▶キーパーソンと家族ぐるみの付き合いができなかったため、活動先の課題解決に至らないまま任期満了となってしまいました。(タンザニア・数学教育・男性)
タンザニアの中学校で生徒たちに物理と数学を教えていました。
私に期待されていたのは理数系科目の成績向上でしたが、授業を始めてみると、生徒への英文法レッスンの必要性に気づきました。タンザニアでは小学校まではスワヒリ語で授業が行われますが、中等教育以上の授業は英語で行われていたためです。
この課題を解決するために、生徒たちに英文法レッスンなどを実施したものの、多くの教師は仕事に対するモチベーションが低く、私の派遣終了までに英語教師をはじめ、同僚にこれを引き継ぐことができませんでした。
その学校では校長先生の力が強く、校長先生と家族ぐるみの付き合いができていれば、教員たちの協力も得やすかったのにと悔やまれます。
関西大学総合情報学部教授。インディアナ大学スピーチ・コミュニケーション研究科で博士号取得。専門はコミュニケーション学、非言語コミュニケーション。国際理解教育のサポートを行う関西大学の学生団体「Meet the GLOBE」のプロジェクトでは、日本の小学生や高校生と現役の協力隊員との交流を図る。
▶活動を「仕事」と捉え過ぎず、2年間異文化にどっぷりつかってみましょう。
相談者さんは、観察力や分析力に優れている方なのでしょう。物理や数学を教える以前に行うべき課題が見つかり、解決に向け誰にどう根回しすればいいかを何度もシミュレーションしたのではないでしょうか。
課題解決において分析は必要ですが、私は分析よりもまずはその国にどっぷりつかって自分が「現地化」することをお薦めします。
仕事はもちろん、オフの時間も、現地の人とともに過ごすことで、近所の方に生活回りのことを聞いたり、近寄ってくる子どもたちと遊んだり、飲食店で店員さんと会話することになります。そうして少しずつ現地の感覚がつかめてきて、周囲と思考が似てくる、それが「現地化」です。
この「現地化」がないまま分析を行うと、日本的な常識がベースにありますから、相手との距離は縮まりません。「多くの教師が仕事へのモチベーションが低かった」のはなぜか。それを分析する前に、相手の文化や風習に飛び込む。時には相手に頼ったりして自分の弱さを見せることで、相手も心を開いてくれます。信頼関係はそうやって築かれていきます。
家族ぐるみの付き合いをする以前に、校長先生とは日頃からコミュニケーションが取れていたでしょうか。組織の規模が大きく校長先生と会う機会が少なかったとしても、そこの長おさとなる方は、自分の組織に協力隊として配属された日本人がいることは知っているはずです。タイミングを見て挨拶をしに行く、近況報告をする、そうした小さな積み重ねが信頼関係を構築する一歩です。
同僚である教員とはどうでしょうか。いきなりいろいろな人を飛び越えて校長先生と仲良くなるより、同僚たちと強固な信頼関係を築き、一致団結して校長先生に直談判しに行ったり、皆で週末にパーティを開いて、そこに校長先生の家族を招待するといった方法もあったかもしれません。
私が理数科教師として派遣されていた頃と比べ、今の協力隊員の方は活動を達成すべき仕事と捉えるまじめな方が多いように感じます。同時に、仕事と捉えてしまうがために、オンとオフをきっちりつけたい方が増えたようにも感じます。
今は途上国でもSNSで日本人の友人とつながったり、調べものをインターネットで検索したり、オンラインゲームで遊ぶこともできるようになりましたが、私は多くの隊員にとってそれがマイナスに働いているように思います。派遣先で信頼関係が築けなくても、オフの時間に外の世界と接することができるので、寂しい思いをせずに2年間を過ごせてしまうからです。
相談者さんは「自分が派遣先の学校をよくしたい」と思うあまり、常に弱さを見せず専門家の立場を貫いていたかもしれません。旅行客とは違い、協力隊員は2年間そこに住むわけですから、小手先のコミュニケーション術ではやっていけません。「現地化」することで相手の状況を把握し、相手の気持ちになってみる。ぜひ実践していただきたいと思います。