“失敗”から学ぶ

着任早々に語学力不足を指摘され、発言を控えるようになってしまった

話=後藤麻衣子さん(チリ・作業療法士・2017年度2次隊)

料理の作業による集団療法を行う後藤さん

 私は、他職種の隊員が派遣されたことのあった一次医療機関に配属された。作業療法士と理学療法士が数人ずつ配置されていたリハビリ部門で技術支援をするというのが要請内容だった。
 派遣前訓練と現地語学訓練では、現地で使われているスペイン語を学んだ。現地語学訓練のときまでは、スペイン語の力が伸びていくことを楽しく感じていた。着任時も、語学力不足におびえないで積極的にコミュニケーションをとっていけばなんとかなるはずだという自信があった。
 着任の1週間後、休憩時間に同僚たちが集まっている場で、まだ初対面に近かった同僚から「このスペイン語は知っている?」などと、下ネタを含めてあれこれ語句の知識を問われた。それらは私が知らない語句ばかりだった。すると、「前任の協力隊員とは違って、あなたはスペイン語が全然できないのね」と言われてしまった。
 軽口で言われたことだとはわかっていた。しかし、着任直後の緊張している時期だったことから、私のショックは大きく、以後、同僚たちと会話をすることに怖気づいてしまった。同僚に食事に誘われたら断らないようにするなど、プライベートで人間関係をつくろうとは努めた。しかし、語学力不足を指摘されてしまうのではないかという自信のなさから、どうしても口数は少なくなってしまった。カウンターパートに「辛いときには、食事などに誘われても断って大丈夫だよ」と言われ、同僚からの食事の誘いを断ったこともあった。
 人間関係が出来ていない状態では、同僚たちにリハビリの技術的なアドバイスをすることは難しかった。そうしたなか、自分の専門性を生かすことができる役割を模索して見つけた活動は、配属先がやらなければならないけれども手薄になっていた訪問リハビリを担うこと。単独での活動だった。
 着任して半年ほど経つと、旅行先でスペイン語が達者なことに驚かれ、語学力の上達を実感して自信が湧く機会はあった。しかし、任地に戻って活動を再開すると、また臆病さが戻ってしまった。そうした状態は任期が終わるまで続き、同僚たちに技術を伝えることは十分にはできなかった。

隊員自身の振り返り

語学力不足を指摘されてしまうのではないかという不安から、同僚たちとの会話での発言がどうしても少なくなってしまったことで、彼らには「まじめに活動に取り組んでいるけれども、何を考えているのかよくわからない日本人」として映ってしまっていたのだと思います。どこかのタイミングで勇気を振り絞り、自分にできること・できないこと、やりたいこと・やりたくないこと、自分は何が好きで何が嫌いかなどを言葉で伝え、私について知ってもらえれば、興味を持って世話を焼き、私と同僚たちをつなげてくれるような人が現れたのかもしれません。

他隊員の分析

「何でも教わろう」という姿勢を

 同僚たちに語学力について前任者と比べられるという経験は私にもあります。そのときに語学力の低さをあらためて実感させられましたが、すぐに改善できることではないため、言葉も含め、仕事のやり方や生活、文化や宗教などさまざまなことを同僚たちから教わることから始めようと決めました。すると、会話はおぼつかなくても次第に彼らとの距離は縮まり、互いを知り合うことができました。そうして、彼らが私に何を求めているのか、配属先での私の役目は何かを見出すことができ、活動を軌道に乗せることができました。着任当初は会話についていけない怖さは避けられませんが、ほんの少しの勇気で活路は開けると思います。
文=協力隊経験者
●アジア・理学療法士・2018年度派遣
●活動概要:県病院に配属され、同僚への技術支援に従事。

まずは冗談を

 私が派遣されたのは、何代にもわたって協力隊員が派遣されてきた病院だったため、多くの同僚たちから過去の協力隊員の話を聞かされ、ときに比較もされました。私も着任時の語学力はきわめて低かったのですが、ちょっとした冗談が言えると「楽しく話ができる相手」と見られ、たとえ語学力が低くても労を惜しまず会話に応じてもらえました。また、語学力の低さなどに構うことなく付き合ってくれるような人が見つかれば、語学力が足りない時期を乗り切ることができます。私は配属先以外のコミュニティでそういう友人が見つかり、彼との付き合いで語学力が伸び、自信を得ることができました。
文=協力隊経験者
●アフリカ・薬剤師・2017年度派遣
●活動概要:県病院に配属され、院内薬局の業務支援などに従事。

後藤さん基礎情報





【PROFILE】
1984年生まれ、新潟県出身。千葉県医療技術大学校を卒業後、作業療法士として総合病院、介護老人保健施設、訪問看護ステーションに勤務。2017年10月に青年海外協力隊員としてチリに赴任。19年10月に帰国。

【活動概要】
ラス・カブラス診療所(オイギンス県ラス・カブラス市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●外来リハビリや訪問リハビリの支援
●同僚を対象とするリハビリ技術のワークショップの開催

知られざるストーリー