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北海道初の野球独立リーグを発足

出合祐太さん(ブルキナファソ・野球・2007年度4次隊)
北海道ベースボールリーグ 理事長

野球の黎明期にあったブルキナファソでその普及に取り組んだ出合さん。そこで得た「開拓者」としての力を使い、北海道初となる日本の野球独立リーグを立ち上げた。

2020年の公式戦の様子

北海道ベースボールリーグの初シーズンを戦った「美唄ブラックダイヤモンズ」と「富良野ブルーリッジ」の選手たち

 北海道初の野球独立リーグ「北海道ベースボールリーグ」が2020年5月に誕生した。2年目となる21年のシーズンは、富良野市、美唄市、士別市、石狩市の4地域を本拠地とする4球団で試合を繰り広げている。その発起人であり、代表を務めるのは、協力隊経験者の出合祐太さんである。
「野球への情熱を持った国内外の選手たちに研鑽の場をつくることが、発足の目的でした」
 北海道ベースボールリーグの各球団は本拠地の人々が運営を担うことを決まりとしており、「選手の育成」と「地域活性化」の両方の機能を果たしている。各球団の本拠地は、いずれも過疎・高齢化の課題を抱えている地域。4球団に所属する約80人の選手たちは、午前中は地元の企業や農家などで働いて地域の労働力不足を補いつつ、生活に必要な収入を得て、午後に野球の練習や試合に取り組む。試合の観戦は無料。各球団は地域の企業にスポンサーとなってもらうなどして、選手たちの宿舎や練習環境、遠征などの費用をまかなっている。選手たちは一部を除き、「育成枠」であり報酬はない。「野球がうまくなりたい」という選手にとってはチャンスの場であり、地域にとっては地域課題の解決が望める、両者がwin‐winの関係になる仕組みとなっている。
 選手たちが午前中の仕事で地域の人々との関係を深めると、仕事の関係者たちが自分の子や孫を応援する気分で試合を見に行くようになる。そうして選手と地域の人々が互いに元気づけ合う関係になることが広まり、まだ球団がない地域からも続々と球団設立の希望が上がっている。
「北海道ベースボールリーグの仕組みは、誰かが儲かるというものではありません。野球に情熱を持つ若者を過疎・高齢化が進む地域に呼び込み、両者が協力し合う関係を生み出す土俵のようなものです」

まずは「旗」を立てる

 出合さんは小学生のときに始めた野球を大学時代まで続けた。仕事で野球に携わることはないだろうと思っていたが、野球の職種で派遣された協力隊員の新聞記事を読み、新たな野球へのかかわり方に興味が湧いた。大学を卒業するタイミングでは野球隊員の募集がなかったため、就職。約2年間働いた後、野球隊員としてブルキナファソに派遣されることが叶った。
 主な活動は、子どもたちに野球を普及させること。当時、同国では野球についてほとんど知られておらず、ゼロからのスタートだった。そうしたなか、野球に興味を持って近づいてきてくれたのが、現在、野球独立リーグ「四国アイランドリーグplus」の高知ファイティングドッグスの選手として活躍するサンホ・ラシィナさんだった。当時、彼は10歳。出合さんは、野球に興味を示した彼との出会いをきっかけに、子どもたちの野球チームを結成した。
 指導を続けていると、子どもたちの技術は次第に上達。グラウンドの整備をしたり、礼儀が身についたりと、プレー以外でも成長が見られるようになった。すると、当初は子どもが野球をすることに無関心だった大人たちが、子どもの応援をするようになっていった。
 協力隊経験を通じて出合さんが実感したのは、地域で新たな取り組みを立ち上げるためには、まずは果敢に「旗」を立てるのが重要であるということだ。任地の大人たちが野球についてなかなか理解を示さないなか、子どもたちに向けて「野球をやろう」と旗を立てたところ、まずは子どもたちが反応し、続けて大人たちが動き出した。
「人間は、自分がイメージできないことに対して動き出すことはできません。社会でゼロから1を生み出すためには、まずは果敢に『先例』をつくって見える化し、人々に具体的なイメージを持ってもらうことが重要なのだと考えるようになりました」

野球を超えた取り組みへ

 ブルキナファソの野球少年たちの伸びしろを感じた出合さんは帰国後、富良野市でパン店を営みながら、国内外の野球選手を育成する団体「北海道ベースボールアカデミー」を設立。日本人選手は地域で就労しながら、海外の選手は地域でボランティア活動をしながら、野球の技能を磨くプログラムを運営し始めた。ブルキナファソの選手が日本で技術を磨く機会をつくりたいとの意図もあった。地域での就労やボランティア活動を組み合わせたのは、技術レベルが高くないためにスポンサー収入などは望めないものの、仕事の機会なら提供できるという地域の人々の声があったからだ。
 北海道ベースボールアカデミーの仕組みをもとに、各地でチームを結成してスタートさせたのが北海道ベースボールリーグだ。出合さんは発足に際し、各地域に説明をして回ったが、地域の人々の腰は重かった。そこでまずは「旗」を立てることにした。まだチームが出来ていない段階でリーグ発足を記者会見で宣言。するとまもなく富良野市と美唄市の人々が反応し、球団ができた。その2球団の20年度の動向を見て、21年度はさらに2球団が加わった。出合さんが立てた「旗」は、さらに野球以外の競技へと影響が広がっている。
「『スポーツ』と『地域活性化』を組み合わせる北海道ベースボールリーグの取り組みは、北海道で野球以外のスポーツにかかわる方々からも興味を持っていただいており、近々、ほかの競技でも同様のリーグが誕生することが決まっています。ゆくゆくは、『スポーツ』という枠を超えて、『アート』の世界を目指す人など、夢を持つ若者が広く輝ける場をつくる取り組みへと広げていけたらと考えています」

[プロフィール]





であい・ゆうた●1983年生まれ、北海道出身。小学生のときから野球を始める。2006年に札幌大学を卒業した後、札幌市内のパン店に就職。08年3月、青年海外協力隊員としてブルキナファソに赴任し、首都で野球の普及に取り組む。10年3月に帰国した後、北海道富良野市のパン店で働くかたわら、地元の少年野球チームのコーチを務める。13年、パン店「ブランジェリー・ラフィ」をオープン。そのかたわら、17年に北海道ベースボールアカデミー、20年に北海道ベースボールリーグを設立。

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