着任早々の失敗をもとに
活動の妥当な方向性を獲得

木村正樹さん(ベリーズ・環境教育・2017年度3次隊)の事例

学校での環境教育の活性化を求められて町役場に配属された木村さん。着任当初、先輩隊員の活動を参考に試みた活動が頓挫するなか、その失敗を通じて配属先の状況を察知。活動の妥当な方向性を見出すことができた。

木村さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、民間企業で貿易業務に従事。2018年1月、青年海外協力隊員としてベリーズに赴任。20年1月に帰国。現在は自動車部品メーカーに勤務。

【協力隊活動】
オレンジウォーク町役場(オレンジウォーク郡)に配属され、主に以下の活動に従事。
●学校を巡回しての環境教育授業の実施
●環境啓発イベントの開催(ごみ箱デザインコンテストやクリスマスツリーコンテストなど)


 木村さんが配属されたのは、ベリーズ北部に位置するオレンジウォーク町の役場。約20人の職員が働いていた。同役場では「誇りと愛着を育む教育活動」に力を入れており、その一貫として学校での環境教育を活性化させることが、木村さんのメインの活動となった。

着任早々のトライアル&エラー

学校で環境教育の授業を行う木村さん

 木村さんは配属先に派遣された4代目の環境教育隊員。1〜3代目の協力隊員は主に学校での環境教育に取り組んできたことから、自身の活動もそれが中心となる心づもりで赴任した。先代までの協力隊員は単独で活動に取り組んでおり、着任時、学校での環境教育を担当している同僚はいなかった。
 木村さんが学校で活動するためには、配属先から学校に対して教員免許状なしに活動することの許可を求めるレターを出してもらうことが必要だった。しかし、対応してくれるはずの同僚が多忙で、手続きが停滞。配属先からほかの活動を求められることもなかったため、最初の活動は木村さん自身で見つけ出さなければならない状況だった。
 木村さんは活動のアイデアを学ぶため、先輩の環境教育隊員の活動現場を見学。先輩隊員が取り組んでいたのは、ごみの減量に関する啓発として、コンポストをつくり、それを使って育てた野菜などを販売することだった。木村さんは早速、配属先の敷地でコンポストづくりを開始。ところが、同僚たちはそのことにほとんど関心を示さなかった。コンポストづくりの知識を持つ1人の職員が木村さんの作業現場にやって来たが、助言をするばかりで、共に進めようとはしてくれなかった。同僚たちのそうした反応を見た木村さんは、たとえ上手くつくることができるようになっても、その活動をいずれかの同僚が引き継いでくれることはないだろうと判断し、コンポストづくりをストップした。
 次に取り組むことにしたのは、「ガーデニング」である。配属先の敷地には何にも使われていない土地があったことから着想した活動である。そこに花や木を植えて美化を図り、それを目にする同僚や住民たちの環境に対する意識の向上につなげようと考えた。ところが、やはり同僚たちは一向に関心を示さない。そうしてコンポストづくりの場合と同様の理由で断念することを決めた。着任して1カ月半ほど経ったころだ。
 着手した活動が立て続けに頓挫したことで、木村さんの落胆は大きかった。しかし、早々にトライアル&エラーを経験したことで、より妥当な方向へと活動の舵を早めに切り直すことにつながった。同僚たちは協力隊員と協働することは望んでおらず、先代までの協力隊員と同様、木村さんにも単独で活動することを求めている——自身が置かれているそんな状況を察することができたからだ。学校で環境教育を行うにしても、現地の誰かがそれを引き継ぎ、協力隊員がいなくても継続されるような形で取り組みたいと考えた木村さんは、配属先以外で協働してくれる人を見つけようと決意。町を回ってまずは顔を売る「営業活動」に力を入れることにした。

熱心にガーデニングを行うマヤ村の家庭で育てている植物について聞き取りを行う木村さん

学校対抗で開催した「ごみ箱デザインコンテスト」の参加者とその出品作品

学校対抗で開催した「クリスマスツリーデザインコンテスト」の参加者とその出品作品

現地について深く学ぶことが端緒に

 回った先は、学校や図書館、文化施設など。訪問先では、そこの事業の概要などを尋ねつつ、自分がどのような目的でベリーズにやって来たかを紹介した。
 その後の活動に特に大きな影響があった出会いは、着任の約2カ月後に初めて訪問した「ハウス・オブ・カルチャー」(以下、「ハウス」)と呼ばれる文化施設だ。ベリーズ政府は同種の施設を各地に置いており、その地方の文化を保全したり、対外的に発信したりすることを主な事業としていた。
 その訪問がきっかけで、「ハウス」のスタッフが先住民のマヤ族が暮らすマヤ村で文化を記録する動画を撮る取材に同行させてもらうことができた。村ではガーデニングに熱心な女性たちが多く、「活動のネタになる」と感じた木村さんは以後、毎週末にマヤ村を訪問。育てている植物のことをはじめ、人との付き合い方や休日の過ごし方、食事など村の文化を教わった。一方、取材に同行していた「ハウス」の関係者のなかに、マヤ族ではないけれどもその文化に詳しい女性(以下、Aさん)がいたが、彼女は現地の文化を知ろうとする木村さんの姿勢を評価。以後、家に招いてはベリーズのことを教えてくれた。
 マヤ村の女性やAさんから教わった現地の知識は、後の糧になった。最初に環境教育授業をする機会を与えられたのはマヤ村の学校だったが、現地の文化のディテールに触れる授業は受けが良く、評判が広まって他校でも継続的に実施できるようになった。
 学校での環境教育授業については、結局最後まで担当者を確保することはできなかったが、教員への指導には力を注ぎ続けた。そうして任期の終盤には、巡回先の学校による合同の環境啓発イベントが、各校の教員たちが主体となって2つ実現した。町に置くごみ箱のデザインと、ごみをリユースしてつくるクリスマスツリーのデザインを学校間で競うものだ。構想は木村さんが練ったが、運営は教員たちが担当。全国ネットの放送局や全国紙にも取り上げられ、配属先としても広報の点で無視できない反響だったことから、学校と共同でイベントの定着を目指しており、木村さんは帰国後もアドバイザーとして日本から参画している。

木村さんのひとことアドバイス

トライアル&エラーは早めに
着任早々、配属先のニーズも良くわからないままいくつかの活動を試み、ことごとく頓挫。しかし、その経験は配属先の状況を知る手立てとなりました。着任当初は、考えすぎずに何かを実行してみるというスタンスも有益かと思います。

知られざるストーリー