JICA Volunteers’ before ⇒ after

白井美穂さん(ガーナ・エイズ対策・2008年度3次隊)

before:地域づくりに取り組む団体の職員
after:地域づくりに取り組む団体の職員

公益財団法人横浜YMCAでHIV/エイズの予防啓発に関する事業に携わった後、退職して協力隊に参加した白井さん。赴任したガーナでも、行政が行うHIV/エイズの予防啓発事業の支援に取り組んだ。協力隊活動を通じて広がった視野を買われ、帰国後は再び横浜YMCAに就職。HIV/エイズに関する市民活動を支援する施設の統括役に着任した。

「リベンジ」として協力隊に参加

ピアエデュケーターを育成する講習を行う協力隊時代の白井さん

 高校生のころから海外で働くことに興味があり、大学は国際学部国際学科に進学。しかし、日本で社会人経験を積んでからでなければ海外での仕事はこなせないだろうと考え、卒業後の進路には日本でスーパーの運営を手がける企業を選択。神奈川県内の店舗に配属され、販売や商品管理などを担当した。
 海外で働くことに対する情熱が再び高まったのは、就職して3年あまり経ったころだ。半年間にわたって海外にボランティアを派遣する神奈川県のプログラムを見つけ、退職して参加することにした。派遣先は、タイの首都バンコクにあるエイズ孤児の施設。教育や福祉など地域づくりの幅広い事業を神奈川県で進める公益財団法人横浜YMCAがバンコクのYMCAと共同で運営する施設である。そこで暮らす子どもたちの日常生活やレクリエーションのサポートに取り組んだ。
 幼くしてエイズで親を亡くした子どもたちと過ごすなかで、HIV/エイズの問題を肌で感じ取ることができた。一方、施設のスタッフに頼まれたことをこなすことしかできず、自身の経験不足を痛感。日本で仕事の経験をさらに積み、あらためて海外でのボランティア活動に挑戦したいと思うようになった。
 タイから帰国した後に就職したのは横浜YMCA。エイズ孤児施設でのボランティア活動が評価され、HIV/エイズに関する予防啓発のイベントなどの担当となった。海外でのボランティア活動への再挑戦として協力隊に参加したのは、横浜YMCAで約2年間働いた後だ。協力隊で自分が何を経験し、仕事についての考え方がどのように変わるかが見通せなかったことから、横浜YMCAは退職。職種は、タイや横浜YMCAでの経験が生かせる「エイズ対策」を選んだ。
 配属されたのは、ガーナ・イースタン州クワエビビレム郡の役所。当時同国では国全体のHIV感染率は減少しつつあったが、若者の感染率は上昇を続けており、政府は若者を対象とする予防啓発を重点課題と位置付けていた。そうしたなかで白井さんが取り組んだのは、郡役所が進める若者を主なターゲットとした予防啓発事業をサポートすること。地域や学校での講習や、ピアエデュケーター(*)の育成などがその中心だ。それらを同僚と共に進めることで、彼にプレゼンテーションのスキルや啓発プログラムを組み立てる力などを身に付けてもらい、事業の活性化につなげた。

*ピアエデュケーター…同世代間の強い信頼感による効果を狙った、若者から若者へと行う形式の啓発活動「ピアエデュケーション」でリーダー役を担う人。

ガーナでの経験を発信

HIV/エイズの予防啓発を目的とした2020年のイベント「AIDS文化フォーラム in 横浜」で運営に携わった横浜YMCAの職員や他の団体のメンバーたちと(後列右から2人目が白井さん) 出典:2020(第27回)AIDS文化フォーラム in 横浜

 白井さんは派遣中、横浜YMCAの事業にとっても何かの参考になるかもしれないと考え、自分の協力隊活動の情報をかつての同僚たちにメールやブログで発信し続けた。すると横浜YMCAから、「戻ってこないか」と声がかかった。そうして帰国後まもなく、横浜YMCAに再就職することとなった。配属されたのは、民間の団体や個人がHIV/エイズに関して取り組む活動を支援する目的で、必要となる情報や場所を提供する横浜市の施設「横浜AIDS市民活動センター」のセンター長。横浜YMCAは市からの委託を受けてその運営を担っていた。
 白井さんはセンター長として施設全体の管理に従事しつつ、ときに学校に赴いて行う予防啓発の授業や、地域で開催する予防啓発のイベントなどで、自身が協力隊活動を通じて知ったガーナのHIV/エイズの問題の状況を踏まえた訴えかけをしていった。例えば、ガーナは女性の立場が弱く、かつ宗教上の行動規範があることから、女性がパートナーの男性に避妊具の使用を求めて感染を予防することが難しいという問題があった。そのため白井さんはセンターの業務で予防啓発を行う際、HIV/エイズに関する医学的な知識を提供するだけでなく、自分の考えをパートナーに伝えられるだけの意識や意志、力を持つことの必要性も強調して伝えてきた。
 白井さんは2019年に「国際・地域事業」と称する部門へと異動。人身取引の対象となるおそれのあるタイの子どもや女性たちを対象とした自立支援の教育プログラムなど、海外や日本国内の各地でさまざまな種類の困難に直面している人に向けた事業を運営する部門であり、白井さんはHIV/エイズだけでなく、幅広い社会課題に取り組む立場となった。ガーナでは、部分的に自給自足をしたり、雨水をためて使ったりと、環境に負荷が少ない生活を営む人々を見てきた。それにより強まったのは、「持続可能な社会をつくること」への意識。今後はその実現に向け、私生活と仕事の両面でできる取り組みを探し出していきたいと、白井さんは考えている。






白井さんのプロフィール

【before】
[1981]
神奈川県出身
[2002]
3月、明治学院大学国際学部国際学科を卒業
4月、小売業の会社に入社
[2006]
1月、退職後、タイのエイズ孤児施設でボランティア活動に従事
9月、(公財)横浜YMCAに入職

【JICA Volunteer】
[2009]
1月、退職して青年海外協力隊員としてガーナに赴任(タイでのボランティア活動で自分の経験不足を痛感。横浜YMCAで積んだ経験を生かして再度海外でのボランティア活動に挑戦したいと考え、協力隊への参加を決めた)
[2011]
1月、帰国

【after】
[2011]
1月、横浜YMCAに再就職。横浜AIDS市民活動センターのセンター長に就任(協力隊経験が生かせるHIV/エイズ関連の仕事のポストに空きがあり、協力隊時代も横浜YMCAに活動の報告をしていたことから、再就職の誘いを受けることができた)
[2019]
4月、別部署に異動

公益財団法人横浜YMCA
設立:1884年
本部所在地:神奈川県横浜市中区
事業内容:健康教育、英語教育、専門学校の運営、ワークキャンプの実施、子育て支援など、幅広く地域づくりの事業を展開

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