可能な取り組みから着手し
後の基盤づくりをする

小寺麻里菜さん(パナマ・コミュニティ開発・2018年度1次隊)の事例

14の村を管轄する行政機関に配属された小寺さん。村を巡回して活動を行うはずだったが、車が故障中でそれが不可能だったなか、徒歩圏内の家庭を訪問し、活動の端緒を探っていった。

小寺さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、群馬県出身。大学卒業後、地方公共団体に行政職で7年間勤務。2018年6月、青年海外協力隊員としてパナマに赴任(現職参加)。20年3月に帰国し、復職。

【協力隊活動】
パナマ環境省持続的環境開発センターのエル・カカオ支所(西パナマ県カピラ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●学校や地域での環境教育ワークショップの実施
●生活習慣改善指導の実施
●子どもたちへのキャリア支援


 小寺さんが配属されたのは、パナマ環境省持続的環境開発センターの地方支所。環境に配慮した形で地域が発展することを支援する機関で、有機農業やコンポストづくり、森林保全などに関する指導を住民に対して行っていた。配属されていたオフィサーは、支所長を含めて2人。小寺さんのカウンターパート(以下、CP)となったのは支所長ではない方のオフィサーで、農業分野の専門性を持ち、20年以上勤務してきた男性だった。配属先には8年ほど前に協力隊員が派遣されたことがあり、その際、共に活動したのもCPだった。小寺さんのメインの活動となったのは、配属先が管轄する村で、住民を対象に環境教育のワークショップを行うことだった。

名刺代わりに配布した折り紙

高齢者グループを対象に折り紙教室を行う小寺さん

高齢者グループの折り紙教室の受講者

現状で可能な取り組みから着手

 配属先が管轄する地域には14の村が存在していた。それらをCPと共に巡回して活動を行うはずだったが、着任当時、配属先の車は故障。各村までの道は未舗装で、雨期は水かさがドアまで達する箇所も走らなければならず、故障は日常茶飯事とのことだった。村はいずれも配属先から離れており、徒歩で赴くのは難しかったため、小寺さんはたびたびCPに車の修理状況を尋ねたものの、いつまで経っても返ってくるのは「今、修理している最中だ」との返事ばかりだった。気になって同期隊員のSNSを覗くと、少しずつ活動が始まっている様子がわかり、小寺さんの焦りは募っていった。
 いつになるかわからない状況の好転をただ待っているだけでは仕方がない、現状でできることを実践していこう——。そう考えて小寺さんが動き出したのは、着任の約1カ月後だ。午前中は、CPが行うコンポストづくり指導のための資料づくりや、用務員が行う配属先の庭の整備などを手伝い、午後は配属先から徒歩で行ける範囲にある町中の家庭を一軒ずつ訪問し、自己紹介を行うというルーティンをつくった。
 必ず午前中は配属先にいることにしたのは、同僚たちとの関係づくりに不可欠だと考えたからだ。「最初のうちは、毎日配属先に行って、どんな話題でも構わないから同僚たちとコミュニケーションを取り、関係づくりに努めることが仕事なのだと思ったほうが良い」——先輩隊員からそんなアドバイスを受けていた。配属先で毎日「雑用」とも言えるような作業に取り組んだことは、CPなどとの関係づくりだけでなく、ほかの人たちとの関係づくりにもつながった。例えば、通勤で配属先の前を通る外部の人が、庭の整備をしている小寺さんに声を掛けてくれるようになり、後に地域で環境教育のワークショップを行った際に助っ人となってくれたりもした。
 一方、家庭訪問をすることにしたのは、「地域に出れば何かのきっかけになるかもしれない」と考えたからである。Google マップに表示されない道が多くある地域だったため、自己紹介のために回る際は毎回、新たな方面をおよその見当で歩きながら、地図を自作していった。行くつもりの方面は必ず事前にCPに伝え、安全性の面で問題がないかどうかを確認した。
 自己紹介で活用したのは「折り紙」だ。花を折って自分の名前を書き、訪問先に渡した。これが、住民との距離を縮めるきっかけとなった。子どもがいる家庭では「ほかのものも折って」とリクエストされ、初対面でも懐いてくれるようになった。着任して3カ月経ったころには、高齢者グループから「手指の運動になるから」と依頼を受け、公民館で週1回、折り紙教室を開催するようになった。さらにその受講者から孫へ、孫から校長へと小寺さんのことが伝わり、校長からの依頼で学校での折り紙教室を開く機会も与えられた。

CPに思いが伝わり、活動が進展

学校で環境教育の授業を行う小寺さん

 家庭訪問の取り組みは、その後の活動にとっていくつかの点で良いステップとなった。  その1つは、スペイン語を使ったコミュニケーションの訓練になったという点だ。折り紙教室を重ねたことで、大勢の人の前に立って話をすることに慣れたため、後にコミュニティの巡回が可能となり、環境教育のワークショップを始めたときも、当初から手こずらずに済んだ。
 折り紙教室を開いた学校では、環境教育授業の継続的な開催が叶い、さらに学校との連携で子どものキャリア支援も実施できた。
 家庭訪問の取り組みのもっとも大きな効果は、小寺さんに対するCPの信頼が厚くなった点だ。着任当初、スペイン語がまだ苦手な小寺さんが、あまり積極的に会話をしようとしないことをCPは不満に思っており、「もっとスペイン語で話そうとすべきだ。使わないと話せるようにならない」などと伝えてくることもあった。そうしたなか、単身で地域住民の中に飛び込んでいった小寺さんを頼もしく感じたようで、コミュニケーションを以前より積極的にとり、活動を二人三脚で進めてくれるようになった。後になってわかったことだが、CPはこの時期、配属先の本部に「車がなければ協力隊員が活動できない。何とかしてほしい」と掛け合い続けていた。その結果、本部にある車を2週間交代でシェアしてもらえることになった。小寺さんの着任から半年ほど経った時期である。以後、それまでの家庭訪問の取り組みをステップとするさまざまな活動を展開することができた。

小寺さんのひとことアドバイス

軸足は配属先に
配属先の予算などの都合で、求められている活動に着手できない場合、配属先以外で活動のパートナーを見つけるのも打開策の1つですが、後に同僚たちから協力を得るためにも、配属先との接点を持ち続けることは重要だと思います。

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