コメの消費が増えるなか、
収量のより高い稲作技術の普及に尽力

篠﨑 愛さん(︎ウガンダ・コミュニティ開発・2017年度2次隊)の事例

コメの国内消費が増すなか、以前から稲作が行われていた県の県庁に配属された篠﨑さん。稲作を専門とするカウンターパート(以下、CP)と共に、農家グループの立ち上げや、栽培品種や栽培法を改善するための働きかけに取り組んだ。

篠﨑さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、東京都出身。民間企業に営業職で3年間勤務した後、2017年9月に青年海外協力隊員としてウガンダに赴任。19年9月に帰国。現在はJICA東京で草の根技術協力事業を担当。

【活動概要】
カムリ県庁に配属され、稲作に関する主に以下の活動に従事。
●農家への技術指導の支援
●農家グループや農家組合の設立支援
●灌漑・排水技術に関する研修の実施支援


 篠﨑さんが配属されたのは、ウガンダ東部地域に位置するカムリ県の県庁。求められていた活動は、農林水産業を所管する生産局の稲作振興事業を支援することだ。
 同国では、トウモロコシ粉を練ってつくるポショや、蒸した調理用バナナをつぶしてつくるマトケが代表的な主食だが、近年はコメの消費が増えてきた。消費の多くを輸入米が支えているためコメは高価であり、消費地は都市部が中心。カムリ県はコメの一大消費地である国内第2の都市ジンジャに近く、降水量も多いため、以前から稲作が盛んな地域だった。問題は収量の低さだ。栽培されてきたのは水稲の在来品種が一般的だが、病気にかかりやすく、稲穂の背が高いため鳥に食べられやすいといった難点があった。栽培法も田に直接種もみを播く直播栽培で、苗床で苗を育てる移植栽培ほどの収量は見込めない。
 そうしたなか、生産局では稲作の振興が農家の収入向上に有効だと考え、より高い収量が望める水稲品種「WITA9」の種もみの配布や、移植栽培の指導などを、県内18カ所に配置する農業普及員を通して進めていた。農業普及員にはそれぞれ専門とする農作物がある。稲作を専門としていた農業普及員は1人で、篠﨑さんは彼女をCPとしながら、稲作振興をさまざまな形で支えた。

グループ単位での支援

新規の農家グループを対象にワークショップを行うCP

ワークショップを受けた農家グループが最初に行う共同栽培の田植えの様子。篠﨑さん(左から2人目)は、自身のアドバイスに対して聞く耳を持ってもらえるよう、巡回時には積極的に農作業に加わった

 CPと検討したうえで、篠﨑さんは次のようなステップで稲作の振興に取り組んだ。
(1)対象農家の発掘 農業普及員たちから、それぞれが担当する地域で稲作に興味がありそうな農家を紹介してもらうなどして、活動の対象者を発掘する。
(2)グループ結成の呼びかけ 発掘した活動対象者にグループの結成を促す。生産局では、知識・機材の共有や、多くの手間がかかる田植えなどの時期に作業の助け合いができるといった利点を考え、同じコミュニティの農家たちでグループを結成することを推奨していた。その手段の1つとして、20人以上の農家で結成することができたグループには、WITA9の種もみを1人あたり1キロずつ配布し、収穫後に同じ量の種もみを返してもらうという仕組みを設けていた。
(3)ワークショップの実施 活動対象者が所属する農家グループに、WITA9の特徴や移植栽培の方法を伝えるワークショップを実施する。講師は主にCPが務める。
(4)共同栽培の支援 ワークショップに参加した農家グループに、メンバーの土地などを使ってWITA9の移植栽培を共同で行ってもらう。「実習」の位置付けであり、栽培中は篠﨑さんが折を見て訪問し、必要なアドバイスを行う。
(5)個人栽培の支援 共同栽培を行った次のシーズンは、各農家にそれぞれの田を使って個人での栽培に挑戦してもらう。その栽培中も篠﨑さんが折を見て訪問し、必要なアドバイスを行う。
 ウガンダで稲作が可能な時期は、3~5月の大雨期と9~11月の小雨期の2回。17年10月に着任した篠﨑さんは任期中、3回の稲作シーズンを利用して延べ約40の農家グループを対象に活動した。

リーダー役の農家を育成

栽培がうまくいった農家の田で行った見学会「フィールド・デー」

 特に困難が大きかったのは(4)〜(5)のステップだ。移植栽培は、田植えや畝づくりなど、直播栽培にはない手間がかかる。そのため、(3)で伝えた「苗を何本ずつ、どれくらいの間隔で植えるか」「草むしりは何回、どのタイミングでやらなければならないか」といった要領を守らない農家もいた。その是正を篠﨑さんが促しても、にわかには必要性を理解してもらえないことがあったのだ。そうした問題の解決に有効だったのは、栽培がうまくいった農家の田で収穫時に周辺の農家を集めて行った「フィールド・デー」と称する見学会だ。実り豊かな田の実物を前に、どのように栽培すればこれだけの収穫が得られるのかを説明すれば、手間の意義を納得してもらいやすかった。フィールド・デーには、まだ稲作を行っていない農家も招待。興味を持った農家には、WITA9の種もみを1キロ提供した。
 活動対象とした農家の多くは従来、ほかの作物も栽培していたが、WITA9で高い収量が見込めることを確信し、田を買い足してコメをメインに栽培する農家も出てきた。そうしたなかで篠﨑さんが課題だと考えたのは、自身の任期終了後も稲作振興が継続することだ。CPは担当する地域で稲作以外の作物の振興も行わなければならず、他の地域での活動にそれほど労力を割く余裕はない。一方、ほかの農業普及員たちは、前述の(3)のワークショップに同席して知識を得ていたが、「専門外」であるため、稲作に関する仕事に力を入れる意欲を持ってもらうことは難しかった。そこで篠﨑さんが自身の活動の引き継ぎ手になってもらおうと考えたのは、稲作に特に意欲的に取り組むようになった農家たちだ。ふさわしい人材だと判断した人には、他の農家グループで行う(3)のワークショップに招き、CPと共に講師役を務めてもらった。そうした役割を積極的に務めてくれた農家は約10人。彼らの以後のリーダーシップに期待しながら、篠﨑さんは帰国の途に就いた。

任地ひと口メモ 〈カムリ県〉

降水量が多く、トウモロコシ、調理用バナナ、コメ、コーヒーなどさまざまな作物が栽培されている県の農村部の風景




代表的な主食であるポショに煮込み野菜を添えた農家の典型的なワンプレート料理




農家のキッチンで現地の料理を教わる篠﨑さん(右)




知られざるストーリー