“失敗”から学ぶ

上司の賛同を得て実現した活動が、現場の同僚の反発で一時危機に

話=本田ふみのさん(カンボジア・水泳・2017年度3次隊)

A市で開いた短期水泳教室の様子

 私はカンボジア水泳連盟に配属され、任期の前半は連盟の本部が運営する首都の水泳クラブで、後半は地方都市(以下、A市)にある連盟の支部が運営する水泳クラブで技術指導にあたった。
 A市で活動を始めた当時、クラブには十数人の部員がいたが、クラブの運営を担う支部長はいたものの、技術指導ができるコーチはいなかった。着任して問題だと感じたのは、部員が支部長に縁のある子どもばかりに偏っていたことだ。そこで私は、着任の約半年後に始まる夏休みに、部員以外の子どもも受け入れる短期の水泳教室を開き、支部長に縁がない部員の獲得につなげようと考えた。
 自分に縁がない子どもを部員として受け入れることを支部長は嫌がるだろうと私は思っていた。一方、彼女は毎日のように私を食事に誘ってくれるなど親切であり、そうした良好な関係を崩したくはなかった。そこで私は、彼女に教室開催のアイデアを伝えないまま、任期前半に共に活動した本部の連盟長に相談。カンボジアはトップダウンで物事が進む社会なので、連盟長に実施の指示を出してもらえば、支部長と議論でぶつかり合うことなく教室を実現できると考えたからだ。連盟長は実施をOKし、「詳細は支部長と相談を」と私に伝えた。その旨を支部長に報告すると、苦々しく感じている様子は伺えたが、あからさまな反対はせず、教室をスタートさせることができた。その時期、後任の水泳隊員がA市の支部に着任したため、指導は彼女と2人で行った。
 1カ月ほど経ち、私が任国外旅行に出ている間に問題は起こった。支部長は教室参加の申し込みに来た親子たちを門前払いしてしまったのだ。
 私はA市に戻ると、関係性が崩れるのを覚悟でクラブの門戸を広げることの是非について支部長と話し合った。そこで初めて、彼女は過去にそれを試みたが、練習を継続できずに辞めていく子どもばかりだったため、門戸を広げるのは無意味だと考えていることを知った。結局、申込書に「がんばって継続する」旨を書いてもらうという条件で、教室への新規参加の受け入れを再開。門前払いした親子の元に足を運び、謝罪したうえで、あらためて教室への参加をお願いした。幸い、支部長との関係性はその後も保たれたが、相手が彼女のようにおおらかな人でなければ、活動継続の可能性が閉ざされてしまっただろうと反省した一件だった。

隊員自身の振り返り

支部長の反発を招いた大きな要因は、それまで1年あまりにわたってカンボジアの社会に触れ、「カンボジアは『トップダウン』の社会だ」と生齧りの理解をして満足していたこと、および配属先のトップである連盟長と築いたコネクションに安住していたことなどではないかと思います。現場の現状やそれまでの推移について理解しているのは、現場にかかわってきた人たちであり、現場にいないトップではありません。トップの力を借りて現場に指示を出してもらえば物事は動くかもしれませんが、そうしたやり方は、現場に適していないものになってしまう可能性もあるのだと思います。

他隊員の分析

「ボトム」のエンパワーメント

 協力隊員が現地に変化をもたらすうえで、トップダウンの力を使わなければならないケースはあると思います。私は算数授業の支援を行っていた小学校で、現地の先生が行う授業が学級崩壊の状態になってしまうことがあったため、校長にその解決策のアイデアを伝えたところ、校長が先生たちにそれを伝えてくれました。しかし、すぐには改善につながりませんでした。そこで、良い授業を行っている先生の授業の写真をSNSでほかの先生たちと共有したところ、彼らの改善への意欲が高まりました。ボトムのエンパワーメントをしてこそ、トップダウンの戦略が生きるのだと感じました。
文=協力隊経験者
●中南米・小学校教育・2018年度派遣
●活動概要:小学校に配属され、算数教育の質向上を支援。

トップからボトムまでの納得感が不可欠

 私は任地の既存の協同組合について情報を得る際に、トップダウンの力を利用すればスムーズにいくだろうと考え、配属先である郡庁から郡に次ぐ行政区分である「セクター」の役所に、協同組合の情報の提供依頼を出してもらいました。しかし、応じてくれないセクターもありました。トップの心をつかみ、トップダウンの力を使えば物事を進めるきっかけにはなると思います。しかしそれだけですべてがうまくいくわけではなく、ボトムにいる人たちにも意見を聞くなどして、トップからボトムまで、関与するすべての人へのフォローを丁寧にし、皆に納得感を持ってもらう必要があるのだと学びました。
文=協力隊経験者
●アフリカ・コミュニティ開発・2014年度派遣
●活動概要:郡庁に配属され、協同組合の設立・運営を支援。

本田さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、埼玉県出身。学生時代は競泳やトライアスロンの選手として活躍。大学卒業後、メーカー勤務を経て2018年1月に青年海外協力隊員としてカンボジアに赴任。20年1月に帰国。

【活動概要】
カンボジア水泳連盟に派遣され、主に以下の活動に従事。
●首都の水泳クラブでの指導
●地方都市の水泳クラブでの指導
●地方都市での水泳の普及

知られざるストーリー