パソコンに触れる機会が少ない生徒たちを相手に、
パソコン操作の実技を担当

森 亜矢子さん(ウガンダ・PCインストラクター・2017年度2次隊)の事例

十分な台数のパソコンが揃い、ICT教育の環境が整った中等教育機関でICTの実技授業を担当した森さん。活動の課題は、授業外でパソコンに触れる機会が少ない生徒たちに、いかにしてスキル習得への意欲を持ってもらうかだった。

森さん基礎情報





【PROFILE】
1982年生まれ、徳島県出身。日本の大学で建築デザインを、米国の大学でウェブデザインを学んだ後、ニューヨーク市で日系情報誌の制作に従事。2017年9月に青年海外協力隊員としてウガンダに赴任。19年9月に帰国。現在は国連平和大学の修士課程で平和・紛争学を研究中。

【活動概要】
チェイゾーバ女子セカンダリースクール(ブシェニ県)に配属され、主に以下の活動に従事。
●ICT授業での指導
●コンピュータ室の管理支援
●難民定住地でのパソコン教室の実施


 森さんが配属されたのは、ウガンダ西部地域に位置するブシェニ県のチェイゾーバ女子セカンダリースクール。中学校の4学年と高校の2学年を合わせた計6学年がある、公立の中等教育機関だ。全寮制の女子校で、当時の生徒数は約1100人。
 配属校ではICT授業が中学2年までは必修教科として、中学3年以降は選択教科として時間割に組み込まれており、3人の教員が専任として配置されていた。森さんは彼らと共に一教員として授業を実施。着任の約3カ月後に始まった2018年度は中学2年生と高校2年生、翌年度は高校1、2年生の実技の授業を受け持った。1学年のクラス数は2〜4。1コマ90分のICT授業が中学2年生には各クラス週2コマずつ、高校生には各クラス週3コマずつあった。
 中等教育におけるICT授業についてはウガンダ政府がシラバスを定めており、実技はパソコンの基本操作とMicrosoft Officeのソフトの習得がメイン。森さんはシラバスに従い、いずれの学年でもWord、PowerPointを教え、高校2年生ではそれらに加えてPublisherも教えた。同国では中学校と高校の最終学年で卒業資格を認定する国家試験を受けることになっており、ICT授業の第一の使命は、国家試験で及第点を取れるようにすることだった。

「自立」の手段であることを伝える

森さんが行ったICTの実技の授業で課題に取り組む生徒たち

配属校で週に数回開かれる朝会の様子

 配属校は、国内でもICT教育の環境が比較的整っている学校だった。ICT授業で使う教室に置かれていたパソコンは、Windows8を搭載したデスクトップ型が80台ほど。多くのクラスの授業で1人1台ずつ行き渡る台数だ。しかも、国内の他校に導入されているパソコンで例が多かったシンクライアント(*)ではなかったため、各パソコンはストレスなく操作できた。パソコンの管理に専従する技術者も置かれており、彼がウイルス感染などパソコンに不具合が発生するとすぐに対処していたため、ほぼすべてのパソコンが常に使える状態に保たれていた。
 問題は、入学前にパソコンに触れた経験がある生徒はまれであり、かつ入学後も生徒が授業以外の場でパソコンに触れるチャンスが少ないため、スキルの習得がなかなか進まず、ひいては授業への意欲を持ってもらうのが難しい点だった。スマートフォンを持ち、その扱いに慣れている生徒はいたが、むしろそれが弊害となり、パソコンで必要な「シャットダウン」の手順を踏むことが一向に身に付かないといったケースも少なくなかった。
 そうしたなか、生徒たちのパソコンへの興味を高めるために森さんが試みたことの1つは、「パソコンが使えるようになれば人生の可能性が広がる」と実感してもらうための策だった。配属校では森さんが着任した当時から、生徒たちの「自立」への意識を高めるような教育がなされていた。例えば集会の際などに、教員が生徒たちに「若いときに妊娠するのは良くない。自分の力で生きていけるよう、まずはキャリアを積むことが大切だ」と説く。森さんはICT授業を担当している立場として、パソコンのスキルが自立の有効な手段であることを生徒たちに伝えたいと考えた。体力など男女間の生物学的な差に関係なく、女性も男性と同じようなパフォーマンスを発揮できるスキルだからだ。
 森さんが着目したのは、女性を対象にプログラミングの技術を無料で教える教室を開催しているNGOの存在だ。インターネットで探すと、そうしたNGOが国内にいくつかあることがわかった。そこで森さんは、そうした教室のなかのいくつかに参加。すると、講師を務めていた女性の1人は、ストリートチルドレンとして育ったが、恋人に教わってプログラミングに挑戦してみたところ向いていることがわかり、プログラマーとして働くようになったとのことだった。森さんは彼女を配属校に招くか、生徒たちを彼女の教室に連れていくかしたかったが、予算の都合で断念。そこで、彼女を含め、ウガンダでプログラマーとして活躍している女性たちの話を集めては、担当する授業のなかで生徒たちに伝えることにした。すると、「インターネットによって外国から仕事を受注することができる時代であり、ウガンダにもそういうやり方で高い収入を得ているプログラマーがいる」といった話は、生徒たちも興味深そうに耳を傾けてきた。

* シンクライアント…クライアント端末の機能を最小限にし、サーバでデータの管理や処理をするシステム。

「選択と集中」で意欲を刺激

同僚教員(中央)が受信用アンテナを設置する場でインターネットについて説明する様子。固定のブロードバンドは無線で利用できるWiMAXのサービスを利用するのがウガンダでは主流で、配属校もそれを利用。校内の端末がWi-Fiでインターネットを利用できるようにしていた

 生徒たちのパソコンに対する興味を引き出すために試みたことのもう1つは、生徒たちの「負担感」を減らすことだ。例えば、授業では「完璧を求めるな」と口すっぱく伝えるようにした。中学校と高校の卒業時の国家試験では、主要教科は得点を0〜6点のスコアに、ICTを含むその他の教科は0点か1点のスコアに換算し、全教科のスコアの合計点で合否が決められる。ICTで1点のスコアが付くのは、元の点数が60点以上の場合。そこで森さんは、無理をして100点を狙おうとするのではなく、まずは60点を超えることを目指して勉強しようと生徒たちに呼びかけ、それに応じて授業で取り組ませる課題も難易度を下げたものに絞った。そのうえで、スキルの習得が早く、もっと高度なことを学びたいという生徒がいれば、プラスアルファの課題を与え、その指導をした。すると、パソコンが苦手な生徒も得意な生徒も、与えられる目標が自分に合ったレベルのものであることから、スキルの習得に意欲を見せるようになった。
 さらに森さんは、与えた課題を早く終えた生徒には、残りの時間でSNSやゲームを楽しむことも認めてみた。配属校では、補講を含めると朝5時から夜10時まで授業が行われており、「短い時間で集中して勉強しよう」という意識を生徒たちが持ちづらいと思われたことから、それを育てようと考えて取り入れたものだ。やはりこの工夫も効果があり、課題に取り組んでいる生徒たちの顔つきが、集中していることがうかがえるものへと変わっていった。

任地ひと口メモ 〈ブシェニ県〉

ブシェニ県は標高が1500〜2000メートルの高地。緑豊かで牛の飼育が盛んな「牛の回廊」と呼ばれる地域に位置する




布を買い、テイラーに服を仕立ててもらうのが一般的





ウガンダではバッタがよく食される。炒めて塩で味付けすると、桜えびに似た美味になる




知られざるストーリー