アフリカに再赴任し経済的自立の支援に従事

[BEFORE]大学院生
[AFTER]国際協力団体の駐在員(NPO法人テラ・ルネッサンス)

大学院で国際協力について研究した後、新卒で協力隊に参加した古岡さん。任期終了後の仕事に選んだのは、協力隊時代と同じアフリカで貧困層住民などの経済的自立を支援することだ。

古岡 繭さん
(ルワンダ・コミュニティ開発・2014年度1次隊)




[古岡さんプロフィール]
1989年生まれ、兵庫県出身。立命館大学国際関係学部を卒業した後、神戸大学大学院国際協力研究科修士課程に進学し、ウガンダの元子ども兵の経済的自立について研究。2014年に修了し、同年7月に青年海外協力隊員としてルワンダに赴任。東部県ンゴマ郡の郡庁に配属され、協同組合の設立・運営の支援などに取り組む。16年7月に帰国。17年4月、国際協力事業に取り組むNPO法人テラ・ルネッサンスに就職。同年9月からブルンジに駐在。


アフリカとの出合いは学生時代

【JOCV】任地の職業訓練校で「ビジネス」について学ぶワークショップを行う協力隊時代の古岡さん

「海外」を意識し始めたのは高校時代。「英語」と「世界史」が得意だったからだ。進学したのは立命館大学国際関係学部。国際的な仕事をするには修士号を取得しておくと有益だという両親の勧めもあり、卒業後は神戸大学大学院国際協力研究科に進んだ。修士論文のテーマにしたのは、2000年代まで20年あまりにわたって続いたウガンダの内戦で「子ども兵」とされた人たちの経済的自立だ。これを選んだきっかけは、古岡さんが現在所属するNPO法人テラ・ルネッサンス(以下、「テラ」)との出合いだった。
「テラ」は、カンボジアの内戦で残された地雷の撤去支援や、ウガンダの内戦で子ども兵とされた人の経済的自立の支援などに取り組む団体。古岡さんは大学3年生のときに「テラ」の創業者の講演を聴く機会があり、「元子ども兵の経済的自立」という課題に興味を抱く。その後、大学院への進学を決めたことから、勉強の機会になると考えて「テラ」のインターンとなり、大学院を修了するまで京都市内にある事務所に通った。大学院に入った年の夏休みには、「テラ」のインターンとしてウガンダの事業地に行き、支援対象だった元子ども兵へのインタビューを経験させてもらう機会があった。それにより「元子ども兵の経済的自立」という課題への興味がさらに強まったことから、修士論文のテーマとしたのだった。
 研究では、「テラ」の支援を受けたウガンダの元子ども兵たちを調査対象とし、彼らの経済的な自立にはどのような支援が有効なのかを分析。職業訓練の機会を提供するだけでなく、「元加害者」として見られるストレスを緩和する心理社会的支援を合わせて行うことが必要だという結論を導いた。
 大学院修了後の第一歩として選んだのは、協力隊への参加。「テラ」の職員には、代表者を含めて協力隊経験者が多く、インターンをするなかで彼らの体験を聞き、興味が募ったからだった。派遣されたのはルワンダの郡庁。農家や若者の収入向上を目的として、ビジネスに取り組む協同組合の設立や運営を支援することが主な活動だった。任期中、古岡さんの後押しによってレンガと石鹸の製造・販売を行う協同組合がそれぞれ1つずつ発足。いずれも職にあぶれていた若者たちによる組合だった。

プロジェクトマネージャーに

「任期終了後はうちでアフリカの事業に携わってくれないか」。「テラ」の代表者からそう声を掛けられたのは、協力隊の任期が残り半年ほどとなったころだった。アフリカにかかわり続けることができる点と公益性が高い点で、古岡さんにとって魅力的な仕事だった。そうして入職を決意。京都やウガンダの事務所での研修を経て、ブルンジの駐在員に着任したのは、協力隊の任期を終えて1年あまり経った17年9月だ。
 当時「テラ」がブルンジで進めていたのは、18年3月までの3年間を実施期間とするプロジェクト。1993年から15年あまりにわたって続いた内戦で家族を失うなどした被害者や貧困層住民を対象に、経済的自立に向けた支援を行うものだ。養蜂や窯業などの職業訓練の提供や、その受講後に協同組合を設立してビジネスを開始するための後押しなどが、具体的な内容である。対象地域は、内戦の影響が特に大きかったキガンダ郡の1つの村。古岡さんはこのプロジェクトが終わるまでの約半年間、プロジェクトマネージャーだった「テラ」の代表者のサポートにあたった。18年4月には、対象地域をキガンダ郡全域に拡大する形でこのプロジェクトを引き継ぐ新たな3年間のプロジェクトがスタートし、古岡さんはそのマネージャーに着任。以来、同国で唯一の日本人駐在員として、現地スタッフたちと共に運営にあたってきた。

「誇り」や「生きがい」

【AFTER】「テラ」の職業訓練で洋裁を学んだ後、テーラーとして自立した受講者(左手前)を訪ねる古岡さん(右)と「テラ」の現地スタッフ

【AFTER】「テラ」の職業訓練で養豚を学んだ受講者やその家族たちと

 協力隊経験は随所で現在の仕事につながっている。ブルンジで使われているキルンディ語は、古岡さんが協力隊時代に使っていたルワンダのキニアルワンダ語と非常に似ているため、難なく習得できた。また、協同組合の法制度も両国で似通っているため、ブルンジでの協同組合の設立支援に苦労はなかった。現在の仕事にとって特に重要な協力隊経験の財産だと感じているのは、「現場を知ることの大切さ」への理解だ。協力隊時代、支援対象の協同組合のもとに繰り返し足を運び、メンバーとのコミュニケーションを重ねたことで、組合の運営で一番の鬼門となっているのが「メンバー間の人間関係」であるという事情が見えてきた。そうした経験があるため、現在の仕事でも、支援対象者が職業訓練を欠席した場合にその理由を突き止めるなど、彼らの個別の事情を知るよう努めている。そうすることで、「家族が病気なので、どうしても日雇い労働をする必要が出てきた」といった事情が判明したときなどは、受講の継続に必要な支援をするなど、きめ細かな事業運営が可能となっている。
 研究、協力隊活動、「テラ」での仕事の3つに一貫しているのは、「経済的な自立」にかかわるものであるという点だ。国際協力には「保健・衛生」などさまざまな分野があるが、「経済的な自立」の支援は特に関心が強いと古岡さんは話す。
「『テラ』のインターンとしてインタビューをしたウガンダの元少年兵が、『自分が稼いだお金で家族を食べさせることができるのがうれしい』と話していました。『自分で稼ぐ』ということは、誇りや生きがいにつながっていくのだろうと思います。だからこそ、それを支援することはやりがいも大きい。『テラ』は一貫して『経済的な自立』の支援を続けている団体ですので、今後もその事業で力になれればと考えています」

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