“失敗”から学ぶ

当初は意欲を見せた同僚教員が、次第に体育授業を放棄するように

話=川道明子さん(旧姓:桑原/パラオ・小学校教育・2018年度1次隊)

2年生のクラスで体育授業を行う桑原さん

 30人ほどのクラスが各学年に3、4ずつある小学校に配属され、各クラスで週に1コマずつある体育授業の支援に取り組んだ。学級担任制の学校だが、体育授業には2人の専任教員が配置されていた。いずれも体育教育の専門性はなく、1人は3年前に、もう1人は1年前に体育担任になった教員だった。私のカウンターパート(以下、CP)となったのは、3年前に体育担任となった40代の男性教員。体重が100キロ以上あり、体を動かすことを得意としていない人だった。CPの担当は3、4年生で、水曜日に3年生の4クラス、木曜日に4年生の4クラスの体育授業があった。私はほかの曜日にある1、2年生の授業を受け持つかたわら、CPの授業を支援することとなった。
 私が着任した当時、CPは野球のボールとバットを児童に渡し、好きに試合をさせるような授業ばかりをしていた。児童も「体育授業は遊びの時間」と捉えている様子だった。私は体育授業の方法がわからないのだろうと判断し、「授業の冒頭では教員が手本を示しながら準備運動をする」「試合をさせる前に個々の技術の説明をし、その練習をさせる」といった基本的な方法を伝えた。するとCPから「手本を見せてほしい」と要望されたことから、水曜日と木曜日の最初の2クラスの授業は私が行うことになった。
 体育授業に対する児童たちの積極性が増すと、CPは体育授業への意欲が向上。「今後は3、4年生のすべてのクラスの授業を私が担当するので、改善点をアドバイスしてほしい」と申し出てくれた。ところが、2カ月ほど経つとCPが「病院に行く」などと言って授業を休むようになってしまった。準備運動をしただけで息切れし、座り込んでいたので、体力的にきついことはわかった。しかし、もう少し経てば体を動かすことに慣れるだろうと私は考えた。校長に相談すると、「以前の彼と比べると、あなたが来てからはとても一生懸命に授業をするようになった。少し様子を見てはどうか」とアドバイスされたため、私は休むことをとがめるのは差し控えた。
 しかしその後、休む頻度は増加。授業の内容を負担が軽いものに変えることを打診しようと思ったが、その矢先にCPは家庭の事情で休職しなければならないこととなり、そのまま私の任期は終わってしまった。

隊員自身の振り返り

CPが体育授業を休むようになってしまった直接の原因は、私が提案した授業方法がCPにとって肉体的な負担が大きすぎるものだったからだと思います。炎天下、100キロを超える体重の人が準備運動の手本を見せたりするのは、相当な負担だったはずです。私はそれを察知して、「教員が休む時間を設ける」など、CPが耐えられる負担でどのような授業方法が良いのかを考えるべきだったと思います。せっかく先輩隊員から「パラオの人は自尊心が高く、自分から『できない』とは言わない」と聞いていたのですから、もっと早い段階で私から「つらいのですか?」と尋ねるべきだったのだろうと思います。

他隊員の分析

寄り添うことで自信を引き出す

 私の協力隊時代の任地でも、「体育授業は遊びの時間」と捉える教員や児童・生徒がほとんどでした。着任当初、日本と比較して「体育授業はこうあるべき」と授業の改善ばかりを求めてしまったところ、相手にしてもらえませんでした。そこで、現地の教員のもっと近くに寄り添って活動することにしました。例えば、彼らに無理のない範囲で、授業計画を自分で考えてもらうようにしました。すると次第に、「こういう授業だったら私にもできる」と自信を持って授業に取り組むようになり、授業内容も向上していきました。そうした経験を通して、寄り添いながら「自信」を引き出すことが大切なのだと感じました。
文=協力隊経験者
●アジア・体育・2017年度派遣
●活動概要:県教育事務所に配属され、中・高等学校などを巡回して運動部の競技力向上などを支援。

現地に合った授業づくり

 私は協力隊時代、それまで現地にはなかった「運動会」を企画・開催しました。現地の教員たちは当初、あまり協力的ではありませんでしたが、競技内容などについて何度も意見を求めたところ、次第に主体性を持ってくれるようになりました。本事例のように、協力隊員が授業の手本を見せることは、現地の教員に授業の具体的なイメージを持ってもらうために有効だと思います。そのうえで、協力隊員が提案する授業の方法をどこまで取り入れることができるのか、現地の状況を協力隊員より理解している現地の教員に意見を聞き、現地で実践可能な授業の形へとカスタマイズしていく作業が重要なのだろうと思います。
文=協力隊経験者
●アフリカ・小学校教育・2016年度派遣
●活動概要:視学官事務所に配属され、図工と体育の授業の定着を支援。

川道さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、宮城県出身。宮城教育大学初等教育教員養成課程体育・健康コースを卒業後、教諭として小学校に勤務。2018年7月に青年海外協力隊員としてパラオに赴任(現職参加)。20年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
コロール小学校(コロール州)に配属され、主に以下の活動に従事。
●体育授業の実施
●体育授業に関する同僚教員への助言
●放課後アクティビティの企画

知られざるストーリー