“失敗”から学ぶ

教員の多様性への理解が遅れ、全教員への指導が未完に

話=村田良太さん(ボリビア・小学校教育・2018年度1次隊)

他校の教員をオブザーバーとして招いて配属先で実施した研修の振り返りの様子

 私は児童数約300人の小学校に配属された。配属先で私が課題だと感じたことの1つは、授業で児童に思考させたり発言させたりする時間をとらず、自分が話をするか、練習問題を解かせるかに終始する教員がいたことだ。校長には「教員間の指導力の差をなくしたい」という意向があった。私も、まだ授業を上手にできない教員も、やり方さえわかればできるようになると考えた。そこで着任してまもなくから、主にワークショップによって授業の技術を伝えることにした。また、現地の教員と共に指導案を作成して、ほかの教員の前で授業を行ってもらい、事後にその教員と校長、私の3人で振り返りをする校内研修も進めた。
 振り返りの場で私が「こういう方法もある」と提案をすると、多くの教員が「ありがとう。新たなアイデアね」と言ってくれた一方、当初から2人の教員は「あなたは私たちへのリスペクトがない」と反発してきた。その2人こそ、授業改善に取り組んでもらいたい教員だった。このままでは教員間の指導力の差が開いてしまうと思ったが、それを防ぐためにどうすれば良いのか、策はなかなか見つからなかった。
 状況打開のきっかけが訪れたのは、着任の約半年後だ。「リスペクトがない」と反発した教員の雑務を手伝ったところ、にわかに私に心を開いてくれるようになった。ボリビアの人たちとの付き合いではパーソナルなかかわりが重要なのだと気づき、以後、他愛もない会話などでも同僚たちとかかわる時間を持つよう努め、さらに彼らの良い点を多く伝えるようにした。すると明らかに関係性が好転。それまで気づかなかった彼らの性格や家庭の事情などの多様性が見えてきた。
 そこで着任の約1年後から、同僚たちに一律のゴールを求めるのではなく、それぞれに合ったゴールを設定し、その達成に向けた支援を行うことにした。児童に思考させたり発言させたりする授業が実践できない教員に対しては、まずは教職の楽しさを知ってもらうため、授業で計算練習を継続的に行うことで、児童の基礎学力が伸びる喜びを実感してもらった。すると、そうした教員たちの授業への積極性が向上。最後はすべての同僚と良い関係性でかかわることができたのは良かったが、さらなる変化の後押しができない教員がいるまま時間切れになってしまったことは残念だった。

隊員自身の振り返り

反省点の中でもっとも大きいのは、もっと心に余裕を持っていれば良かったということです。同僚やJICAの企画調査員(ボランティア事業)、他の隊員からの助言などによって徐々に自分の課題に気付くことができましたが、心に余裕があれば、早くから同僚たちとのパーソナルなかかわりを重視して彼ら1人1人の良さや個性に気づき、すべての同僚ともっと違うかかわり方ができただろうと思います。また、私は日本で年上の教員を指導した経験がなかったなか、配属先の校長から早い時期にさまざまなリクエストをされたことから焦りが生じ、パーソナルなかかわりを当初は軽視してしまったのだろうと感じます。この貴重な経験を、今後の自分のキャリアの中で生かしていこうと思っています。

他隊員の分析

長期的視野に立った活動を

 私は広く市内の教員を対象とする授業研究の実施に取り組みましたが、やはり教員間の意欲や力量、彼らを取り巻く環境がそれぞれ大きく異なっていました。そうした状況のなか、2年間で彼らの技能を底上げすることは、とても難しいと思います。私も現地教員にこちらの意図を理解してもらえず、衝突してしまったこともあります。そうした経験を通じて私が感じたのは、任期中に明確な結果を出そうと焦ることなく、長い目で見て対象教員たちに有益な働きかけをすべきだろうということです。焦らなければ、1人1人の教員と親身に向き合い、長期的な視野に立った最善のアドバイスを模索することができるからです。
文=協力隊経験者
●中南米・小学校教育・2014年度派遣遣
●活動概要:市の教育行政機関に配属され、小学校を巡回して算数授業の質向上支援に従事。

「待つこと」も1つの手

 多くの教員の授業への積極性が向上した点は、とても重要な変化だと思います。「指導対象者の間の差をなくす」ということは、私も家畜飼育の技術を指導する活動のなかで難しいことだと感じました。私は技術向上の意欲がない農家を、巡回指導の対象から一時除外したことがありました。それから半年ほど経ち、巡回指導を続けていた農家が新たな餌のつくり方をマスターし、牛の成長具合に変化が出てきたのをどこからか知ったのか、巡回指導を止めた農家が連絡をしてきて指導を求めるようになりました。「待って様子をうかがうこと」が相手によっては有効なのだと、そのときに感じました。
文=協力隊経験者
●中南米・家畜飼育・2018年度派遣
●活動概要:県の農業行政機関に配属され、小規模酪農家への技術支援に従事。

村田さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、鹿児島県出身。大学で中・高等学校の教員免許状(社会科)を、通信制大学で小学校の教員免許状を取得。教員として公立小学校に約9年間勤務した後、2018年6月、青年海外協力隊員としてボリビアに赴任(現職教員特別参加制度)。20年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
グアテマラ小学校(ラパス県ラパス市)に配属され、配属先や他校の教員を対象とする研修やワークショップの開催などに従事。

知られざるストーリー