希少職種図鑑 [溶接]

職種概要

派遣中:0人
累計:172人
分類:鉱工業
活動例:職業訓練校での溶接の実技指導やカリキュラムの作成支援など
類似職種:金属加工

※人数は2021年2月末現在。

話=山野彰嗣さん(シニア海外協力隊員/カンボジア・2016年度3次隊)

Q メインの活動は?

溶接技能を競う全国競技大会に向けて特訓を行う山野さん

 配属先は、短大課程や大学課程が設けられている高等専門学校の機械工学部溶接科です。メインの活動は、着任の約1年後に行われた溶接の技能を競う全国大会に向け、カウンターパート(以下、CP)の教員と共に出場候補の2人の学生の特訓を行うことでした。出場は各校1人だったのですが、指導した学生が優勝したことで、配属先の評価が高まり、卒業生の就職率が向上しました。また、特訓を共に行ったことで、CPの技術も高張力鋼の裏波溶接(*1)の技術を中心に非常に深化しました。
 もう1つの活動は、溶接に伴う事故を避ける感性を身に付けてもらうことを目的とした「危険予知訓練(KYT)」(*2)などに関する授業の実施です。前述の大会で優勝した学生がその後、親族の依頼を受けて自宅近くで溶接作業をしていた際、引火による爆発事故で亡くなってしまいました。二度とそのようなことが起こらないようにとの思いで提案し、実現させた活動です。対象は機械工学部の学生と教員、および民間企業の技術者です。

*1 裏波溶接…外側からの溶接だけで内面と裏面も溶かし込み、裏側から溶接を施したように溶接ビード(溶接の痕)を出す溶接法。
*2 危険予知訓練…業務に潜む危険要因について、作業のシミュレーションや小集団での議論などにより理解を図る活動。「危険」「予知」「トレーニング」のアルファベット表記の頭文字をとって「KYT」と呼ばれる。

Q 活動での最大の困難は?

 溶接科への予算の割り当ての不足です。溶接の実習は各種金属材や溶接棒、溶接用の各種ガスなどの消耗品を使わなければできず、費用が突出してしまいます。そのため当初は、有益な実習であっても取り入れることができないものがありました。

Q どう対応しましたか?

 溶接の技能を競う全国大会で配属先の学生が好成績を収めたことが功を奏しました。溶接科の評価が高まり、同科への予算配分を増やしてもらうことができたほか、民間企業から依頼が入り、その技術者を対象に有償で溶接やKYTに関する講習を実施して、収入の一部を同科の運営資金に充てることができるようになりました。

Q 同職種の後輩隊員にメッセージをお願いします。

 配属先にある溶接機器の修理を、予算の都合から外注できず、自前でこなさなければならないケースも少なくないと思います。そうした作業や、私が取り組んだ安全衛生の教育など、溶接技術の指導以外に活動の幅を広げるためには、関連する周辺の事柄の知識を蓄えておくことが有益だと思います。赴任してからそうした知識をインターネットで補完することもできますが、シニア世代はパソコンに不慣れという方も少なくないかと思います。生活に有益な情報の入手や公的・私的な連絡通信手段の幅も広がるので、パソコンのスキルはできるだけ高めてから赴任されるのが良いと思います。

山野さん基礎情報





【PROFILE】
1953年生まれ、大阪府出身。製造業(溶接分野)に従事した後、85年に青年海外協力隊員(溶接・1985年度2次隊)としてフィリピンに赴任。電力機器会社を定年退職後、2014年3月にシニア海外協力隊員(溶接・2013年度4次隊)としてカンボジアに赴任。17年1月、再びシニア海外協力隊員としてカンボジアに赴任。19年1月に帰国。

【活動概要】
カンボジア国立技能専門学校(プノンペン都)に配属され、主に以下の活動に従事。
●溶接技能を競う全国大会に向けた指導
●5S・安全・危険予知訓練(KYT)の授業の実施
●民間企業を対象とする溶接やKYTの講習の実施
●溶接部破壊検査(*3)と溶込深度マクロ検査(*4)の指導(上記全国大会の対策を兼ねた活動)

*3 溶接部破壊検査…溶接試験片に機械的に圧力や衝撃を加えて強度を評価する検査法。
*4 溶込深度マクロ検査…溶接試験片の断面を研磨エッチングし、溶け込み具合を観察・評価する検査法。

知られざるストーリー