潜在する陽性者を掘り起こすための策を実施

山﨑壮一さん(ガボン・感染症・エイズ対策・2018年度1次隊)の事例

HIV/エイズを専門とする医療施設に配属された山﨑さん。力を入れた活動は、感染リスクが高い生活をしている人が検査を受ける機会を増やすための策の実施だ。

山﨑さん基礎情報





【PROFILE】
1978年生まれ、静岡県出身。大学で高等学校の教員免許状(保健体育・福祉)を取得。民間企業に勤務した後、保健体育科や福祉科の教員として高等学校に勤務。2018年7月、青年海外協力隊員としてガボンに赴任(現職参加)。20年3月に帰国し、復職。

【協力隊活動】
クラムトゥ外来診療センター(オグエ・ロロ州クラムトゥ市)に配属され、HIV/エイズに関する主に以下の活動に従事。
●検査の拡充支援
●啓発ポスターの作成
●患者の収入源確保の支援
●配属先の施設の改善支援


 山﨑さんが配属されたのは、地方都市のオグエ・ロロ州クラムトゥ市にあるクラムトゥ外来診療センター。ガボンの各州に1、2カ所ずつ設置されているHIV/エイズ専門の医療施設のなかの1つだ。その主な事業は、HIV検査の実施、患者へのカウンセリング・治療薬の提供・栄養指導・在宅支援、地域での予防啓発などである。隣接する州立病院をはじめとする他の医療機関で陽性と判断された患者にも対応していた。山﨑さんに求められていたのは、予防啓発など手薄になっていた事業や業務改善への支援だ。カウンターパート(以下、CP)となったのは、センター長を務める医師だった。

ポスターで検査施設を案内

検査が受けられる医療施設を案内するポスターの前に立つ山﨑さんとCP

 配属先では、対応した患者の情報を月ごとに集計し、政府に提出することが義務づけられていた。しかし、その業務を担当していたのは、パソコンの扱いに不慣れな看護師。集計には関数が組み込まれたExcelファイルが使われていたが、関数について知らないため、不適切な入力をしていた。そこで山﨑さんが手始めに取り組んだのは、その看護師へのパソコンの指導だ。
 そうした活動に取り組んでいた時期、プライベートでの住民との付き合いのなかで、任地のHIV/エイズに関する課題が見えてきた。任地の酒場に行くと、ほかの客と身の上話になる。そうして山﨑さんがどのような活動をしているのかを伝えると、「実は俺は陽性かどうか心配なんだ」などと打ち明けてくれる人がいた。そうした人はたいてい配属先のことを知らず、検査にはお金がかかるのではないかと心配していたため、山﨑さんは無料であることを伝えた。
「任地では、感染リスクが高いけれども検査を受けていない人が多い」という可能性を察知することができた山﨑さんは、そうした問題を解決するための活動に取り組むことにした。その1つが、配属先の系列施設を含む、HIV検査を行っている全国の医療施設の情報をまとめたポスターを作成することだ。現地の人との付き合いのなかで、ガボンでは出稼ぎなどで地元を離れて暮らす期間が長い人が多く、その期間の性行動には感染のリスクがあるということが見えた。配属先だけでなく、全国の医療施設の情報をポスターに盛り込むことにしたのは、出稼ぎなどを終えて山﨑さんの任地から地元に帰った後、そこにある施設で検査を受けてもらえるようにするためだ。
 ポスターの構成は、各施設の名称・所在地・電話番号の記載、および外観写真を配置するというもの。原稿は山﨑さん自身が作成した。HIV検査を行っている医療施設の情報を集める作業では、ガボンの他地域で活動していた感染症・エイズ対策隊員の力を借りた。
 難航したのは、各施設の外観写真の入手だ。道に迷わずにアクセスできるようにするためには外観写真があったほうが良いため、掲載を断念したくなかったが、CPから各施設に外観写真の送付を依頼してもらっても、一向に送ってくれない施設があったのだ。そうした施設については、山﨑さんやほかの協力隊員が自ら撮影をしに行くなどして写真を確保。そうしてようやくポスターが完成したのは着手の約1年後だった。任地の学校などに掲示してもらったほか、ポスターの原稿をA4判のチラシに加工し、地域のイベントなどで配布。また、掲載した医療施設にも送付した。

出張無料検査の導入

クラムトゥ市内で出張無料検査を行った山﨑さんと同僚たち

配属先では患者への食事の提供も行っていたが、調理場が戸外で雨の日には調理ができなかったため、山﨑さんの提案で屋根付きの調理場が手づくりされた

 山﨑さんはポスターの作成以外にも、感染リスクが高いが検査を受けていない人に検査を促すための策に取り組んだ。「出張無料検査」の拡充支援だ。
 配属先はそれまでも出張無料検査を定期的に行っていたが、対象は州内のへき地が中心だった。人口が多い地域も対象とすべきだと考えた山﨑さんが企画し、配属先に受け入れられたのは、3カ月に1度、同僚たちが手分けをしてクラムトゥ市内の各地にいっせいに出向き、無料検査の場を設けることだ。
 人口が多い地域であれば、検査場に出入りする姿を見られても、見た人は出入りした人がどこの誰なのかがわからない可能性が高いため、「あの人はHIVの検査を受けていた」といううわさが立つことを心配せずに済む。そのため、より多くの人が検査を受けに来てくれることが見込まれた。
「3カ月に1度」という頻度にしたのは、検査をして陽性かどうかが判明するのは3カ月後であり、「先の検査の結果がわかってから、次の検査を受けるかどうかを決める」というサイクルをつくることができるからである。
 山﨑さんの提案が実現したのは、任期終盤のこと。市内の4カ所で3カ月の間隔を空けて2回、出張無料検査が実施された。検査を受けた人の数は、配属先で検査を受ける人の半年分にあたる約500人にものぼった。検査結果は、配属先の医師や看護師、臨床心理士などがが本人に報告。陽性と判明した人には、治療薬の服用などに関する以後の過ごし方の指導を、陰性だと判明した人には感染予防の方法に関する指導をあわせて行った。
 この出張無料検査は、山﨑さんの帰国後も続けられている。

OPINION
「保健・医療」と「偏見」の深い関係
〜協力隊員がとるべきアプローチとは?〜

隠れて生きている人を支える
HIVは感染のリスクがある行為を避ければそれを防ぐことができますが、そうした正しい知識が浸透することは難しく、社会は偏見により陽性者を排除しようとしてしまいます。そのため、陽性者や陽性である可能性が高い人はそれを隠して生きていかざるを得ません。任地でも、「実は自分は陽性だけれども、隠して生きている」「実は家族に陽性者がいるけれども、知られないよう離れでひっそり暮らしている」などと告白されたことがありました。不安を抱えながらも周囲に相談することができずにいるそうした人たちにとって、「外部」の人間である協力隊員は頼りやすい存在ではないかと思います。

知られざるストーリー