ごみの減量化に向け
小学校や中等学校などで環境教育授業を実施

松下芽依さん(ペルー・環境教育・2018年度1次隊)の事例

最終処分場の延命に向け、ごみの減量化への取り組みを強化しつつあった郡役所に配属された松下さん。活動の中心となったのは、学校や地域でごみの減量化に対する意識を持ってもらうための環境教育を行うことだった。

松下さん基礎情報





【PROFILE】
1991年生まれ、奈良県出身。大学卒業後、総合建設会社で営業職に従事。2018年7月、青年海外協力隊員としてペルーに赴任。20年3月に一時帰国し、同年7月に任期終了。

【活動概要】
サン・マルティン県サン・マルティン郡の役場に配属され、主に以下の活動に従事。
●小学校・中等学校・大学・市場などでのごみに関する環境教育の実施
●住民を対象とする環境啓発イベントの企画・運営


 松下さんが配属されたのは、内陸のアマゾン地域に位置するサン・マルティン県サン・マルティン郡の役場。郡内最大の町である人口約14万人のタラポト市で、学校などを回ってごみに関する環境教育を行うことが、求められていた役目だった。
 松下さんが活動した時期は、ごみに関する市の状況が変化している最中だった。着任当時、配属先が収集したごみは、最終処分場となっていた郊外の窪地に投棄していた。ごみの中の有害成分を含む浸出水が地下水を汚染する可能性があるなど、衛生上の問題がある「オープンダンピング」と呼ばれる処分方法である。しかし、着任の約1年後には、衛生上の問題がないよう管理された新たな最終処分場が竣工。浸出水による地下水の汚染を防ぐために遮水シートを敷くなどした施設である。
 最終処分場の延命化を図るために配属先が行うごみの再資源化の事業も、松下さんの任期中に変化した。最終処分場に投棄されるごみの7割は生ごみというなか、着任した当時、配属先は市場で出る生ごみを分別収集し、最終処分場の脇の空き地で堆肥化することを小さな規模で試験的に行っていた。それが、新たな最終処分場と共にその脇に屋根付きの堆肥化用施設が設けられたことから本格化。生ごみの分別収集の範囲も一般家庭へと広げられた。ペットボトルについては、着任当時はもっぱら民間の業者が首都のリサイクル業者に販売する目的で分別収集していたが、新たな最終処分場が出来てからは、業者が収集しきれない分を取りこぼさないため、希望する家庭は配属先が分別収集することになった。

高倉式コンポストの授業を実施

中等学校で高倉式コンポストの授業を行う松下さん

松下さんから授業を受けた中等学校の環境クラブのメンバーが、学んだことを他の生徒に伝える授業を行う様子

 このように配属先がごみを再資源化する事業を活発化させるなか、その効果を高めるために必要だったのが、ごみを出す側である住民の「分別」に対する意識を高めることだ。松下さんが取り組んだ環境教育は、主にごみの減量化に関する理解を深めてもらうものだった。
 環境教育は、配属先の担当職員やインターンと共に行った。市場や各家庭を回ったり、イベントでブースを設けたりして生ごみを分別して出すよう促すこともあったが、メインの活動となったのは、学校で環境教育の授業を行うことだった。任期の前半は、合わせて25の小学校・中等学校・大学で、ごみを正しく分別するアクティビティなどを行う授業を単発で実施した。
 任期の後半に入ると、高倉式コンポストの普及を進めたいというペルー環境省の意向を受け、配属先は松下さんたち環境教育チームに対し、学校での環境教育授業ではそれについて指導するようリクエスト。生ごみを堆肥化する方法の1つで、果物の皮などから摂取・培養した発酵菌を使うことで、短期間で堆肥化させることができる点などを特徴とするものだ。松下さんは環境省が実施した高倉式コンポストの指導者を養成する研修を受講したうえで、4週にわたって週に1回ずつ授業を行うプログラムを考案。5つの中等学校の11クラスで実施した。対象とした学校は、配属先が指定した学校や、前述の環境省の研修に教員が参加していた学校などだ。
 高倉式コンポストの方法を子どもたちに伝えても、手間がかかる作業なので、彼らがその後実践し続けてくれる可能性は薄いだろうと松下さんは感じていた。そこで、少なくとも授業での経験を通して「生ごみの堆肥化は自分事なのだ」との理解を持ってもらうべく、1回目の授業はまるまる「導入」としてその解説に充当。タラポト市の古い方の最終処分場の写真を見せながら、写真に映っているさまざまな種類のごみが分解されるまでにどれくらい長い期間がかかるか、タラポト市の家庭で出るごみの多くは生ごみであること、最終処分場がすぐにいっぱいになってしまわないようにするためには生ごみを減らすのが有効なこと、その手段の1つとして生ごみを堆肥化して利用するというものもあること、などを解説していった。

「参加型」で授業への興味を刺激

高倉式コンポストの授業で行ったジェスチャーゲームの教材。上から「空気」「水分」「食べ物」を表している

ごみの分別について教える授業のために松下さんが作成した教材。各種のごみを表すカードを、「有機ごみ」などのカテゴリーに分けていく

 着任当初、配属先の同僚たちが地域のイベントなどで環境啓発を行う際、「講義形式」で終始することが多かった。見ていると、集まっている人たちは次第に携帯電話をいじり始めたり、眠り始めたりしており、「ここの人たちは黙って人の話を聞くことは苦手なのだ」と松下さんは感じた。一方、自分自身が学校などで環境教育授業を行い始めた当初は、スペイン語の力も十分ではなかったため、長い時間講義をし続けることはもとより困難だった。そこで松下さんは授業にアクティビティを多く取り入れ、「参加型」となるよう工夫するようになった。すると、受講者たちは期待どおり楽しそうな表情を見せてくれた。
 特に受講者の反応が良かったのは、オリジナルのジェスチャーゲームだ。日本の「落ちた落ちたゲーム」のように、出された単語に対応するジェスチャーをしていくゲームである。高倉式コンポストの授業でもこれを取り入れた。「空気」「水分」「食べ物」をそれぞれ違う紙にイラストで表現したものを用意し、それぞれについてどのようなジェスチャーが対応するかを決め、生徒たちに伝えておく。そうして、手拍子をとりながら松下さんと生徒たちが「私たちは決まり事を守る」と掛け合いをした後、いずれかのイラストを松下さんが提示したら、生徒たちは提示されたものに対応するジェスチャーをしていく。「空気」「水分」「食べ物」は生ごみを分解する菌が生きるのに必要なもの。高倉式コンポストの作業では、菌と生ごみを合わせた後に「空気を取り込むためにかき混ぜること」「程よい水分を加えること」「野菜などを入れること」の3つが「決まり事」であることを覚えてもらうために取り入れたアクティビティだ。生徒たちは当初、恥ずかしそうにしていたものの、すぐに楽しんで取り組むようになり、翌週の授業で振り返りとして「3つの決まり事」を確認すると、生徒たちはジェスチャーを頼りに思い出すことができるのだった。





任地ひと口メモ 〈サン・マルティン郡タラポト市〉

内陸のアマゾン地域に位置する人口約14万人のタラポト市の市街地




タラポト市はカカオの名産地。写真は地元産カカオを使ったチョコレート製品を売る店




アマゾン水系にある滝は重要な観光資源となっている








知られざるストーリー