地域のリーダーなどの協力を得て、
地域での継続的な健康教育を導入

岡部日香莉さん(パラグアイ・看護師・2017年度4次隊)の事例

1次医療施設に配属され、主に病気の予防に関する教育の支援に取り組んだ岡部さん。同僚たちの講習は単発のものに終始していたなか、同じ対象者に継続的に行うプログラムの定着を図った。

岡部さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、北海道出身。大学卒業後、看護師として総合病院に3年半勤務。2018年3月、青年海外協力隊員としてパラグアイに赴任。20年3月に帰国。

【協力隊活動】
カラジャオ保健センター(カアグアス県カラジャオ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●配属先の待合室、学校、コミュニティなどでの健康教育の実施
●配属先の5S活動の支援


 岡部さんが配属されたのは、カアグアス県にあるカラジャオ保健センター(以下、「保健センター」)。県の予算で運営されている1次医療施設だ。「保健センター」では、「家族保健ユニット(Unidades de Salud de la Familia/USF)」と呼ばれる国の出先機関が間借りしていた。予防医療を含む1次医療の拡充を目的に、パラグアイ厚生省が各地に配置している機関の1つで、医師や看護師、助産師、健康推進員で構成されている。岡部さんのメインの活動となったのは、このUSFの業務を支援することだった。

5S推進から活動をスタート

USFの訪問診療で健康診断を手伝う岡部さん

コミュニティ内の高血圧や糖尿病の患者、ハイリスク妊婦などの情報が整理されていなかったことから、コミュニティマップを作成した

「保健センター」でも診療が行われているなか、USFは次のような業務で「保健センター」を補完する立場にあった。
(1)高血圧と糖尿病の患者の外来診療の実施
(2)乳幼児と妊産婦の健診・栄養改善プログラムの実施
(3)在宅療養者の訪問診療の実施
(4)疾病予防に関する健康教育の実施
 これらのうち、岡部さんの着任当時に手薄となっていたのは(4)の業務だ。着任してまもない時期は、講習をスペイン語でこなす自信がなかったため、まずは「保健センター」内の整理・整頓に取り組んだ。カルテ庫の整理がその1つである。棚にカルテが無秩序に並べられており、「取り出しに時間を要する」「1人の患者のカルテが何冊もある」「カルテが見つからないときは診療記録を記入しない」といった問題が起きていた。すべてのカルテを患者の名字と住んでいる地区で分けたことで、適正な診療記録の作成と患者の待ち時間の減少につながった。
 語学力がある程度付いてきた着任3、4カ月後には、「保健センター」の待合室に常時10~20人ほどいた患者を対象に、同僚たちにフォローをしてもらいながら10分程度の講習を行うようになった。診療科により待合室にいる患者の層も異なるため、対象患者に合わせて「生活習慣病」「寄生虫症」「インフルエンザ」「デング熱」「がん」「性感染症」などの講習を行った。患者のなかには、読み書きができない人も多かったことから、視覚的に理解できるよう、絵や写真を活用したわかりやすい教材をつくり、講習の質を向上させていった。

地域における継続的な健康教育

中等教育学校の青少年クラブで健康教育を行う岡部さん

中等教育学校の保護者会で健康教育を行ったときの参加者と岡部さん(右端)

 地域に出向いて本格的な健康教育に取り組むようになったのは、着任して半年ほど経ったころである。町の人々に顔を覚えてもらい、学校の教員や地域のリーダーとの関係が構築できたことで、地域集会での講習、ラジオ番組での情報発信など、さまざまな機会を利用した活動が展開できるようになった。なかでも手応えを感じたのは、中等教育学校で「青少年クラブ」と名付けて行った5回シリーズの講習だ。岡部さんが着任するまで、USFの同僚が行う健康教育は不定期で単発のものに限られていた。そこで、カウンターパート(以下、CP)のUSFの助産師と共に企画したのが青少年クラブの取り組みだった。
 若年妊娠が多いという問題が任地にあったこと、性に関する正しい知識を与えることで若者の自己実現を後押ししたいという強い思いがCPにあったことなどから、青少年クラブでは性教育を実施。男女の体の仕組み、家族計画、性感染症など幅広いテーマを取り上げた。講習の後には生徒たちにアンケートを実施し、質問や感想を自由に書いてもらったところ、なかには初歩的な質問も多く、基本的な知識が中高生に浸透していないことがわかった。生徒からの質問には次回の講習ですべて回答し、疑問を解決するようにした。全講習の終了後、学校側から「重要な教育なので、継続してほしい」との要望があり、次年度以後もUSFのルーチンの活動の1つとなった。
「保健センター」の内外で岡部さんが行った健康教育の受講者のなかには、講習で知った情報に動機づけされて「保健センター」での健診に足を運ぶようになった人もいた。また、岡部さんが自分の果たした役割で意義が大きかったと感じているのは、USFの同僚たちに「計画性」の大切さを理解してもらえたことだ。彼らは保健・医療に関する知識は十分に持ち、住民への健康教育も実践していたものの、無計画で単発な取り組みに終わってしまっていた。同じ対象者に継続してかかわるためには、テーマの割り振りや相手方との日程調整などをこなす「計画性」が必要となる。岡部さんはそれらを自らこなしながら、同僚に要領をつかんでもらうよう心がけた。帰国後、「青少年クラブ」が続いているという知らせを受けていることから、「計画性」の感覚が伝わった可能性は高い。

【OPINION】
「保健・医療」と「教育」の深い関係
〜協力隊員がとるべきアプローチとは?〜

人々の健康には継続的な教育が不可欠
保健・医療には、経済や社会インフラ、文化、宗教などさまざまな社会的要因が関連していますが、なかでも「教育」はすべての礎となる重要なものだと感じました。算数の基本が身についていなければ、適切な濃度の粉ミルクをつくることや、正しい時間に正しい量の薬を飲むことも難しくなります。啓発パンフレットをつくっても、活字を読む習慣が無い人たちには情報を届けることができません。青少年クラブでは中高生を対象としましたが、多くのことを柔軟に吸収でき、これからの時代を担っていく若者たちに健康教育を行えたことは、非常に意義が大きかったと考えています。健康教育活動は、短期的には定量的かつ明確な成果がわかりにくい分野だと思いますが、継続的な教育を行うことで、かならず将来の人々の健康につながるのではないかと思います。

知られざるストーリー