職業訓練校で
全コースの共通科目であるICT授業を支援

西 望弥さん(ガーナ・PCインストラクター・2017年度4次隊)の事例

職業訓練校に配属され、ICT授業の支援に取り組んだ西さん。生徒たちは普段、パソコンに触れる機会が少ないため、そのスキルを学ぶことへの意欲が低かった。そこで彼らが興味を持つ課題を出したところ、意欲が向上するようになった。

西さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、石川県出身。大学卒業後、IT関連企業でコーポレートサイトの構築やシステムメンテナンスに従事。2018年3月、青年海外協力隊員としてガーナに赴任。20年3月に帰国。

【活動概要】
コフィ・アナン職業訓練校(ノーザン州クンブング郡ヌドゥア)に配属され、主に以下の活動に従事。
●ICT授業の実施
●コンピュータ教室のパソコンのメンテナンス
●姉妹校の職業訓練校や高校でのICT指導


 西さんが派遣されたのは、ガーナ北部の農村部にある3年制の職業訓練校。服飾や調理など6つのコースが設けられおり、中学卒業以上の学歴がある生徒約60人が在籍していた。西さんに求められていたのは、全コースで必修の共通科目となっていたICT授業の支援だ。コマ数は、いずれの学年も1コマ2時間の授業が週に1コマ。専用のパソコンルームも設けられていた。任期の1年目はICT授業を担当する教員が配置されていなかったため、西さんがすべての授業を実施。任期半ばに男性の専任教員(以下、Aさん)が配置されてからは、彼が行う授業のサポートに回るようになった。

グラフィックデザインを軸に

配属先でICT授業を行う西さん

西さんが配属先で行った課外授業で、ポスターの制作に取り組む生徒

 ガーナでは小学校からICT授業が始まる。しかし、授業で使用するパソコンがある小・中学校は少なく、座学で教科書の内容を覚えさせるだけの授業になってしまっているのが一般的だ。しかも、家庭でパソコンが使える小・中学生は限られているため、中学校を卒業するまでにパソコンの実技の力を身につけることは困難な状況となっていた。
 パソコンに触れる機会が少なければ、その有用性や楽しさを理解するのは難しい。しかも、配属先の卒業生が就くそれぞれの専門分野の仕事でパソコンを使う機会があることは、まだ稀だ。そのため西さんの着任当初、配属先の生徒たちのICT授業への興味は薄く、授業の出席率は履修者の4分の1程度と低迷した。
 まずは出席率を上げなければと考えた西さんは、その解決のためにいくつかの策を試みた。「出席簿」をつくって公表することがその1つ。ほかにも、生徒たちの規律の意識を高めるために、クラスでリーダーを立て、その力を借りながらクラスコントロールを改善することなども行った。しかし、出席率はなかなか上向かなかった。
 そこで西さんは、授業の内容を生徒たちの興味を引くものに改善していこうと考えた。配属先には、職業訓練校のICT専門コースに向けてつくられたカリキュラムがあり、西さんはそれを授業の計画に使っていた。その指導内容は、パソコンのハード面の基本的な知識や、Microsoft Officeのソフトの操作方法が中心だ。しかし、ソフトの機能を1つ1つ習得していくことは、生徒たちには退屈なようだと感じられた。そこで西さんは、1回の授業のなかで完成させられるような制作課題を与え、その制作のなかで必要な技術を覚えさせる「実践型」の授業をすることにした。
 着目したのは、ガーナでよく貼られている日本にはないタイプの「ポスター」だ。葬式や結婚式、誕生日会などの開催を知らせるポスターなどで、そこには当事者の写真が大きくあしらわれている。そこで西さんは、配属先が必要としているポスターのデザインをWordでつくるという課題を授業で出してみた。すると生徒たちは熱心に制作に取り組んだ。彼らはグラフィックデザイン全般への興味が強いのだろうと考えた西さんは、以後、「Excelを使って自分の写真を配置したカレンダーをつくる」など、さまざまなタイプのグラフィックデザインの課題を授業で多く与えるようにしていった。
 西さんは、ガーナの人々は日本人よりも「競争」を好むとも感じていたことから、生徒たちが授業で制作したものは、ときに校内に貼り出し、教員たちに採点してもらって「入賞者」を決めたりもした。
 以上のような授業の「内容」の工夫をしていくと、次第に出席率は上昇。任期の半ばごろには、当初の倍ほどにまで達した。

配属先外での活動

地域の子どもたちを集めてキーボードについての講習を行う西さん

 任期の半ばにAさんが着任すると、しばらく西さんは彼のサポートに力を入れた。彼の授業で当初課題だったのは、口頭での説明に終始しており、生徒にとってかならずしもわかりやすいものになってはいなかった点だ。そこで西さんは、授業でパワーポイントを活用する方法を伝えたうえで、パソコンの部品など口頭の説明だけでは理解しづらいものは極力写真を見せるようにすべきだといったアドバイスをした。
 任期の残りが半年ほどとなったころには、Aさんの授業技術が一定レベルに達した。そこで西さんは、配属先外でのICT教育に関する活動に力を入れるようになった。そうした活動の場の1つは、同じ州にあった配属先の姉妹校にあたる2つの職業訓練校だ。ICT授業の専任教員は配置されていたが、パソコンのメンテナンスに関する知識を持っていなかったことから、西さんは任期の半ばごろからその手伝いに両校をたびたび訪問するようになった。やがてそのうちの1校では授業の支援も行うようになった。ガーナのICT教育に対してできる限りの力になりたいという西さんの思いに配属先が賛同してくれたために叶った活動だ。
 配属先の近所にあった高校では、PCインストラクター隊員やコンピュータ技術隊員と共に、パソコンの有用性や楽しさを感じてもらうことを目的としたワークショップを開催。VRやコンピュータグラフィック、プログラミングなどを体験してもらった。事後のアンケートで9割の生徒が「パソコンへの興味が高まった」と回答するなど好評だったが、このワークショップをきっかけに、その高校で週に1回、希望する生徒やICT授業の担当教員を対象とする課外授業を実施するようになった。そこでもやはり、無料の画像処理ソフトなどを使って主にグラフィックデザインの技術を教えた。その課外授業に通った生徒のうちの1人は、後にグラフィックデザインの技術を買われて印刷会社に就職。西さんにとってやりがいの大きい活動となった。

任地ひと口メモ 〈ノーザン州クンブング郡ヌドゥア〉

人口約1000人の農村で、イスラム教徒が住民の大半を占める。家屋は土壁と茅葺屋根のものが一般的だ




ラマダン明けの儀式の様子





男性が主に農作業を担い、女性と子どもは販売用のシアバターの生産を担う。写真はシアバターをつくる様子




知られざるストーリー