“失敗”から学ぶ

隊員主体で授業を進めてしまい、現地に根付く活動にできなかった

文=菅原芽衣さん(セネガル・小学校教育・2017年度3次隊)

セネガルの小学校で図工の授業を行う菅原さん

 何から着手すればよいのかわからなかった赴任直後。活動先の小学校の先生と話していると、多くの先生から「図工の授業をやってほしい」と言われることが多かったため、図工を教えてみることにした。先生がそう言うのには理由があった。先生たちは学校で図工を学んだことがないため、図工のイメージが湧かず、指導書だけでは教えることが難しかったからだ。
 授業前に、一緒に授業をする先生に手本となる作品を見せ、つくり方を教えた。言語が得意ではなかった私は、「言いたいことが伝わらないときは助けてほしい」と先生に頼むと、いつも快諾してくれた。実際に授業で先生は私が言いたいことを汲み取って、子どもたちに説明してくれた。最初は数クラスでの授業だったが、子どもたちとつくった作品を見て「私のクラスでもつくって」と声をかけてくれる先生が増え、ほぼ全クラスで先生と一緒に図工の授業を実施。作品を教室に展示する先生も多く、「教室が華やかになった」と喜んでくれた。
 しかし、先生だけで図工の授業を行うことはなかった。私は「現地の先生には、私がいなくても授業ができるようになってもらいたい」と、赴任3カ月後から彼らだけで図工の授業ができる方法を探した。
 図工の授業には、紙やハサミなど道具や材料が必要だが、学校ではそれらを用意できる資金がなく、各家庭でも用意が難しかった。最初のころは、授業前に私が必要なものを買って用意していた。
「任地にあるものでできる授業にすれば、先生だけで行えるのではないか」と思い、なるべく任地で用意できるものを探した。例えば、子どもたちが食べるお菓子の袋や、テーラーからもらったハギレなどを利用するようにした。このときも、材料は私の活動後や週末に用意した。一緒に授業をすればいつか自発的に実施してくれると思ったからだ。
 しかし、よく考えれば、材料の準備から一緒に始めなければ、彼らは図工の授業を行うことはできないのだ。その頃は、一緒に授業をしてもらいたいという気持ちの方が強く、それに気づけなかった。赴任1年後に、私は図工以外に算数や体育を教え始め、図工を行う回数が減ってくると、彼らから「図工をやろう」と声がかかることもなくなってしまった。

隊員自身の振り返り

 いつも図工の授業の流れや授業に必要な材料を、私だけで考え、用意してしまっていました。私が図工の授業をする姿を見せたら、授業のイメージが掴め、彼らだけでもできるのではないかと考えていました。しかし、彼らは図工の授業をやってみたいというよりは、つくった作品を教室に飾り、教室を華やかにしたいという思いの方が強かったのかもしれません。教室を華やかにするために図工の授業を行っているのではないと伝え、「なぜ図工を行う必要があるか」を教員ひとりひとりに納得してもらってから授業を行うべきでした。また、彼らの希望は「やってほしい」であり、「できるようになりたい」ではないということに気づくべきだったと振り返って思います。

他隊員の分析

じっくり、ゆっくり、相手を知る

 子どもたちは図工の授業を受けることができ、教室を彩ることができた、それだけでも成功だと思います。失敗を挙げるなら、現地教員の事情や状態を把握せずに期待したことです。現地教員も忙しく、隊員がやってくれるのなら任せるのも理解できます。教員が勤務時間外に教材を準備するというのは日本ぐらいだと思いますので、「準備段階から一緒に」という考えも現地に合っていないかもしれません。現地教員の内情を把握したうえで協力者を厳選していけば、活動を定着させてくれる教員に出会えたのではないかと思います。
文=協力隊経験者
●アフリカ・小学校教育・2017年度派遣
●取り組んだ活動
現地の小学校にて、図工教育を中心に活動した。現地の協力者に対して図工授業を教授し、多くの小学校で彼主体の授業を行った。また、他隊員とコラボレーションして体育大会も開催した。

現地にとってのスタートライン

 現地に根付く活動にできなくても、現地の方に図工を楽しませ、喜ばせたことはすばらしいと思います。教室に展示された図工の作品がきっかけで、将来生徒や先生が材料や道具を見つけ、図工を行うことがあるかもしれません。私も派遣中、事例のように活動を現地に残したいと考え、生徒に授業内容を考えてもらうというアプローチをしました。生徒が考えた授業を生徒自らが実施し、どのような授業になっても成功としてほめました。実際にその生徒のひとりから「将来先生になって、こういう授業をしたい」という話を聞き、継続の可能性を感じることができました。
文=協力隊経験者
●アフリカ・体育・2016年度派遣
●取り組んだ活動
体育科教員として運動会、スポーツ大会など現地であまり実施されていないスポーツイベントの普及に加え、町の人たちとの運動会や原爆展などのイベントを開催。授業ではイベント系種目に加え、生徒たちで考えた授業を、生徒たちが先生となり実施してもらった。

菅原さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、岩手県出身。2014年、盛岡大学文学部英語文化学科を卒業後、中学校に勤務。18年1月、青年海外協力隊員としてセネガルに赴任。20年1月に帰国。現在は、中学校に勤務。

【活動概要】
ンバケ県の小学校教員の質の向上を目指し、以下の活動を行った。
●算数、図工の実施
●体育の必要性を理解してもらうため、運動会の実施

知られざるストーリー