わからない語句をその場でメモ

田村彩子さん(ヨルダン・障害児・者支援・2018年度1次隊)






PROFILE

【PROFILE】
1984年、和歌山県出身。2カ所の児童発達支援センターに計8年半勤務した後、2018年6月に青年海外協力隊員としてヨルダンに赴任。20年3月に一時帰国し、同年6月に任期終了。

【活動概要】
知的障害児の通所施設に配属され、主に以下の活動に従事。
●自閉症クラスでのアクティビティの実施や教育手法の紹介
●全クラス合同のスポーツアクティビティの実施
右の写真は、自閉症クラスで行った、小麦粉の粘土を使った工作の授業。

【事前の語学学習】
●派遣前訓練で学んだ言語:正則アラビア語
●現地語学訓練で学んだ言語:アラビア語ヨルダン方言

【耳に残る言葉】
「 إن شاء الله 」(インシャ・アッラー/神が望めば)
任地はイスラム教社会。未来の事柄に言及するときは必ずこの言葉を添え、「人間の力では未来を左右できない」という謙虚な考えを表します。同僚に「こんな活動をするつもりです」とプランを伝えたときも、この言葉を返されました。幸い、私は思い描いた活動をまっとうすることができました。


——赴任時の語学力は?

現地語学訓練時に使った教材

派遣前訓練時の語学学習ノート

 アラビア語のアルファベトは28個ですが、語頭・語中・語末で文字の形が異なります。そのため、アラビア文字を覚えることが習得の最初の難関です。私は語学が得意ではないと自覚していたので、派遣前訓練に入る前にアラビア文字をすべて覚えておき、さらに訓練中も授業の後は毎日、図書館で時間をかけてその日に習ったことの復習や日記づけをしました。そうして最終試験では同期隊員のなかで中の下くらいの点数を取ることができたのですが、赴任するとほとんど歯が立たないことがわかりました。特に聞き取りがまったくできず、当初は同僚たちとのお茶の時間がつらくて仕方ありませんでした。

——赴任当初に行ったアラビア語力向上のための対策で有効だったのは?

 同僚たちとの会話でわからない語句が出てきたらその場でノートにメモし、相手に意味を尋ねる、という方法が有効でした。しかし、その効果が実感できるまでには1年ほどかかりました。当初は、Aという語句の意味尋ねて「Bという意味だ」と説明されても、Bの意味がわからない。そうして言い換えを4、5回重ねたあたりで、たいてい相手に愛想をつかされるわけです。カタカナでメモしておき、借りていた家の大家さんに後で意味を尋ねたりもしたのですが、発音も正確に聞き分けることができていないので、どの語句のことなのか判明できないことも少なくありませんでした。そのため、とにかくひるまずに会話の相手にその場で意味を尋ねることを続けました。するとあるとき、語句の意味を説明するのを嫌がるようになっていた同僚が私のノートにある膨大なメモを見て「こんなに勉強しているんだね」と興味を持ち、同僚たちがノートの回し読みを始めました。「なんだか食べ物の名前ばかりね」「さっき話に出たばかりの言葉じゃない」などとひとしきりからかわれた後、「すごいわ」とほめられ、その後は辛抱づよく語句の説明をしてくれたり、「付いて来なさい!」と言ってその語句の実物がある所に連れて行ってくれたりするようになりました。四六時中メモをとる必要がなくなったのが、赴任の約1年後です。

——大家さんは語句の意味を辛抱強く教えてくれる人だったということでしょうか。

 そのとおりです。帰宅後にお宅にお邪魔して1、2時間、お茶を飲みながらその日にあったことなどあれこれ話をするのが日課であり、その時間にアラビア語についての質問にも答えてくれました。大家さんとのそうした付き合いの最大の意義は、アラビア語の力が足りないなかでも臆せずに現地の人とかかわる勇気を得たことです。大家さんという言わば「安全地帯」で得たそうした勇気をベースに、赴任して半年あまり経ったころからは、配属先でも同僚たちに積極的にかかわることができるようになりました。

——後輩の協力隊員に向け、語学力向上に関するアドバイスをお願いします。

 語学の勉強方法は十人十色ではないかと思います。私の能力では「メモ」によらなければアラビア語力の上達はなかったと思いますが、そういう方法をとらなくても語彙力を伸ばせる協力隊員もいるでしょう。また、私は大家さんという語学の先生となってもらえる人がたまたま身近にいましたが、そうでない協力隊員もいると思います。ぜひ、それぞれの状況にもっとも合った勉強方法を見つけ出してください。

知られざるストーリー