女性対象の児童保護施設で
日本の文化を体験する講座を運営

細川椎菜さん(︎ペルー・青少年活動・2018年度1次隊)の事例

首都にある児童保護施設に配属され、日本文化を体験する講座を立ち上げた細川さん。任期後半になってから教えるようになった「折り紙ピアス」は、配属先の職員がこぞって買ってくれるようなものがつくられるまでになった。

細川さん基礎情報





【PROFILE】
1995年生まれ、静岡県出身。短期大学で保育士の資格と幼稚園教諭免許状を取得した後、児童養護施設に3年間勤務。2018年7月に青年海外協力隊員としてペルーに赴任(現職参加)。20年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
エルメリンダ・カレラ児童保護施設(リマ県リマ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●日本の文化を体験する講座の運営
●壁画を制作するプロジェクトの実施(他隊員との協働)


細川さんが行った白玉団子づくりの講座

 細川さんが配属されたのは、首都リマ市にある女性対象の児童保護施設。保護者による養育が困難な11〜18歳の児童に居住の場、食事、学校教育、放課後の講座などを無償で提供する公的施設である。約120年前にカトリックの修道会によって設立されたもので、現在はペルー女性社会的弱者省が所管する。敷地には8つの居住棟、小学校、中等学校、講座用の施設があり、児童は配属先に置かれた学校に通っていた。細川さんの着任当時の児童数は約140人で、職員数は約60人。配属先から求められていたのは、講座の充実化を支援することだった。
 児童の入所理由で目立ったのは「家庭の貧困」だ。兄弟姉妹が多く家計が苦しいために長女だけが入所しているといった、細川さんが派遣前に働いていた日本の児童養護施設では見られなかったケースもあった。また、交通事故により一家の大黒柱である父親を亡くし、家計が苦しくなったから入所したという地方出身者も少なくなかった。ペルーの地方農村部は整備されていない道が多く、バスが崖から転落する事故などが頻発していた。
 児童の入所理由は日本の児童養護施設との違いが大きいと感じたが、児童の「家族が恋しい」という気持ちは共通だった。日本の児童養護施設で七夕のイベントを開くと、児童の大半が短冊に「家族の元に帰りたい」と書いた。細川さんは協力隊時代も配属先で七夕のイベントを開いたが、やはり児童の大半が短冊に書いたのは、「家族の元に帰りたい」という言葉だった。

居住棟巡りで関係づくり

 配属先で講座が開かれるのは月・水・金曜日で、時間は午後3時からの1時間半。細川さんの着任当時、裁縫やパソコン、ダンス、音楽など多彩な講座が開かれており、児童はそれぞれ興味を持った講座を自由に選んで受講できることとなっていた。そうしたなかで細川さんは、新たな講座を立ち上げ、自力で受講者を確保することを配属先から求められた。
 その準備のために行ったのは、授業や講座が終わって児童たちが居住棟でゆっくりしているところを訪ね、おしゃべりをして人間関係をつくることだ。細川さんは配属先で初めて働く日本人。そのため当初は物珍しさから、児童たちは興味津々に細川さんを取り囲み、コミュニケーションをとってきた。その際、日本の写真を見せたり、漢字を書いてみせたり、折り紙を折ってみせたりすると、大いに盛り上がった。しかし飽きられるのも早く、居住棟を訪れた細川さんのもとに寄ってくる児童は回を重ねるごとに減っていった。
 そんななかで、いつも寄ってきてくれる常連が2人おり、彼女たちはやがて「将来、日本に行ってみたい」などと日本への興味の高まりを口にするようになった。そんな様子を見て細川さんは、「日本人」であることこそ、ほかの職員にない自分の特徴だと実感。新たに立ち上げる講座は、日本の文化を体験してもらうものとすることにした。常連の2人も「必ず講座に通う」と約束。彼女たちはその後、講座で扱うネタを決める際にはいつも相談役となってくれた。

折り紙ピアスが大好評に

折り紙ピアスづくりの講座で受講者がつくった作品

折り紙ピアスづくりの講座で、ペンチを使って折り紙の細部を整える受講者

 細川さんが講座をスタートさせたのは、着任の約半年後。実際に指導したのは、折り紙、日本語、書道、白玉団子づくり、ソーラン節などだ。受講者は常時6、7人ほど。一貫して通い続けてくれたのは、前述の2人だった。
 受講者に特に好評で、配属先の反響も大きかったのは、任期の半ばごろから継続して行うようになった「折り紙ピアス」の制作だ。通常の折り紙を16分の1の大きさに切り分け、小さな鶴や手裏剣などを折ってピアスの金具にぶら下げるものである。小さな紙をきれいに折るのは容易ではなく、上手にこなせるのは一部の児童に限られた。そこで、紙を折るのが得意ではない児童には「金具をペンチで曲げる」「マニュキュアを塗ってコーティングをする」などほかの工程を担当してもらい、「分業制」で進めることとした。質の良いものをつくることができるようになると、その後の材料費を調達するため、配属先の職員たちに販売。すると大変な好評で、ほぼすべての職員が買ってくれた。なかには、5、6個買ってくれたり、「次はこういう柄のものを」とリクエストしてきたりする職員もいた。
 任期の終盤には、講座に通い続けた2人のうちの1人(以下、Aさん)が、新たに折り紙ピアスづくりに参加するようになった児童の指導役を買って出てくれた。Aさんは当時16歳。まだしばらく施設での暮らしが続くことから、Aさんが講座を主導する役目を引き継いでくれる可能性が見えてきたところで、細川さんの任期は終了となった。
 Aさんは交通事故で父親と弟を亡くし、地方農村部で暮らす祖母と母親の元を離れて入所。大学に進学できるほど学業が得意というわけではないため、退所後は実家に戻る可能性が高い。そういう児童が、人格形成の重要な時期に異文化に出会い、熱中する経験ができたことは、人生にきわめて大きな意味を持つはずであり、それをアシストしたことは、協力隊員としてできた最大の貢献だったかもしれない——細川さんはそう考えている。

任地ひと口メモ 〈リマ県リマ市〉

ペルーの首都で、1000万人を超える人口を擁する大都市。16世紀にインカ帝国を征服したスペイン人により、太平洋岸の砂漠地帯につくられた街だ



野菜と果物が豊富に並ぶ市内のスーパーマーケット





チキンの炭火焼きにフライドポテトやサラダを添える、クリスマスの定番料理




知られざるストーリー