小中高一貫校の英語授業への
ペアワークやグループワークの導入を支援

大塚 圭さん(︎キルギス・青少年活動・2018年度1次隊)の事例

市の教育行政を所管する機関に配属された大塚さん。初等中等教育における英語教育でコミュニケーションの能力を養うことが重視されつつあったなか、その手法の紹介に取り組んだ。

大塚さん基礎情報





【PROFILE】
1980年生まれ、東京都出身。米国の大学院修士課程を修了した後、2005年より中央大学杉並高等学校に外国語科(英語)の専任教員として勤務。2018年7月、青年海外協力隊員としてキルギスに赴任(現職参加)。20年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
ビシュケク市教育局に配属され、小中高一貫校で行われている英語教育に関する主に以下の活動に従事。
●教員を対象としたワークショップの実施
●パイロット校の教員への継続的な技術指導
●教員用教材の作成


 大塚さんが配属されたのは、キルギスの首都ビシュケク市の教育行政を所管する市教育局。初等中等教育で行われている英語教育の質向上を支援することが、求められていた活動だった。

英語教育の充実化

 同国がソ連から独立したのは1991年。キルギス語が国家語だが、現在もロシア語が公用語とされている。そうしたなか、グローバル化の進展を受けて政府が力を入れているのは、初等中等教育での英語教育の充実化だ。同国で初等中等教育が行われているのは、全11学年の小中高一貫校。1〜4年生が初等教育(小学校に相当)、5〜9年生が前期中等教育(中学校に相当)、10〜11年生が後期中等教育(高等学校に相当)となっている。英語授業がカリキュラムに組み込まれているのは3〜11年生。学年ごとに週2〜5のコマ数が定められており、かならずクラスの児童・生徒を分けて20人以下の少人数で授業をしなければならないことになっている。授業を担当するのは、英語科専任の教員だ。
 大塚さんが派遣されたのは、教科書の改訂が政府により進められつつある時期だった。着任の時点で改訂が完了していたのは、3〜6年生の教科書。ソ連時代から使われてきた改訂前の教科書は、英語の長文を中心としており、翻訳して文法を学んでいく授業に合ったものだ。一方、改訂後の教科書は、児童・生徒が1対1で英語を使った会話をする「ペアワーク」や、3人以上で英語を使った会話をする「グループワーク」などを取り入れる授業に合ったもので、内容は英語の会話例が中心。英語によるコミュニケーション能力の育成を重視するという政府の方針にもとづいた改訂である。

任期前半に各校を回って行った英語教員対象のワークショップ

パイロット校の教員とチームティーチングで行った英語授業でのペアワーク

大塚さんが自作した、ペア・グループワークのアイデアを紹介する教員用教材

全校でのワークショップから開始

 大塚さんの配属先が管轄する小中高一貫校は97校。配属先は年に1回、管轄校の評価を行うために各校を回っており、大塚さんが着任してまもなくそれが実施されることになった。英語教育の現状を知るチャンスだと考えた大塚さんは、同行させてもらって授業を見学。教員たちは積極的に英語で児童・生徒に話しかけてはいるものの、その相手は英語の得意な一部の児童・生徒に限られており、改訂版の教科書がある学年でもペアワークやグループワーク(以下、ペア・グループワーク)を取り入れてはいなかった。国内に教職課程を持つ大学はなく、英語教員たちは英語教育の専門性を身につけずに教職に就いた人たち。配属先は月に1回、彼らのスキルアップを図るための研修を開いていたが、そこではまだペア・グループワークの指導がなされていなかった。そこで大塚さんは、ペア・グループワークが授業に導入されることを目標に据え、それに向けて以下の3つの活動に取り組んだ。

(1)各校でのワークショップの開催
 任期の前半、英語教育が行われていない特別支援学校を除く管轄校91校のすべてで、それぞれ1回ずつ、英語教員たちにペア・グループワークのやり方を伝える1時間半ほどのワークショップを行った。ワークショップの前半は、日本の英語授業の映像なども使いながら、ペア・グループワークの意義や実施のコツなど概要を説明。後半は、教員たち自身に児童・生徒の立場になってペア・グループワークを体験してもらった。
(2)パイロット校での継続的指導
 ワークショップを91校で行った後は、市内の4地域で「パイロット校」を1校ずつ選び、それぞれ週に1回のペースで継続して訪問。大塚さんが単独で英語授業をやってみせたり、英語教員とチームティーチングをしたりしながら、「どういう場面でどういう声がけをするか」など、ペア・グループワークの細かな技術を彼らに伝えていった。大塚さんの帰国後、地域でペア・グループワークの技術向上を先導する役割を果たしてもらえるような学校をつくっておきたいとの考えから取り組んだ活動であり、パイロット校に選んだのは、各校でワークショップを行った際にペア・グループワークの技術の習得に意欲的な英語教員がいた学校だ。
(3)教員用教材の作成
 パイロット校での指導を始めたのと同時期に、教科書を補う教員用教材の作成を開始した。教科書に掲載されていないペア・グループワークのやり方のアイデアを、「be動詞」など教科書で扱われている文法項目ごとに紹介するものだ。イラストはキルギスの美術隊員に依頼。任期終了までの半年ほどで約100ページの教材が完成した。

 パイロット校での指導の成果は、任期が終了する前に現れ始めた。配属先が月に1回行う前述の研修で、パイロット校の教員にペア・グループワークに関する講義を担当してもらうことができたのだ。一方、作成した教員用教材は、JICAの現地業務費を使って印刷し、ビシュケク市の小中高一貫校に配布。さらに、キルギス教育省から発行してもらうよう配属先が同省に正式に依頼したところで大塚さんの任期は終了。同省からの発行が叶えば、全国の小中高一貫校で活用されることとなる。

任地ひと口メモ 〈チュイ州ビシュケク市〉

ビシュケク市は人口約100万人の首都。写真は、ソ連時代の1984年に街の中心につくられたアラトー広場。国立歴史博物館などが隣接する観光の名所だ



キルギス最大の市場、オシュバザール





「ナン」と呼ばれるキルギスで一般的な円盤型のパン




知られざるストーリー