外国人に関する手続きを専門の1つとしている行政書士は少なくありません。しかし、行政書士自身が外国語で対応できる事務所は少なく、通訳者を利用されているようです。外国人住民が依頼される手続きは彼らの生活のその後を左右する重要なものが多いことから、自分の母語が話せる行政書士のほうが安心できます。そうした理由で、開業してまもない私でもご依頼いただけているのではないかと感じています。外国人が経営する地元のレストランや企業に飛び込み営業をすることもありますが、多くは私の事務所のウェブサイトやSNSを通してのご依頼です。

−−協力隊経験は今の仕事にどのように影響しているとお感じになっていますか。

 私はエクアドルとドミニカ共和国で協力隊員として活動しました。どちらもスペイン語圏の国で、活動は農業に関連したものです。協力隊時代に、現地の農家を飛び込みで訪ね、指導させていただいた経験が、今の仕事に役立っていると感じています。取引先の新規開拓は、何度も門前払いを受けながら進めていかなければなりませんが、協力隊時代にそれに近い経験をし、精神的にタフになったからこそ、こなせているのだろうと思います。また、相手の習慣や考え方などを尊重しつつも、こちらの考え、できること、できないことを明確に伝えながら、相手の要望に応える努力をした協力隊時代の経験も、やはり行政書士の仕事に生きています。私のお客様の多くは外国籍の方で、習慣や考え方はさまざまです。そうしたなか、「日本にいるのだから、こうしなければならない」という考え方を押し付けるのではなく、それぞれのお客様に合った対応を心掛ける。一方で、はっきりとさせなければならない点は明確に説明する。外国人と働くときに必要なそうした姿勢を保てるのは、やはり協力隊の経験があったからこそだろうと思います。
 また、協力隊を含め、さまざまな国で働いてきた経験によって、私はおそらく日本で働く外国人の方々が置かれている状況を察する力が付いたのではないかとも感じています。マレーシアで働いていたときには、経営が傾いていた農場を立て直すために現地の従業員の方々を解雇したことがあります。それ以来、家族のために働いていた彼らのためにほかにできる方策があったのかもしれないという自責の念を持ち続けています。一方、日本の企業の社員としてコロンビアで新規取引先を探す業務を行っていた際には、営業に回った先々で、外国人だとわかると怪訝な顔をされ、心細さを感じるという経験もしています。そうした経験をベースに、今、日本で暮らす外国人の方々が置かれている状況をできるだけ正しく把握しようと努めながら彼らに対応しています。すると彼らの信頼が生まれ、何か困ったときにとりあえず私に電話を掛けてきてくれる方も増えてきています。今後もそのような信頼関係を多くの外国人住民との間に築いていきながら、彼らに日本で安心して楽しく暮らしていただくための力になれればと思っています。

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