病院内の各診療科の監査で問題を把握し、その解決に尽力

大森美和さん(ベトナム・看護師・2018年度4次隊)
再赴任時の残りの任期…約4カ月間

総合病院に配属された大森さん。再赴任後は、新型コロナウイルスの感染予防に対する同僚たちの関心の高さを感じたことから、感染予防につながることを強調しながら5S活動の推進に取り組んだ。

大森さん基礎情報





【PROFILE】
1980年生まれ、愛媛県出身。大学卒業後、中学校の英語科教員を経て、介護職として病院に9年間勤務。その間に看護師免許を取得。2019年4月、青年海外協力隊員としてベトナムに赴任。一時帰国、再赴任を経て、21年4月に任期を終了。

【2年間の協力隊活動】
配属先:ロンアン省総合病院
(1)初赴任時(2019年4月〜)
●配属先内の各診療科の監査
●監査で明らかになった看護技術や衛生管理・安全管理の問題の解決支援
(2)一時帰国中(2020年3月〜)
●再赴任後に向けた、勉強会の資料作成
●配属先以外のベトナムの病院を対象とするオンライン勉強会への参加
●日本国際看護学会での活動報告
(3)再赴任後(2020年11月〜21年4月)
●5S活動の推進支援
●新型コロナウイルス感染症の予防啓発を目的とした動画の作成(他隊員との協働)


【初赴任時】

院内監査の際に、看護技術に関するアドバイスを行う大森さん

 大森さんの配属先は、病床数約900床の総合病院。所属は、看護師の管理全般を担う「看護部」と、5S活動などを通じた院内の安全面や衛生面の管理を担う「品質管理部」の2つだ。両部の共通の課題である看護業務の質向上を支援することが、求められていた役目だった。
 両部は従来、それぞれで院内の各診療科を回って業務の状況を監査。しかし、内輪の監査であるがゆえ、甘くなってしまうという限界があった。そこで大森さんは、自身も別途監査を行い、「外部」の目で問題を探ることを提案。両部の部長から了承を得られたことから、最初の活動として着手することとなった。
 看護師たちの技術にはさまざまな問題があったが、着目したのは「点滴静脈注射」の技術だ。点滴静脈注射は静脈内に直接薬液を投与する治療法で、即効性がある反面、不適切なやり方によって患者の生命を奪ってしまうリスクもある。ところが、配属先の看護師たちはそのリスクの軽視が顕著だった。例えば、1分間に何滴投与するかは医師が安全性を考慮して指示を出すが、看護師たちは早く点滴を終えるため、指示を超えたスピードに設定。監査を通じて明らかになった問題については、看護部長に報告したうえで、勉強会を開いて看護師たちに改善を促していった。
 看護師たちの点滴静脈注射のやり方に改善の兆しが見えるようになった任期の半ばには、5S活動の支援に活動の軸足をシフトしていった。医療機関への5S活動の導入は、ベトナム保健省が推進しようとしていたが、配属先では停滞していた。
 まずは「一点集中」で5S活動の導入に弾みをつけようと考えた大森さんは、点滴に必要な物品を載せて病室に運ぶ「点滴カート」の管理に狙いを定めた。点滴カートは使いっぱなしのまま器材室に戻されている状態で、載せている物品をきれいにして所定の保管場所に戻すということがなされていなかったため、それらを介した感染が起こる可能性が高かった。そのため、まずは各診療科を回って点滴カートの管理状況をチェック。問題を具体的に把握したところで、急遽一時帰国しなければならないこととなってしまった。

【一時帰国中】

 一時帰国してまもない時期、所属する両部の部長とウェブ会議などで連絡をとり、配属先のために日本でできることを探った。しかし、「コロナ対策で忙しく、協力隊員のことを考える余裕がない。ベトナムに戻ってきてからその先のことを話し合おう」と伝えられた。そこで大森さんは一時帰国中、彼らの手を煩わせることなくできる活動に取り組むことにした。
 その1つは、再赴任後に向け、点滴カートの管理に関する勉強会の資料を作成すること。もう1つは、配属先以外の病院のスタッフを対象とするオンラインの勉強会への参加である。他の協力隊員がかつて配属されていた病院のリハビリ部門から、「引き続き協力隊員の力を借りたい」とのリクエストがJICAベトナム事務所に寄せられたことから、保健・医療分野の協力隊員たちと共同で開催したものである。「コロナ禍になり、それまで患者の介護を担っていた家族が病院に入ることが禁止されるようになったため、患者の転倒や転落が増えてしまった」という問題を聞いたことから、大森さんはその予防法に関する講義を行った。

再赴任後、5S活動に関する勉強会を行う大森さん

5S活動による改善がなされる前の点滴カートの管理。器材室での置き場所が定められていなかった

5S活動による改善がなされた後の点滴カートの管理。置き場所が定められ、それを示す印も貼られるようになった

【再赴任後】

 再赴任が叶ったのは、残りの任期が4カ月ほどとなった20年11月。ベトナムにおける人口あたりの感染者数が日本の80分の1程度という時期だった。新型コロナウイルスの感染者を隔離する施設が設けられたり、看護師のために防護服装着のマニュアルが作成されたりはしていたが、その他の点では一時帰国の前と変わりなく業務が進められていた。
 再赴任すると、同僚看護師たちからよく、日本の医療現場ではどのようなコロナ対策がとられているかを尋ねられた。日本の医療現場のあり方に対する彼女たちの関心が一時帰国前より高くなっていると感じた大森さんは、5S活動がコロナ対策にもなるということに着目し、点滴カートの管理方法だけでなく、5S活動でより広く業務改善を図るための支援に取り組むことにした。
 しかし看護師を対象に5S活動の勉強会を開いてみたものの、思いのほか興味を示してもらえなかった。そこで「5S活動は新型コロナウイルスの感染予防につながる」と強調。すると俄然、興味を示すようになった。そうして、わずか1、2カ月の間で、点滴カートを使った後は載せている物品を消毒して整頓することなどが徹底されるようになった。
 コロナ禍は病院への5S活動導入のチャンスだと実感した大森さんは、配属先以外の病院のスタッフを対象にした5S活動のオンライン勉強会を開きたいと考えた。しかし、打診した病院から「コロナ対策で忙しく、対応は難しい」と言われ断念。代わりに、後に他の病院の参考にしてもらおうと、SNSで配属先の5S活動の様子をベトナム語で発信したところで、大森さんの任期は終了となった。

知られざるストーリー