JICA Volunteers’ before ⇒ after

生田恵資さん(スリランカ・環境教育・2014年度2次隊)

before:分譲マンションの管理会社の社員
after:技能実習生の監理団体の職員

旅行で途上国を訪れるなか、ゆったりとした時間の流れへの憧れが募り、協力隊に参加した生田さん。その経験が転機となり、帰国後は技能実習生の監理を行う団体の職員として途上国にかかわる仕事に携わっている。

「ゆったりとした時間」に誘われて

学校で3R(*)の授業を行う協力隊時代の生田さん
*3R…ゴミについて順に「Reduce(発生抑制)」「Reuse(再利用)」「Recycle(再資源化)」を心がけることで減量化を図ること。

 社会人としての滑り出しは「海外」とはまるで縁のないものだった。大学で法学を学んだ後に就職したのは、分譲マンションの管理を行う会社。建物の保守や居住者間のトラブルの解決、居住者で組織する管理組合の運営支援、マンションに勤務する管理員の指導などに携わった。「海外」に初めて目が向いたのは26歳のときだ。友人に誘われて初めて海外旅行を体験した。行き先はマカオ。日本では見たことがなかった街の雰囲気に圧倒され、以後、年3回のペースでアジアを中心とする国々を旅するようになった。ゆったりとした時間の流れの中で、人々は毎日を楽しんでいるように見えた。「途上国で暮らしてみたい」。そんな思いが募ると、おのずと協力隊に関する情報が目にとまるようになった。
 協力隊に応募する意思を固め、勤務先を退職したのは29歳になったばかりのとき。フィリピンで半年間、英語の語学留学をした後、協力隊に応募。環境教育の職種でスリランカに派遣されることとなった。
 配属先は、スリランカ地方政府・州議会省の全国廃棄物管理支援センターが置く地方出先機関の1つ。同センターは地方自治体の廃棄物管理事業を支援する機関で、各地の地方自治体の庁舎に出先機関を置いている。配属されたのは、人口4万人の地方都市、マータレー県マータレー市の市役所に置かれたもの。同市にあるゴミの埋立処分場の容量には限界があるため、ゴミの減量化が急務となっていたなか、市役所がゴミの減量化に向けて行うさまざまな事業の支援に取り組んだ。例えば、学校や幼稚園、婦人会、子ども会などでの「3R」に関する啓発講習の実施、市役所や幼稚園、飲食店でのゴミの分別状況のチェックなどである。
 生活や活動でかかわったさまざまなスリランカ人のなかには、「日本に行きたい」と生田さんに相談してくる人も少なくなかった。行きたい理由は、出稼ぎか留学のどちらかだ。振り返れば、生田さん自身も彼らと同じように海外に行きたいという希望を持った1人だった。そして、それが叶う環境にあった。途上国の人たちにとっても、「海外に行く」という選択肢が同じように実現可能なものであるべきだろう。そう考えた生田さんは、途上国の人たちが日本に行くことを支援するような仕事への興味が強まっていった。

異文化の人と協働する力

現在勤務する(公社)国際人材革新機構にて

 現在勤務する公益社団法人国際人材革新機構(以下、「機構」)の求人に応募したのは、帰国の約1カ月後の16年11月。程なく採用が決まり、帰国の3カ月後に入職した。「機構」は技能実習生の監理を事業の柱とする団体。「途上国の人たちが日本に行くことを支援する」という、生田さんが希望していたとおりの仕事に取り組むことができる職場だった。
 生田さんは入職してからこれまでの約5年間、技能実習生の監理を担当する「キャリア開発本部」の一員として働いてきた。技能実習生に関する企業への受け入れの提案、入国に必要な書類の作成、入国後のサポートや監理、受入企業の訪問指導や監査などが、具体的な業務内容だ。「機構」がかかわる技能実習生の出身国は、タイ、フィリピン、モンゴル、ミャンマー、中華人民共和国、ベトナム、インドネシア、インドの8カ国。19年10月には同本部の関東支部長代理に着任し、他の支部員の業務のサポートなども担うようになった。
 協力隊経験で得たもののうち、現在の仕事に特に生きていると生田さんが感じているのは、「異文化の人と付き合う力」だ。スリランカの人々は、「時間を守る」「約束を守る」といったルールを日本人ほど重要視していなかった。彼らと付き合うなか、生田さんはこれを「文化の違い」と捉え、時間や約束の観念が異なる彼らとどのようにすれば良い協働体制がつくれるかを考える姿勢が身に付いた。技能実習生の出身国もスリランカと同様の途上国が大半であるため、この姿勢が現在の仕事で土台の1つとなっている。例えば、技能実習生が時間や約束を守らず、受入企業に迷惑をかけてしまっているケースでは、腹を立てて叱るのではなく、日本では時間や約束を守ることが大切であることをわかりやすく説明する。一方、受入企業に対しても、時間や約束に関する観念は国によって違いがあることを伝え、技能実習生のバックグラウンドを理解してもらう。
「受入企業から『技能実習生を受け入れたことで、職場が明るくなった』といった言葉をかけていただくとき、両者の文化のギャップを埋める役割を果たせたのだなと、とてもうれしく感じます。当団体ではまだスリランカからの受け入れはないので、いつかそれを実現できたらと思っています」






生田さんのプロフィール

【before】
[1984]
2月生まれ、愛知県出身
[2006]
3月、愛知大学法学部を卒業
4月、分譲マンションの管理を行う会社に入社
[2013]
4月、フィリピンに語学留学

【JICA Volunteer】
[2014]
10月、青年海外協力隊員としてスリランカに赴任(旅行先の途上国で、ゆったりとした時間の流れの中、人々が毎日を楽しんでいるように感じた。そうして「途上国で暮らしてみたい」との思いが募り、協力隊参加を決意するに至った)
[2016]
10月、帰国

【after】
[2017]
1月、(公社)国際人材革新機構に入職(協力隊時代、現地の人から「日本に行きたい」と相談されることが多かった。どの国の人もそうした希望が叶うよう支援する仕事に携わりたいと考え、就職先を決めた)
[2019]
10月、キャリア開発本部・関東支部長代理に着任(現在に至る)

公益社団法人国際人材革新機構
設立:2011年
本部所在地:東京都台東区
事業内容:途上国の人材の育成・紹介、企業の経営・海外進出の支援、雇用創出支援、外国人材の適正受け入れ・技能水準確保の支援など

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