地域野球チームの練習に
ウオーミングアップや基礎トレーニングを導入

細間 翔さん(グアテマラ・野球・2017年度3次隊)の事例

県野球協会に配属され、同協会の野球チームの指導にあたった細間さん。注力したのは、従来の練習に欠けていた「ウオーミングアップ」や「基礎トレーニング」を定着させることだった。

細間さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、広島県出身。小学1年生で野球を始め、大学時代まで選手として活躍。大学3年生のときに短期派遣の青年海外協力隊員(野球)として1カ月間、グアテマラで活動。大学卒業後、民間企業勤務を経て2017年12月、青年海外協力隊員として再び同国に赴任。19年12月に帰国。

【活動概要】
ケツァルテナンゴ県野球協会(ケツァルテナンゴ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●配属先が運営する野球チームでの指導
●現地のコーチへの指導技術向上支援
●野球の普及を目的とした小学校の巡回


ケツァルテナンゴ県の「11〜12歳」のカテゴリーの部員たちと(後列右端が細間さん)

 細間さんが野球隊員として派遣されたグアテマラは、2020年に開催された野球の世界大会「U‐23野球ワールドカップ」のアメリカ大陸予選で最下位。国技のサッカーをはじめ人気のスポーツは他にあり、野球のレベルの底上げはこれからというなか、細間さんは地方都市でその指導や普及に取り組んだ。
 同国ではグアテマラ政府が野球振興の音頭をとっている。スポーツ連盟自治省(以下、スポーツ省)が首都にグアテマラ野球連盟を置き、さらにその下部組織として、全国に22ある県のうち人口が多い11の県に県野球協会を配置。「11〜12歳」「13〜14歳」といった年代別のカテゴリーを設け、各カテゴリーで県対抗の全国大会を毎年開催している。県野球協会はカテゴリーごとに1チームずつ持ち、1〜3人のコーチが指導。各県の野球場や野球道具はスポーツ省の所有で、部費は無料だ。大会の際の移動や宿泊の費用もスポーツ省の予算で賄われている。
 細間さんが配属されたのは、国内で6番目に人口が多いケツァルテナンゴ県の野球協会。着任当時、全カテゴリーを合わせて約60人がチームに登録し、3人のコーチが指導にあたっていた。練習は火曜日から土曜日までで、時間は1日3時間。細間さんの主な活動は、カテゴリーを超えて部員や同僚コーチへの技術指導を行うことだった。

細間さんの働きかけにより練習に取り入れられるようになった基礎トレーニングの様子

「スモールステップ」を踏みながら

 スポーツ省は毎年県野球協会のコーチたちを首都に集め、指導方法の研修会を開いている。そのため、細間さんの同僚コーチたちは野球の技術や指導方法に関する一定の知識を持っていた。細間さんはそこに欠けている点をフォローすることに注力した。
 着任後、細間さんが配属先の練習で問題だと感じたのは、「ウオーミングアップ」や「基礎トレーニング」の欠如だ。「投げる」「打つ」といったプレーの練習はコーチも部員も熱心に取り組む。しかし、キャッチボールやノックに入る前に準備運動をして怪我の予防を図ることや、基礎的な身体能力を強化するためのトレーニングがなされていなかったのだ。
 細間さんは、準備運動などのウオーミングアップと、体の各部を意思どおりに動かす能力を養う「コーディネーショントレーニング」とを、練習の最初に組み込むことを提案。しかし部員たちは、面倒だ、という態度を示した。そこで細間さんは、「スモールステップ」を踏みながら慣れていってもらおうと考えた。日本では部員が皆で「イチ、ニ、サン」と声をそろえながら準備運動をするのが通常だが、現地の人たちは皆で揃って何かをすることに抵抗があると感じたことから、準備運動はまずは個別に行ってもらうことにした。コーディネーショントレーニングについても、近距離に配置したコーンで折り返すランニングなど、短時間で済むものから導入。そこから少しずつ負荷が大きいメニューへと変えていくと、部員たちは次第に慣れていき、やがて細間さんが促さなくても自発的にそれらに取り組むようになった。

「11〜12歳」のカテゴリーの全国大会にコーチとして参加した細間さん。着任した年、ケツァルテナンゴ県のチームは予選敗退だったが、翌年は3位に食い込むまでになった

練習への参加を促す働きかけ

 細間さんの着任後、特に顕著な伸びを見せたのは「11〜12歳」のカテゴリーのチームだ。着任した年の全国大会は予選敗退だったが、翌年は3位に食い込んだ。その要因だと考えられることの1つは、小学校を回って野球を普及し、チームの層が厚くなったことだ。細間さんは配属先のチームの練習がない平日の午前中、同僚コーチと共に小学校を回り、体育授業のコマをもらって野球の紹介をした。使ったのは、当たっても安全なテニスボール。まずは通常のキャッチボールに慣れてもらい、次にワンバウンドさせたり高く投げたりしたキャッチボールに挑戦してもらう。「スモールステップ」を踏みながら「投げる」「打つ」「守る」という野球の各種プレーの楽しさを感じてもらうようにした。そうした普及活動で野球に興味を抱き、細間さんの任期中に配属先のチームに新たに入部した小学生は30人ほどにのぼった。
「11〜12歳」のカテゴリーのチームが伸びたもう1つの要因と考えられるのは、部員たちに練習への参加を動機づけるよう取り組んだことだ。着任した当初は、「宿題をやらなければならない」「お母さんの手伝いをしなければならない」といった理由で、練習を休んでばかりいる子が多かった。部費が無料だから安易に練習を休んでしまう子もいるはずだと考えた細間さんは、練習へのモチベーションを持ってもらうための声がけを継続。皆の前で話しても心に響かないだろうと考え、個別に「もっと練習をしたら君は絶対にうまくなる。明日も休まず練習に出ておいで」と伝えた。すると、練習に参加する部員の割合が徐々に増加していったのだった。
「11〜12歳」のカテゴリーのチームの成長は、細間さんに「野球」に対する認識の広がりを与えてくれた。細間さんが日本で受けてきた野球の指導は、「できたこと」をほめるのではなく、「できなかったこと」の反省を強いるものだった。一方、配属先の同僚コーチたちは「できなかったこと」の反省を強く促すようなことはしておらず、そのため部員が萎縮することはなかった。そうした指導方法でも、チームは伸びる。その実体験を、細間さんは将来野球指導をする機会に恵まれれば、生かしていきたいと考えている。

任地ひと口メモ 〈ケツァルテナンゴ市〉

人口約20万人のケツァルテナンゴ市の住宅街。海抜約2300メートルに位置し、朝晩と日中の寒暖差が激しい




民族衣装に使う伝統の織物をつくる先住民のマヤ族の女性。同市は人口の約半数をマヤ族が占める




マヤ文明の中心都市として栄えたティカルの遺跡に残るピラミッド。観光名所となっている




知られざるストーリー