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ブラインドサッカーを通じて共生社会の実現を目指す

松尾雄大さん(セネガル・小学校教育・2016年度2次隊)
特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会 事業戦略部法人営業チーム 事業推進部地域推進グループ

「ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現」を目指し、活動する団体「日本ブラインドサッカー協会」。協力隊でブラインドサッカーの魅力を知り、社会がつくり出す障がいを解決する一助になりたいと、同団体で協力隊経験者が働いている。

日本ブラインドサッカーが実施する「スポ育」で小学生にブラインドサッカーを体験してもらう様子。新型コロナウイスル感染症拡大の影響で、生活に制限があるからこそ子どもたちに体験をしてほしいという学校の先生からの要望もあるという (C)JBFA

セネガルのブラインドサッカーの選手と松尾さん。(現在、松尾さんは日本のチーム「パペレシアル品川」の選手としてプレーしている)

セネガルで松尾さんが設立したサッカーチームの子どもたちと隊員時代の松尾さん

ブラインドサッカーとはその名の通り「見えないサッカー」のこと。5人制で行われ、ゴールキーパー以外は視覚障がいのB1クラス(全盲から光覚〈*1〉まで)の選手が、アイマスクを着用して完全に視覚を閉じた状態でプレーする(国内大会では弱視者、晴眼者〈*2〉も出場可能)。ボールは転がると音が鳴る構造で、敵陣のゴール裏に「ガイド」が立ち、ゴールまでの距離を選手に伝えるなど、協力し合って行うスポーツだ。

「指示通りにプレーをするかどうかを最終的に決めるのは選手。ガイドの声をフェイントに使うこともあるんです」

 そう説明してくれるのは隊員経験者の松尾雄大さん。隊員としてセネガルで活動中にブラインドサッカーと出会い、現在は日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)で働いている。

「当会のビジョンは『ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現』。協力隊での経験でスポーツがその社会を実現する可能性を感じました」

 松尾さんは、小学生からサッカーを始め、教員である両親の影響で教員を目指し、教育学部に進学した。協力隊に参加していた大学の友人を通じて興味を持ち、自身も協力隊に応募。セネガルで小学校教育の隊員として活動を始めた。

 セネガルでは、現地教員の指導力向上を目的として授業の改善提案などを行い、それと並行して地元サッカーチームのコーチとしても活動した。活動中に、JICAが実施する「スポーツと開発」有識者派遣事業の一環として実施された「ブラインドサッカーを通じたダイバーシティ教育」が開催された。その際、隊員主催プログラムのリーダーを担当したことが人生を変えた。

「ブラインドサッカーなんて初耳。障がい者スポーツという単語は知っていましたが関心も興味もなく、障がい者は支援される存在、でもどう接したら良いのかわからない、というのが当時の私が障がい者に持つイメージでした」

 ネットで情報を集め、セネガル国立盲学校にブラインドサッカーチームがあると知って訪問。そこには競技場を自由に駆け回る選手と、それを見る地域のサッカー少年の姿があった。

「『私と何も変わらない』と思いました。その後、アイマスクをして練習に参加しましたが、私は選手に全く敵わない。スポーツを通して選手に出会ったことで『障がい』への意識が完全に変わりました」

 プログラム開催日には、日本から派遣されたJBFAの職員と共に活動。配属先の小学校でのブラインドサッカー体験会や交流戦などを行った。当時を振り返って松尾さんは次のように話す。

「ブラインドサッカーは選手である視覚障がい者と、キーパー(※1)、ガイド、監督の晴眼者が協力して行うもの。プログラムを通じて、同じように社会でもお互いが協力して生きていけると伝えることで、共生社会が実現できると感じたのです」

 また、ブラインドサッカーによって選手たちと友達になった松尾さんは、彼らと話すなかで「働く場や社会参加の機会が少ない」という課題も知った。

「友達が困っていたら何かしたいという単純な思い。そして自分の障がいへの考え方を変えて『もらえた』からお返ししたいという思い。そのために自分は何ができるだろうかと考えました」

 出した答えが、JBFAへの参加だ。障がいの課題をスポーツの力で解決できると知った松尾さんは、JBFAのビジョンである「当たり前に混ざり合う社会」の実現に参画できると思ったのだ。

障がいをつくる社会を変える

 現在、松尾さんはJBFAの職員として、学校での体験型ダイバーシティ教育プログラム「スポーツを通した人材育成(スポ育)」の講師やブラインドサッカー大会の演出、法人営業などを担当している。スポ育では、日本国内の小・中・高校を視覚障がい当事者である選手と一緒に訪れ、児童・生徒たちにブラインドサッカーを体験してもらっている。JBFA全体では年間約600件を実施し、松尾さんも年間100件ほど担当。障がいを知る入り口の重要性を理解しているからこそ、体験会では選手に前面に出てもらい、児童・生徒とかかわる機会を大切にしている。

 そして、ブラインドサッカーだけでなく障がい者スポーツを通じた社会貢献や国際協力での活用の広がりにも、今後注目してほしいと松尾さんは話す。

「障がいのある人だけではなく、誰もがかかわり合える、つながり合える場になるというのが障がい者スポーツ。異なる視点からスポーツの新しい活用方法を考えていくのも楽しいと思います。ブラインドサッカーであれば共生社会を体現した場を体験できるので、まずは皆さんも体験してください(※2)」

 これまでの経験をつなげ、将来セネガルに基盤を置いた活動をしたいと、松尾さんは2020年に団体(※3)を設立した。

「セネガルの人と共に生活しながら、障がい者スポーツを活用して仲間を集め、障がい当事者が主体となって社会に参加できる活動をしていきたいです」

*1 光覚…光を感じられる。
*2 晴眼者(せいがんしゃ)…視覚障がいのない人。

※1 キーパーは弱視者も可。
※2 詳細は日本ブラインドサッカー協会ウェブサイト「体験・プログラム」 をご覧ください。
※3 スポーツを通じてセネガルの障がいに挑み、共に障がいなき世界を目指す団体 『WITH PEER』。

〜松尾さんが伝える〜
「ブラインドサッカー」の魅力!

 ブラインドサッカーの面白さは次の3つ。
(1)激しくぶつかり合いながら、自由に駆け回る選手たちの姿。
(2)選手と晴眼者(キーパー〈弱視者も可〉、監督、ガイド)とのコミュニケーション(声かけ)。
(3)観戦者は観戦中は静かに、ゴールが入ったときには思いっきり盛り上がる。
 アイマスクをした選手たちが自由にピッチを駆け回り、ボールを追いかけ、相手選手やフェンスなどと激しくぶつかり合っている姿は見所のひとつ。そしてゴールが入ったときに観客も一緒になって喜ぶ瞬間は、障がい者スポーツでありながら障がいはなく、まさに共生社会を体現した場を感じられると思います。

[プロフィール]

まつお・ゆうだい●1992年生まれ、福岡県出身。長崎大学教育学部を卒業後、2016年9月、青年海外協力隊員としてセネガルに赴任。小学校での算数の学力向上のため、教員向けに算数のモデル授業の映像教材制作などを行う。18年9月、帰国。その後、ミャンマーでデフ(聴覚障がい)サッカーのインターンを経て、19年から現職。

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