コロナ禍による一時帰国を振り返る
[座談会]一時帰国中の協力隊員が取り組んだ活動

座談会参加者

道願正歩さん(パナマ・作業療法士・2018年度2次隊)

1993年生まれ、高知県出身。大学卒業後、作業療法士としてリハビリ病院に約3年間勤務。退職後の2018年10月、青年海外協力隊員としてパナマに赴任。特別支援学校に配属され、発達障害を呈する児童への作業療法などに従事する。20年3月に一時帰国し、同年8月に任期短縮をして終了。現在は作業療法士として再びリハビリ病院に勤務。

近藤幸恵さん(カンボジア・看護師・2018年度2次隊)

1984年生まれ、新潟県出身。短期大学卒業後、看護師として総合病院に約13年間勤務。退職後の2018年10月、青年海外協力隊員としてカンボジアに赴任。病院に配属され、5S活動や院内感染防止対策の支援などに従事する。20年3月に一時帰国し、同年10月に任期終了。現在はカンボジアにかかわる仕事に就くことを目標に就職活動中。

宮田峻弥さん(ガーナ・小学校教育・2018年度1次隊)

1995年生まれ、群馬県出身。大学卒業後の2018年6月、青年海外協力隊員としてガーナに赴任。地方にある2カ所の教育行政機関に配属され、管轄下の小・中学校における算数と理科の授業の支援などに従事する。20年3月に一時帰国し、同年6月に任期終了。現在は国際協力に関係する仕事に就くことを目標に就職活動中。


道願さんが一時帰国中のパナマ隊員たちと共に企画・実施したオンライン活動報告会の画面。発表した協力隊員の職種は、コミュニティ開発、小学校教育、理科教育、栄養士、作業療法士などさまざまだった

配属先である特別養護庁チトレ支部(エレラ県チトレ市)で、発達障害を呈する子どもに手と目の協調運動の訓練を行う協力隊時代の道願さん

高齢者対象の体操教室

編集部 みなさんは、新型コロナウイルスの感染拡大によって一時帰国されている間、日本にいながら派遣国のためにできる活動や、日本国内の課題解決に取り組まれたと伺っています。どのような経緯で、どのような活動に取り組まれたのかをご紹介ください。

道願 私が一時帰国中に取り組んだ活動の1つは、自宅がある地域にお住まいの高齢者の方々を対象に体操教室を開くことでした。帰国して1カ月ほど経ったころ、訪問リハビリや通所型の介護施設の運営がコロナ禍でストップしたため、それらを利用していた高齢者の方々の身体機能が低下しているという問題をニュースで知ったことが、教室を開いたきっかけです。参加してくださったのは10人くらいで、みな近所の知り合いの方々です。月に2回程度のペースで3カ月にわたって実施しました。感染拡大の防止方法は考えどころだったのですが、自宅には換気が十分にできる広めの部屋があったので、そこを会場とし、互いに距離を取って体を動かしていただきました。指導した体操は、テレビを見ながらでもできる簡単なものです。派遣前に作業療法士として集団を対象に体操指導を行った経験はなかったのですが、パナマでは農村部の住民を対象に腰痛予防の体操教室を開く機会があり、対象者の様子を見ながら無理をさせないよう気を付けるなど、その活動を通して身につけたノウハウも生かすことができました。教室の効果を尋ねるアンケートでは、「肩が軽くなった気がする」といった声をいただきました。

近藤 お1人で活動を企画し、実践されたバイタリティはすばらしいと思ったのですが、その原動力はどこにあったのでしょうか。

道願 私自身が体を動かす機会にもなるという点が大きかったと思います。私は帰国直後、とても混乱している状態だったため、健康観察期間をやり過ごすために帰国直前にパナマで買ったゲームばかりをして時間をつぶしていました。すると次第に体重が増え、だるさを感じるようになってきました。また、帰国の直前まであちこちに足を運んで活動に取り組んでいたため、いきなり自宅にこもる生活は相当強いストレスがありました。そこで「どうにかしなければ」と思い、毎日ランニングをするようになったのですが、高齢者の健康問題を知ったのもそのころで、自分自身の健康のためにもなると思い、体操教室を始めました。

「嬬キャベ海外協力隊」の一員としてキャベツの収穫に取り組む宮田さん

配属先であるガーナ教育サービスの東カセナ・ナンカナ郡事務所(アッパー・イースト州)が管轄する小学校で、日本文化紹介の授業を行った協力隊時代の宮田さん

人手不足の農家の支援

編集部 宮田さんが一時帰国中に取り組まれた活動も、日本国内の課題解決に関するものだったと伺っています。

宮田 技能実習生がコロナ禍で来日できなくなり、人手不足になってしまった群馬県嬬恋村のキャベツ農家で、一時帰国中の協力隊員たちが収穫作業のお手伝いをさせていただく「嬬キャベ海外協力隊」と名付けられたプロジェクトに参加しました。一時帰国中の協力隊員に、再赴任後の活動や任期終了後の仕事に向けて「地域」について学ぶ場をつくるという狙いもあるプロジェクトで、企画したのは同県で地域づくりに取り組むNPO法人自然塾寺子屋でした。プロジェクトの実施期間は、キャベツの定植期と収穫期にあたる5月から11月まででした。順次加わっていく形で計12人の協力隊員が参加したのですが、私は出身が群馬県だったこともあり、スタートの時点で案内をいただき、そこから最後まで参加しました。群馬県で困っている方がいるなら力になりたい、農業の経験は皆無だったので学びも多いだろうといった理由からの参加でした。

編集部 プロジェクトの期間中はどのような生活を送ったのでしょうか。

宮田 嬬キャベ海外協力隊の隊員はみな同じホテルに宿泊していたのですが、収穫がピークとなる2カ月間ほどは、朝3時にホテルを出て、午前中いっぱい収穫作業を行い、2時間の休憩を挟んだ後にキャベツを詰める箱の組み立てを3時間行うというのが、1日のスケジュールでした。そうした生活を通じて、わずかながらも農業について知ることができ、人の役にも立てたというだけでもありがたかったのですが、お世話になった農家にはラオス人の技能実習生が2人いたので、彼らとかかわるなかで技能実習の制度や実情について知ることができたのも、私にとっては大きな学びでした。彼らは英語が話せなかったのですが、日本語の勉強をある程度してから日本に来ているため、翻訳機の力を借りながらであれば、私たち協力隊員とかなり込み入った話題についてもコミュニケーションをとることができました。

道願 技能実習生の方々の労働環境が悪いといった情報を耳にすることがありますが、宮田さんたちが一緒に働かれた技能実習生の方々は、「働く時間が長すぎる」といったネガティブなことを口にされたりしていましたか。

宮田 ほかの農家で働いている技能実習生の話なども聞いたことがあるのですが、技能実習生は受け入れ先の農家によって満足度が大きく異なってくるそうです。私たちがお世話になった農家は非常に従業員思いの方だったため、一緒に働いた技能実習生たちは「もっと農業について学びたい」というポジティブな意欲を持ちながら作業に取り組んでいました。

近藤さんが一時帰国中のカンボジア隊員たちと制作した手洗いの啓発動画

任地の小学校で手洗いの啓発を行う協力隊時代の近藤さん

派遣国に向けた支援

編集部 近藤さんは一時帰国中、日本にいながらでもできる派遣国への支援に取り組まれたと伺っています。

近藤 私は一時帰国しているカンボジア隊員たちと共に、カンボジアの方々に活用していただくための手洗いの啓発動画を作成しました。適切な手洗いのやり方をダンスによって伝えるもので、使っている言語はカンボジアの現地語であるクメール語です。看護師隊員たちで考えたダンスを、一時帰国したカンボジア隊員など約30人がそれぞれ個別に実演してビデオに収め、パソコンの扱いが得意な協力隊員が1本の動画に編集するといった役割分担でつくりました。私は帰国してしばらくは、気持ちがもやもやとし、前に進む意欲が湧かなかったので、自宅で心おきなくひきこもりの状態を楽しむことにしたのですが、そうした状態が1カ月も続くと、自然と「このまま何もしないでいるのはいけないだろう」と思うようになりました。そうして、一時帰国しているカンボジアの看護師隊員たちと「日本にいてもカンボジアのためにできることはないだろうか」と相談するなかで持ち上がったのが、この動画制作の企画でした。8月に完成し、YouTubeとJICAカンボジア事務所のFacebookページにアップロードしたところ、1カ月ほどの間に1万回以上閲覧していただくことができました。私の配属先病院の同僚たちは、アップロード後すぐにシェアをし、「良い啓発教材になると思う」といったコメントをくれました。

道願 動画の制作に必要な隊員間のやりとりは、やはりオンラインで進めたのでしょうか。

近藤 そうです。初めての経験でしたが、話し合いもデータの共有もさほど困難を感じることはなく、オンラインでできることは意外に多いのだなと実感しました。

道願 私も一時帰国中、同じく一時帰国中のパナマ隊員たちと共にオンラインという手段を使った活動に取り組みました。一時帰国したパナマ隊員の有志6人が発表者となる、日本の方々に向けたオンライン活動報告会の開催です。活動報告をすることは、自分自身の活動を整理し、次に向けて気持ちを新たにする機会になり、活動報告会の様子を動画に収めてパナマの同僚たちに送れば、パナマと日本とのつながりを彼らに実感してもらうツールにもなるだろうとの考えから企画したものでした。JICAパナマ事務所にも広報などでご協力いただいた効果もあって、協力隊経験者、協力隊員の派遣前の職場の方、学生など、参加者は90人にのぼりました。報告会の準備もすべてオンラインで進めたので、やはり私もオンラインの可能性の大きさを感じました。

近藤 オンラインは確かに離れた場所にいる人たちが協働することを可能にしてくれますが、私は動画制作の活動を通じて、協働する人が多くなればなるほど、やはり作業を進めるスピードは遅くなってしまうのだということも実感しました。ダンス用の曲はカンボジアの人が好むタイプのものが良いと考え、カンボジアの音楽制作会社がつくった曲を使わせていただくことにしたのですが、そのやりとりに手こずったことで、完成までに3カ月ほどを要してしまいました。コロナ禍の最中ですから、手洗いの啓発などはできるだけ早く始めるべきだったので、その点に反省も残りました。刻々と状況が変わっていくなかでは、道願さんが取り組まれた体操教室のように、小規模であっても、必要なときにすぐ実践できる活動の意義は大きいと思います。

道願 小規模な活動には、運営に小回りが利く反面、効果は限定的になってしまうというデメリットもあるかと思います。例えば、私が開いた体操教室は対象者の人数も少ないですし、指導した体操をどれだけ継続していただけているかといったモニタリングにも手が回っていません。その点、近藤さんたちがつくられた動画は、カンボジアの音楽制作会社を巻き込んだことで、現地の方々にとってより興味が湧くような教材になっているはずです。社会活動には、規模の違いによってそれぞれメリットとデメリットがあるということなのだと思います。

コロナ禍の受け止め方

編集部 今振り返って、任期の途中で一時帰国をし、そのまま任期終了を迎えざるを得なかったことは、ご自身の協力隊経験にどのような意味を持ったとお感じになっていますか。

道願 もう少しパナマで活動がしたかったという「不完全燃焼感」があるため、おそらくパナマで2年間を過ごすことができた場合よりも、旅行などさまざまな形でパナマにかかわっていこうという意欲は高くなっただろうと感じています。その一方、パナマにいた1年半の間に協力隊員として得たものは確実にありました。その1つは、自分の知識や経験がまだ浅いことを自覚できたことです。私は任期終了の時期を早め、9月からリハビリ病院に再就職して作業療法士として働いているのですが、来年度は大学院に進学し、作業療法についての知識を深めることを考えています。

近藤 私は一時帰国した後も、隊員仲間と共にカンボジアのための活動に取り組むことができたので、自分なりに任務を全うできたという気持ちはあります。それでもやはり、予定どおりにあと半年ほど任地にいることができたらという心残りはあり、それによってまたカンボジアにかかわりたい、国際協力の仕事をしてみたいという気持ちは強くなりました。現在は、それが実現できるような新たな進路を模索しています。

宮田 私は派遣前、任期を終えたら教員になろうと考えていました。しかし、ガーナでの協力隊経験、さらには嬬キャベ海外協力隊で技能実習生とかかわった経験などから、日本と世界をつなぐような仕事をしたいという思いが強まりました。ただ、仕事として国際協力に携わるために必要な学歴や経験などが今の私には足りなすぎます。そこで、まずは今の自分でも就くことが可能な国際協力関連の職から経験の積み重ねをスタートさせたいと考えています。嬬キャベ海外協力隊で一緒に活動した協力隊員の1人が、「コロナ禍があったからこその出会いや経験を大切にしたいよね」と言っていました。考えてみれば、「農業」や「技能実習生」なども、コロナ禍がなければ知らないままになっていたかもしれません。そうした財産を生かした人生にしたいと思っています。

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