【福島県】
風評被害への対策として、
全国の協力隊経験者を対象とするツアーを開催

ふくしま青年海外協力隊の会

農業や漁業、観光業が原発事故の風評被害で苦しんできた福島県。同県の在住者などで組織する協力隊のOB・OG会は、「被災地の力になりたい」という全国の協力隊経験者の思いを現場につなぐ役割を果たしてきた。

団体プロフィール

■ 設立
1981年
■ 会員数
104人(2020年末現在)
■ 主な活動内容
●福島県外の人に同県の被災地を見学してもらうツアーの開催
●国際協力イベントでのブースの出展


 各都道府県にある協力隊のOB・OG会は、地震発生後まもなくからそれぞれにできる被災地支援に取り組み始めた。東北6県のOB・OG会が今日まで果たしてきた役割は、「被災地の力になりたい」という全国の協力隊経験者の思いを、被災の現場へとつなげることだ。
 地震発生の1カ月後には、被災した協力隊経験者への緊急支援として、東北6県のOB・OG会が合同で募金活動を開始。被災した協力隊経験者がその地で暮らし続けることができれば、地域の復興を牽引する役目を担っていくはずとの考えからだ。募金の呼びかけ先は全国の協力隊経験者たち。2カ月間で集まった寄付金は約450万円にのぼった。東北6県のOB・OG会がそれぞれの県で被災した協力隊経験者の状況を確認し、「自宅が全壊」「長期にわたる避難」など被害の程度に応じて23人に送金した。

「応援ツアー」の開催

 その後、東北6県のOB・OG会のなかには被災地の継続的な復興支援を始める例も出てきた。福島県のOB・OG会「ふくしま青年海外協力隊の会」(以下、福島OV会)もその1つ。
 地震発生の約1年後、県外の協力隊経験者を招き、県内の被災地を回ったり、県内の被災者の話を聞いたりする「ふくしま応援ツアー」(以下、応援ツアー)を開催した。原発事故による風評被害で「農産物や水産物が売れない」「観光に来てもらえない」といった福島県内の状況は、会としても解決に向けた動きを起こさなければと思う深刻さだった。協力隊のネットワークを活用して呼び掛ければ、県外の多くの協力隊経験者に福島を訪ねてもらうことが可能だろう。福島の現状を直に見てもらい、そこで見たことや感じたことをそれぞれが暮らす地域の人々に伝えてもらえば、福島の風評被害の払拭につながるだろう。そんな考えで企画したものだった。
 開催は2012年3月24日。青年海外協力隊二本松訓練所の近くにある二本松市岳温泉を宿泊場所とし、1日目は協力隊経験者から福島の被災状況を聞く会を訓練所で開き、2日目は福島県相馬市などの被災現場の見学を行う1泊2日のツアーとした。集まった参加者は、協力隊経験者の家族を含め約250人にのぼった。
 ボランティア活動でありながら、こうした規模の催しを実現できたのは、「協力隊」という糸でさまざまな職種の人が結ばれている都道府県別OB・OG会だからこそだろうと、福島OV会の当時の会長だった小熊則子さん(サモア・音楽・1990年度3次隊)は振り返る。
「スケジュールの作成や食事の手配はツアーコンダクターの経験がある会員が、移動に使うバスの手配はバス会社勤務の会員が、会場に託児室を設けて参加者の子どもの面倒を見るのは保育士の会員がといったように、会員それぞれの専門性を生かし、役割を分担することができました」

県外の協力隊経験者とのつながり

 地震発生から1年が過ぎ、福島県内では計測される放射線量が低くなってきたが、風評被害のダメージは回復されなかった。そのため、福島OV会は翌年も応援ツアーを開催。以後、年に1回のペースで継続するようになった。
 応援ツアーの参加者は、それぞれの地域で福島のイメージ回復に向けた活動に取り組んでくれた。京都府のOB・OG会の会長もその1人。同会が催す懇親会で福島産の農産物を使った料理や福島産の日本酒を出したり、福島で被災した協力隊経験者を招いて体験を話してもらう場を設けたりしてくれた。
 また、青森県のOB・OG会が主催した福島県の小学生のためのスキーキャンプや、徳島県のOB・OG会が主催した高校生のためのサマーキャンプ、栃木県と茨城県のOB・OG会による福島県内での除染活動、沖縄県のOB・OG会による福島県産品の販売会など、協力隊経験者の連携を生かしたさまざまな支援活動が各地の都道府県別OB・OG会により展開された。

福島の復興は道半ば

2018年に東京で開かれたグローバルフェスタJAPANでブースを出展した福島OV会。農業を営む同会メンバーが栽培したコメや梨を販売した

 福島OV会が応援ツアーの幕を閉じたのは2016年。被災地の整備が進み、現場を見ても、震災の爪痕を実感してもらうのが難しくなってきた時期だった。その後は、震災後10年間の活動継続を目標に、東京で開催される国際協力イベント「グローバルフェスタJAPAN」にブースを出展し、協力隊経験者による震災復興支援活動の紹介と、福島県の産品や観光のPRを行ってきた。また、福島OV会のメンバーが他県のOB・OG会に招かれ、講演会などで震災の経験を話す機会も増えた。こうして、より多くの人に福島の現状を知ってもらうため、活動は福島県外へ出かける形へと変化していった。
「福島県内には今も帰還困難区域があり、避難を継続している人々がいます。また原発内の汚染水処理の問題も解決されておらず、震災からの復興は道半ばです。『福島=原発事故』というイメージは、もはや世界的に消すことができないでしょう。そうだとしたら、福島を震災前の状態に戻すことではなく、どこかが震災前より良くなった状態にすることを目指すべきなのだろうと思います。福島の復興を見守り続けていただけるよう、全国の協力隊経験者とのつながりを生かして、これからも当会は働きかけていきたいと思います」(小熊さん)
 震災以降も国内では大地震や豪雨災害などが続き、防災や減災、被災後の対応などに社会的関心が高まっている。
「応援ツアーに参加した兵庫県の協力隊経験者から、阪神淡路大震災の被災経験をもとにしたアドバイスをいただき、目の前のことだけでなく、5年後10年後の未来を見据えた姿勢が重要だと知りました。福島の経験も、誰かの役に立つように、私たちが持つネットワークの中で伝えていきたいと思っています」(小熊さん)

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