JICA Volunteers’ before ⇒ after

蔵本有紀さん(ザンビア・PCインストラクター・2016年度4次隊)

before:保育士養成校の教員
after:通信制高校のサポート校のチューター

「マイナス」をとがめ合うのではなく、「プラス」を認め合う——。そうした社会を目指すことの意義を協力隊経験を通じて確信するに至った蔵本さんは、帰国後、既存の学校教育に収まらない教育を求める子どもたちを受け入れる教育機関に就職した。

行き詰まりを打開するために

配属先の教員にPCの指導をする蔵本さん

 高校は進学校だったが、成績は落ちこぼれだった。勉強以外で活躍できる場を見つけなければと、生徒会活動などにも手を挙げたが、「勉強が先」と教員に拒まれた。「あいつはクズだ」。そう陰口を叩く同級生もいた。大学生になり、自分を蔑む人たちを見返すために「箔」を付ける手段にしようと考えたのが「海外」だった。外国語は苦手だったが、構わずバックパッカーとしてアジアの国々を旅した。
 大学卒業後は保育士を養成する専門学校に就職。クラス担任や情報処理授業の講師などとして社会人の第一歩を踏み出した。保育士の経験がない蔵本さんが担任するクラスの学生たちが、あからさまに「貧乏くじを引いた」という態度をとるなか、蔵本さんは保育士の経験がなくてもできる「成績を上げるために尻を叩く指導」に徹することにした。勉強が嫌いで怠けがちな学生は、容赦なく叱る。実習では上手に園児を扱うことができるけれども、座学の態度が悪い学生を叱った際、「私の可能性を潰さないで!」と反発されたこともあった。学生の「プラス」には目を向けず、「マイナス」の克服ばかりを求める指導は、自分が高校時代に受けて嫌だと感じたものだったが、「マイナス」に目をつぶることの正しさに確信が持てなかった。学生たちに陰で付けられたあだ名は「鬼の蔵本」。結局、担任したクラスは就職率が高く、学校側に評価されたが、「勉強が苦手な学生の可能性をつぶしている」という葛藤は消えなかった。
 そうして行き詰まりを感じるなか、打開策として思い出したのが「海外」だ。今とはまったく違う環境で暮らせば、仕事や生き方について新たな視点を得ることができるのではないか。そうして協力隊に応募。ザンビアに派遣されることとなった。
 協力隊員として配属されたのは小・中学校。主な活動は、小学校のクラス担任たちにPC指導の要領を教えることだ。小学校では理科授業にPC指導が組み込まれていたが、クラス担任たちにはPCの知識が乏しかった。

「旅」で視野を広げる教育機関

マレーシアにおける「旅」のプログラムで、現地の市場を回る「学院」の生徒

 派遣前の職場では、女性社員が結婚すると職場から「出産は迷惑がかからない時期に」というプレッシャーがかけられたが、協力隊時代の配属先ではそうしたことはなく、育児休業をとる職員の穴をほかの職員が嫌な顔をせず埋めていた。それを見た蔵本さんは、「マイナス」を補い合う社会の良さを実感した。
 一方、ザンビアに派遣されていた協力隊員たちのバックグラウンドはさまざまであり、共同で日本文化紹介のイベントを行うときは、「踊り」「器楽演奏」「写真撮影」などそれぞれが特技を生かせる役割を担い、盛大なイベントが実現した。そうした経験を通じて蔵本さんは、「プラス」を生かし合う社会を目指す意義について確信を得ることができた。
 この確信を踏まえて帰国後の進路に選んだのが、現在勤務するインフィニティ国際学院(以下、「学院」)。通信制高校のサポート校(*)である。「学院」が目指すのは、「勉強が苦手」などの理由で既存の学校教育に収まらなかった子どもたちの「プラス」を引き出し、彼らのなかから社会のリーダーを輩出することだ。生徒に寄り添いながら学びを支える「チューター」という立場での就職だった。
「学院」が「プラス」を引き出す方法としているのは「旅」である。国内外の各地を4週間ごとに移動しながら、その地の高齢者施設、農家、企業などさまざまな場で社会課題に関する探求を進めていく。「旅」と並行して、通信制高校「八洲学園大学国際高等学校」の卒業を目指した勉強を続け、大学進学という進路の可能性もつくる。チューターの主な役割は、「旅」のプログラムの企画や準備、引率、および通信制高校の勉強のサポートだ。
 チューターとして生徒に接するなか、蔵本さんはたとえ通信制高校の勉強が滞っているような生徒であっても、ためらいなく「プラス」をほめる。例えば、生徒が「旅」のプログラムを通じて「ITは世の中のさまざまな場面を便利にすることができるらしい」と起業の方向性を見出し始めたら、その気づきをほめる。簡単なことのようだが、「鬼の蔵本」の時代にはできなかったことだった。
 蔵本さんは現在、協力隊仲間を含め、自分が持つネットワークにいるさまざまなタイプの人物を「旅」のプログラムに取り込み、生徒たちの視野の広がりにつなげることに力を入れている。チューター自身がそのようにして自分の「プラス」を生かして仕事をすることができるのも、「学院」の特徴の1つ。そうした環境のなか、生徒と共に成長を続けていきたいというのが、蔵本さんの願いだ。

*サポート校…通信制高校の生徒や高等学校卒業程度認定試験の合格を目指す人の学習を支援する教育機関。






蔵本さんのプロフィール

【before】
[1990]
大分県出身
[2013]
3月、福岡女学院大学人間関係学部を卒業。在学中に教員免許状(中学校の社会科と高等学校の公民科)を取得
4月、学校法人に入職。保育士を養成する専門学校でクラス担任などを務める

【JICA Volunteer】
[2017]
3月、青年海外協力隊員としてザンビアに赴任(教員として専門学校に勤務するなか、学生の成績を上げることばかりに注力する指導で成果は出せたものの、そうしたやり方の正しさに確信が持てず、視野を広げるために協力隊に参加)
[2019]
3月、帰国

【after】
[2019]
7月、インフィニティ国際学院にチューターとして就職(「プラス」を引き出す教育を目指していると知り、応募を即決した)

インフィニティ国際学院
開校:2019年
事業内容:通信制高校のサポート校として単位取得のための勉強を支えるかたわら、国内外各地で集合型研修などの学びの場を提供する

※2021年12月〜22年3月入社のチューターを募集中です(問い合わせはウェブサイトから)。

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