「地産地消」の促進を軸に
病院給食や栄養教育の改善を支援

小幡真希子(フィジー・栄養士・2017年度3次隊)の事例

離島にある総合病院に配属された小幡さん。栄養士に院内外の広範な業務が課せられていたなか、課題が顕著だった病院給食や栄養教育の改善支援に力を入れた。

小幡さん基礎情報





【PROFILE】
1985年生まれ、千葉県出身。女子栄養大学で管理栄養士の免許を取得した後、医療施設で腎不全患者の栄養相談業務に9年半従事。2018年1月、青年海外協力隊員としてフィジーに赴任。20年1月に帰国。

【協力隊活動】
レブカ病院(オバラウ島レブカ町)に配属され、主に以下の活動に従事。
●病院給食の改善支援
●地域での栄養教育の支援
●患者への栄養教育の支援
●同僚への健康啓発の実施


 小幡さんが配属されたのは、人口約9000人の離島・オバラウ島にある国立の総合病院。同島と近隣の小さな島々で唯一、入院設備がある医療施設で、病床数は20床という規模だった。カウンターパート(以下、CP)となったのは、ただ1人配置されていた栄養士。配属先の栄養士が担う業務は、病院給食の管理や患者への栄養教育といった院内の業務のほかに、地域での栄養教育など院外の業務も含む広範なものとなっていた。

病院給食の食材調達を改善

小幡さんが着任した当初の病院給食の例。「主食のキャッサバと、缶詰の魚を使ったスープ」など、野菜の少なさが顕著だった

食材調達の方法を変更して野菜や果物の量が増えた後の病院給食の例

 小幡さんが任期前半の活動の柱にしたのは、病院給食の改善だ。特に食材調達や献立の改善に力を入れた。給食の対象となる入院患者は平均で10人程度。「糖尿病患者は主食のキャッサバを1切れ減らす」「貧血がある患者は鉄分が含まれる葉物野菜を増やす」など、患者に合わせた食事が提供されていたが、全般的な問題だったのは野菜が少ない点だ。その原因は、CPの知識の不足ではなく、食材調達のシステムや保存手段にあった。小幡さんの着任当時、米や小麦、冷凍の肉や魚、野菜、缶詰、調味料など、必要な食材はすべて向こう3カ月分をまとめてフィジー保健省に発注し、送ってもらうシステムになっていた。一方、配属先の調理場には冷蔵庫と冷凍庫があったが、冷蔵庫は故障。常温や冷凍での保存が効かない野菜は、送られてきた直後にしか使えない状態だった。
 そうしたなかで小幡さんは着任早々、野菜だけ別の方法で調達することをCPに提案した。オバラウ島には2つの食料品店があった。1つは首都で仕入れた農産物も扱っている店で、もう1つはオバラウ島の農産物だけを扱っている店だった。小幡さんは「地産地消」が理想だと考えたが、前者の店ではオバラウ島では作られていないにんじんやセロリ、りんご、オレンジなど輸入品の野菜や果物が扱われており、かつ商品の仕入れも安定していたことから、両方の店を野菜の調達先にしてはどうかと提案した。賛同したCPはすぐさま上司にあたる地域統括者の栄養士に打診。すると、調達方法の変更は難なく認められ、週に1回のペースで両方の店から野菜を購入できることとなった。きゅうりやなす、トマトなどの野菜を食材に加えることが可能となったことから、小幡さんはそうした食材を使った献立のアイデアを、CPと共に逐次提案していった。

楽しんでもらえる栄養教育へ

健康診断のための学校巡回の機会に集団栄養教育を行う小幡さん。カードを使って3つの食品群について学ぶ「参加型」のアクティビティを取り入れた

地域で行った集団栄養教育で導入した、塩分が少ない乳幼児向け菓子の試食会。右端が小幡さんのCP

 病院給食の改善が一段落した任期半ばごろから、小幡さんは栄養教育の支援に力を入れるようになった。CPが行う栄養教育には2種類あった。1つは、医師が必要だと判断した生活習慣病患者などに対して行う個別栄養教育。もう1つは、院内で患者を集めて行う、あるいは住民の健康診断を目的に配属先の各種医療職が地域や学校を訪問する際などに行う集団栄養教育である。
 当初、CPが行う個別栄養教育に同席して小幡さんが感じた問題は、「●●は塩分が多いので食べてはいけない」など、「やってはいけないこと」を一方的に伝えるだけになっていたことだ。それまで楽しめていた食事に制限を加えるのは「苦痛」である。食事に関して行動変容を促すためには、どのような食事改善ならば無理なく実践できるのかを相手と共に見つけ出していかなければならない。「血糖値を上げる食材を好む糖尿病患者に対して、そうした食材の摂取を止めさせるのではなく、量や頻度を考えてもらったり、血糖値を下げる食材の摂取を勧めたりする」といった具合だ。こうした栄養教育をするためには、食事に関する相手の考えに耳を傾けることが必要だが、CPにはそのステップが欠けていた。
 そこで小幡さんは、自身が単独で個別栄養教育を行う際に患者の考えに耳を傾けることを実践し、個別栄養教育の記録簿に患者とのやりとりを具体的に記載することにした。記録簿はCPも記載するものであり、目にとまることが期待できた。CPの個別栄養教育での物腰が変わり、対象の患者が話しやすくなってきたと感じられるようになったのは、それから半年ほど経ったころである。
 一方の集団栄養教育でCPのやり方に見られた課題も、やはり「一方通行」の講習になってしまっている点だった。どの受講者にも役立つような一般的な情報だけを扱わざるを得ない集団栄養教育では、受講者に「楽しい」と思ってもらい、伝えようとする情報を「自分事」と感じてもらうことが重要である。それをCPに知ってもらうため、小幡さんはCPと共に行う集団栄養教育で自ら「参加型」のアクティビティを実践し、そこでの受講者の反応をCPに直に見てもらうことにした。
 例えば、院内で行った生活習慣病患者への集団栄養教育では、向こう1カ月間の行動目標を紙に書いて栄養改善の実現可能な方法を考えてもらうアクティビティを行った。また、地域で行った集団栄養教育では、塩分を抑えているけれどもおいしい乳幼児向けお菓子の試食会などを導入した。するとようやく任期の終盤、集団栄養教育の内容を検討する際にCPが「楽しませよう」という言葉をしきりに口にするようになった。

OPINION
「保健・医療」と「流通」の深い関係
〜協力隊員がとるべきアプローチとは?〜

地域の財産に目を向ける
地域での栄養教育において、地元の食材を使う「地産地消」を勧めることは、住民の「食」に対する意識や関心を高めることができるという点でも大切なことだと思います。私の任地では、輸入品の清涼飲料水やインスタント麺、あるいはパンの消費が多かったのですが、私は栄養教育を行う際、地元で採れるココナツのジュースが清涼飲料水よりミネラルが豊富であること、地元で採れるタロイモやパンノキが、パンより食物繊維が豊富であることなどを伝えるよう努めました。地元に対する誇りが高い任地の方々には、そうした自尊心をくすぐるアプローチが有効ではないかと考えたからです。

知られざるストーリー