“失敗”から学ぶ

異職種間の連携の強化を訴えたが、実現には至らなかった

話=中東由子さん(チリ・作業療法士・2017年度2次隊)

現地の作業療法士会の勉強会に参加する中東さん(奥の左端)

 私は内科や小児科など7科を擁する医療機関のリハビリ科に配属され、業務の支援に携わった。現場の事情を把握しないまま活動に臨んでも効果が見込めず、時間の浪費となるため、当初から情報収集には力を注いだ。着任するとリハビリ科以外の科を1日1科ずつ回り、見学と聞き取りをさせてもらった。同僚たちに快く対応してもらえるよう、「この科ではどの職種の方が何人働いているのですか?」など質問をあらかじめ練っておき、私のスペイン語がストレスにならないよう配慮した。ホストファミリーには、日本の医療保険の仕組みをまとめたプレゼン資料をつくって見せ、チリではどこがどう異なるかを指摘してもらった。
 情報収集を通じて見えた配属先の課題の1つに、「異職種間の連携が弱い」というものがあった。医師が糖尿病と診断した患者に対し、看護師は足の壊疽の治療を、理学療法士はリハビリをするが、彼らの間でその患者の情報の共有や相談がなされていないため、「栄養士による栄養指導」の欠落が見逃されていた。
 私は、異職種間の連携が弱いのは「個人主義の文化」によるものだろうと判断。それが正しい判断なのかを吟味することなく、メリットを感じる協働ならば取り入れてくれるだろうと考え、配属先の全体会議で日本の医療のあり方を紹介する際に「チーム医療」の話題を組み込むなど、意識の変化を促す働きかけをしてみた。しかし、反応はほとんど得られなかった。
 異職種間の連携が弱い背景に「職種別労働組合」の存在があることを知ったのは、任期の残りがわずかになったころだ。他の医療機関を見学させてもらった際に、配属先では異職種間の連携が弱いという話をしたところ、チリには「作業療法士」や「看護師」など職種ごとに職種別労働組合があることを知らされた。ある職種の人がほかの職種の人から「これをするべきだ」と業務量が増える要求を受けると、前者が所属する組合から後者が所属する組合にクレームが行き、要求をした人が咎められるとのことだった。
 そうした背景があると知っていたら、異職種間の連携の活発化については、組合の関係者を交えて議論するなど他に有効な方法があったはずだが、それを実行するだけの時間の余裕はなかった。

隊員自身の振り返り

「職種別労働組合」の情報を早い時期に得ることができていれば、異職種間の連携を強化することが叶ったかもしれません。私は情報収集に力を入れたことで、かえって自分の認識を疑う姿勢が薄れ、異職種間の連携が弱いことの原因を早合点してしまったのだろうと思います。「職種別労働組合」などはチリの人々にとってあまりに「当たり前」のものであり、彼らは協力隊員がそれを知っているのかどうかを意識することすらなかったはずです。彼らから「なんだ、これを知らないのか?」と言って情報を与えてもらうためには、「自分はここまでなら知っている」という情報を絶えず発信し、私が知らない情報を彼らから引き出す工夫が必要だったのだろうと思いました。

他隊員の分析

「外」から見る姿勢

 現地について得た認識に誤りや偏りがないかを常に問う姿勢は、私も協力隊経験を通して重要だと感じました。私は配属先の分娩施設をできるだけ広い視野で見なければと考え、配属先を利用する女性の産前産後に家庭訪問をしてどのような生活を送っているかを教えてもらったり、学校を訪問して母子保健についてどのような教育がなされているかを教えてもらったりと、配属先の外に積極的に足を運ぶようにしました。それによって、地域のなかで配属先がどのような存在であるかがつかめるようになり、配属先の事業について同僚たちに聞く耳を持ってもらえるような提案ができるようになったと感じました。
文=協力隊経験者
●中南米・助産師・2017年度派遣
●活動概要:分娩施設に配属され、妊産褥婦への保健指導や看護師を対象とする助産技術の研修会の実施などに取り組んだ。

現地の友人を認識の誤りのチェック役に

 私も着任早々、同僚たちには助け合いながら仕事にあたる姿勢がないと感じました。その重要性を訴えても受け入れてもらえないことから、当初は「怠惰で協調性がない国民性」に原因があると思い込んでいました。その後、配属先外にできた友人に、派遣国の人々はそれまでの社会の体制から、ほかの人の仕事に口や手を出すことはむしろ避けるべきとされてきたことを教わりました。協力隊員が目の前の状況の原因について正しく把握するためには、何でも話せる現地の友人をつくり、その人に自分が考えていることをしっかり言葉にして伝え、自分に欠けている情報を指摘してもらう姿勢が有効なのだろうと思いました。
文=協力隊経験者
●アジア・理学療法士・2015年度派遣
●活動概要:医療機関に配属され、障害児への運動療法の実施や、その技術に関する同僚や保護者への指導などに取り組んだ。

中東さん基礎情報





【PROFILE】
作業療法士として回復期リハビリに5年間、地域リハビリに2年間携わった後、2017年10月に青年海外協力隊員としてチリに赴任。19年10月に帰国。現在は作業療法士として再び地域リハビリに従事。

【活動概要】
マルセロ・ロペテギ・アダムス診療所(オソルノ県オソルノ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●外来リハビリや訪問リハビリの支援
●生活習慣病予防の啓発事業の支援

知られざるストーリー