現地で調達可能な物で実践できる
図工授業のアイデアを紹介

飛田梨圭さん(カメルーン・小学校教育・2018年度1次隊)の事例

小学校を巡回して図工授業の質向上支援に取り組んだ飛田さん。材料や道具を用意する予算が学校にないなか、無料もしくは安価で手に入る物を活用する方法を紹介していった。

カメルーンの学校教育
【学校体系】
●就学前教育:4〜5歳児が対象
●初等教育:6年間(義務教育)
●前期中等教育:4年間(普通課程)
●後期中等教育:2年間(普通課程)
●高等教育:3〜6年間(学士課程)
【年度開始】
9月(3学期制)

飛田さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、愛知県出身。大学で小学校の教員免許状を取得した後、教員として小学校に3年間勤務。退職後の2018年6月に青年海外協力隊員としてカメルーンに赴任。20年3月に一時帰国し、同年6月に任期終了。

【協力隊活動】
ンバムイヌブ県初等教育事務所(中央州)に配属され、主に以下の活動に従事。
●配属先が管轄する小学校での図工の授業の質向上支援
●教員養成校での図工に関する指導


 飛田さんが配属されたのは、カメルーン初等教育省の地方出先機関である県初等教育事務所。求められていたのは、小学校で図工、体育、音楽の授業の質向上を支援することだった。
 配属先は10の公立小学校を管轄していたが、飛田さんはそのなかの徒歩圏内にあった3校を巡回して活動を行うことにした。いずれも約80人のクラスが各学年に2、3ずつある学校だ。着任するとまずは3校で授業を見学させてもらったり、教員たちに支援の希望を尋ねたりして、現場の状況をリサーチ。教員たちには図工と体育の支援をリクエストされたが、飛田さんは体育が得意ではなかったことから、図工の支援に重きを置くことにした。

図工授業で制作した、壁に貼る大きな貼り絵。児童たちの夢とクラスのスローガンを表現してもらった

紙を染めるために使った花びら

児童たちに好評だった七夕の網飾りの制作で、教員たちに提供した制作手順のマニュアル。作成したマニュアルはすべてまとめて巡回先に残してきた

教員の苦手意識の克服に向けて

 同国では小学校のカリキュラムに全学年で図工教育が組み込まれており、学習指導要領や教科書もあった。巡回先では各クラスで週に1、2コマ図工授業があり、学級担任がそれを実施することになっていた。しかし飛田さんの着任時、巡回先で授業を継続的に行っている教員は少なく、行っている教員も内容が「絵画」に偏っていた。そうした事態にはいくつかの原因があると考えられた。卒業資格を認定する国家試験で出題範囲に含まれていないこと、教員自身が図工授業を受けた経験がないため、授業の要領がわからないこと、道具や材料を学校に用意してもらうのが予算上難しいことなどだ。
 飛田さんは、教科書で「工作」の扱いが多い5、6年生に対象を絞り、各クラスの担任教員と共に図工授業を行いながら、工作の指導の仕方を伝えていくことにした。課題はやはり、材料や道具をどう調達するかという点だった。「白い紙」は児童が持参したり、ノートのページをちぎったりして準備することはできた。そうして「折り紙」の指導などはできたが、教科書に載っている「貼り絵」や「切り絵」などは、糊や絵の具、色紙、はさみなどが必要となる。それらの購入を学校に求めたが、難しいとの返事だった。そこで飛田さんは、無料もしくは安価で手に入る物で代用する方法を考え、実践。糊については、児童たちにそれぞれ小麦粉を少量ずつ持参してもらい、水と混ぜて手づくりした。紙に色を付けるために利用したのは、現地でよく売られているハイビスカスジュースの材料に使われていた花だ。青紫色の染料になることを知り、かつ安価なので教員たちに自費で購入してもらうことも可能だと考えられたため、まずは飛田さんが自費で購入して授業で使ってみせた。はさみはやむを得ず飛田さんが自費で購入し、各校の備品として使ってもらうことにした。
 飛田さんが授業を行ったクラスの担任教員のなかには、はさみの使い方を知らない人もいた。そうした教員に使い方を伝えて練習してもらうと、腕前が上達するのを楽しく感じたようで、より積極的に授業に関与してくれるようになった。その様子から、教員たちが図工授業の実践に消極的だったのは、彼らの苦手意識が大きな原因だったのだろうと考え、以後、授業を行うクラスの担任教員には、なるべく児童と一緒に制作に取り組んでもらい、「切る」「貼る」「塗る」といった作業への自信を持ってもらうよう努めた。そうして任期が2年目に入ると、1年目に飛田さんとの授業で扱った制作課題の指導を、単独の授業で実践する教員も出てきた。

子どもの日のイベントに向けて制作した猿の像

子どもの日のイベントに向けて制作した日本の国旗のモザイク画

子どもの日のイベントで制作したモザイク画を掲げてパレードする児童たち

環境教育と図工教育の合わせ技

 思いがけず、任地で広く図工授業をPRする機会になったのは、着任して半年ほど経った時期に授業で行った「廃材を使ったアート」の制作だ。カメルーンで「子どもの日」という祝日になっている2月8日には、毎年、各学校の児童・生徒たちがパレードをするイベントが開かれていた。町にポイ捨てされているゴミが多いことが気になっていた飛田さんは、共に図工授業を行っている教員の1人に、環境問題の啓発を目的に児童たちでごみ拾いをして、図工授業で児童たちに拾った廃材を使ったアートの共同制作をさせ、それを掲げてパレードさせてみようと提案。この機会を利用して、環境問題の啓発と図工授業の活性化の両方を狙う取り組みで、同国のアーティストの活動を参考にしたアイデアだった。
 制作を行うことになったのは、巡回先の学校の5年生と6年生の1クラスずつ。5年生のクラスではペットボトルでつくる猿の像、6年生のクラスではビール瓶の王冠をベニヤ板に打ち付けてつくる国旗のモザイク画をつくった。イベントの3カ月前に制作を開始し、当日までには完成。猿の像は持ち運ぶと壊れる可能性が高いことから、パレードに持ち込むことは断念したが、モザイク画は重いながらも児童が交代で掲げながら行進した。
 任地の一大イベントであるため、パレードは多くの住民が参観。すると、モザイク画を見た飛田さんの巡回先以外の小学校の教員から、「うちの学校でもあれのつくり方を指導してほしい」とのリクエストが舞い込んできた。「廃材を使ったアート」は図工授業の活性化の起爆剤になると感じたことから、以後の授業ではそれを多く扱おうと考えたが、コロナ禍による一時帰国のため、その実現は叶わなかった。

飛田さんの流儀

「『ものづくりの楽しさ』を知ってもらう」
人間は多様です。主要教科は不得意だけれども、ものづくりは得意だという子もいます。そういう子どもがものづくりの楽しさに目覚める機会をつくることこそ、図工授業の重要な意義であり、そういう目覚めを促す図工授業を現地の教員に実践してもらいたいとの思いで、私は活動に取り組みました。そして、教員たちの実践を促すには、教員たち自身にもものづくりの楽しさに目覚めてもらうことが必要だというのが、活動を通して実感したことです。

知られざるストーリー