日本語の授業を担当し、互いの言語を学び合う

小御門千絵さん(東ティモール・番組制作・2018年度2次隊)






PROFILE

【PROFILE】
1988年生まれ、広島県出身。横浜国立大学を卒業後、西日本放送株式会社にアナウンサーとして勤務。2018年10月、青年外協力隊員として東ティモールに赴任(現職参加)。20年3月に一時帰国。同年7月に任期を終了し、復職。

【活動概要】
国営の全国放送局である「東ティモールラジオテレビ」(ディリ県ディリ市)の番組制作局に配属され、主に以下の活動に従事。
●毎朝放送される情報番組や協力隊員を取り上げる番組の制作支援
●子ども向け番組の立ち上げ支援
右の写真は協力隊員を取り上げる番組のロケに参加する小御門さん(右端)。

【事前の語学学習】
●派遣前訓練で学んだ言語:テトゥン語
●現地語学訓練で学んだ言語:テトゥン語

【耳に残る言葉】
「moras」(モラス/具合が悪い)
仕事に遅れたり、約束をドタキャンしたりすることが日常茶飯事だった同僚たち。理由を聞くと、たいていこの言葉が返ってきました。当初は理解し難いと感じましたが、医療水準が日本ほど高くなく、日本では助かるであろう命が失われている実態を知り、この言葉への認識が変化していきました。


——赴任時の語学力は?

小御門さんが講師を務めた日本語教室の生徒たち

小御門さんが語学の勉強に使ったノート

 テトゥン語は初めて学ぶ言語でしたが、これといった教材が見つからなかったため、十分な予習ができないまま派遣前訓練に入りました。しかし、それまで日々の仕事に追われて新たなことをじっくり学ぶ機会がなかったことから、テトゥン語の勉強が楽しくて仕方がなく、ほかの言語を勉強していた同期隊員から「もうそんなに話せるの!?」と驚かれるほど速く上達することができました。訓練中の勉強方法で特に効果が高かったのは、テトゥン語を学んでいる同期隊員たちと授業以外の場でもテトゥン語で会話するようにしたことです。アウトプットをすればするほど、授業で学んだことが身についていくという実感がありました。そうして訓練の最終試験では高い点数を取ることができたのですが、赴任するとまだまだ力不足だと痛感させられました。東ティモールは公用語のテトゥン語が使われていますが、支配や侵略を受けた歴史から公用語となっているポルトガル語やインドネシア語の語句を混ぜて使う人がおり、それらに関する語彙力が圧倒的に足りなかったからです。そのため、話す・書くという「発すること」はある程度こなせたものの、聞く・読むという「受け取ること」が満足にできませんでした。

——語彙力向上に有効だった対策は?

 同僚との会話でわからない語句が出てきたらスマートフォンにメモしておき、後で辞書で調べたり、ホームステイ先の家族に尋ねたりしました。当初は同僚も私がわからない語句についてていねいに説明してくれたのですが、私がその説明をなかなか理解できないことも多く、やがてため息をついて「もういいよ」と諦められしまうことも出てきました。そのため、同僚に語句の意味を尋ねるのはどうしても遠慮するようになってしまいました。その点、ホストファミリーには気兼ねなく質問することができました。そうして語彙は徐々に増えていき、それにつれて読む力や聞く力も上がっていったのですが、一方で、話す力や書く力については伸び悩みを感じるようになっていきました。テトゥン語は語句のレパートリーが少ない言語であり、例えば「やりがいを感じる」「後悔する」といった概念にあたる単語がありません。そうした概念は、ほかの意味を持つ語句を組み合わせて表現しました。

——伸び悩みはどのように打開していったのでしょうか。

 任期の後半、現地のNGOが開いている日本語教室で授業をさせてもらうようになりました。それがテトゥン語の表現力の向上にもつながりました。番組の制作を支援するという私の本来の活動では、伝えたい概念の表現方法がわからないときに、伝えるのを避けてしまっても問題ないことが少なくありませんでした。しかし、伝えることを避けてばかりいては授業は成立しません。そのため、事前に伝えたいことの表現方法を懸命に調べて授業に臨み、それによって表現力が伸びていきました。

——後輩の協力隊員に向け、語学力向上に関するアドバイスをお願いします。

 本来の活動でかかわるのは大人ばかりでしたが、日本語教室の生徒は高校生や大学生でした。そのため日本語教室は私にとって若い世代が使う言い回しを知る貴重な機会でもありました。語学力向上という点でも、現地のさまざまな世代の人とかかわる場を見つけることは有益だと思います。

知られざるストーリー