[特集]環境教育隊員に学ぶ、
活動がうまくいく3つのポイント

活動の広げ方

環境要素を活動に取り入れるといっても、その範囲は幅広い。そこでまず3人の環境教育OVの活動を紹介する。

Case1 何をすれば、人々が行動変容を起こしやすいかを見極め、実行する

前川健一さん
前川健一さん ミクロネシア/環境教育/2011年度1次隊

PROFILE

東京都出身。大学卒業後、八王子市役所に入所し、ごみ減量対策課に勤務。社会人大学院で環境マネジメントを学んだ後、6年目を迎えた27歳のときに協力隊に現職参加し、ミクロネシアへ。帰国後、市役所勤務を続けながらもJICA草の根技術協力事業を通して同国のゴミ問題にかかわった。

配属先:チューク州政府環境保護局
要請内容:ゴミの分別、収集方法の改善などを含めた廃棄物管理システムの構築と地域住民への環境啓発活動

ゴミ収集車の後ろを歩き声かけを行う前川さん

ゴミ収集車は対象地域に入ると、ハザードランプをつけながら徐行し、クラクションを鳴らして到着を知らせる。同時にアシスタントと前川さんは収集車の後ろを歩きながら、地域住民にチューク語で呼びかけを行った

八王子市役所でゴミ減量の仕事をしていた前川健一さんが、現職参加で向かったのはミクロネシアだ。チューク州ウェノ島にある環境保護局でゴミ収集の活動にあたった。島では公共の場にゴミが平然と捨てられ、前任者やJICA専門家らが整備したゴミの埋立地までの小道にもゴミが山積み。浜辺もゴミ捨て場と化していた。

「島にはボロボロのゴミ収集車が1台しかなく、収集車が回収に行けるのは一部の商業地区のみ。ただし翌年、日本からゴミ収集車2台の寄贈が決まっていたので、収集車で島のゴミを効率的に集めて埋立地に運ぶことを定着させれば、住民が公共の場にゴミをポイ捨てすることはなくなると思いました」

そこで前川さんは、カウンターパート に二年間の計画を立ててもらい、自分は島のゴミ収集の現状を知ろうと、収集車に同乗して各村を回り、近隣の州で行われたJICA専門家による調査に同行させてもらったりした。

加えて地元NGOと連携。「文字が読めない住民も多いため、現地語が話せるNGOのスタッフに各家庭を回ってもらい、聞き取り調査を行いました」。調査内容は、世帯人数、ゴミの量、誰がゴミ捨てをしているか、掃除やゴミに対しての考え方などだ。すると多くの世帯で室内を掃除した後、ゴミを外に捨てていることがわかった。そこで前川さんは「住民参加型の持続可能なゴミ処理システムの定着」という目標を定めてワークショップを行い、住民に具体的なごみの捨て方やメリットを伝えることにした。

「ゴミは家にためてもらい、週に2回収集車が来たらゴミを持って外に出る。住民には収集車がゴミを埋立地まで運ぶので、自分たちでわざわざ浜辺などに捨てに行かなくていいし、島も海も汚れないことを伝えました」

現職参加した前川さんは、八王子市役所向けに活動の様子を紹介した「ミクロネシア通信」を作成していた

それまでに前川さんはゴミ収集車に乗って顔を売り、同僚や島の人々と信頼関係を築いてきた。住民にゴミをポイ捨てしていることへの罪悪感があったことも幸いし、ワークショップは大成功。島の人々は口々に「協力するよ!」と盛り上がってくれた。

ところが、初のゴミ収集日、約2時間で回収できたゴミは数袋。「収集日を忘れていた人や、車が来たのがわからなかった人もいたようです」。

その問題を解決するため、収集車はクラクションを鳴らして到着を知らせる「ホーンコレクション」を採用し、チラシを配ったところ、徐々にゴミ回収量は増加。前川さんの計画性と周囲を巻き込んだ現地調査が功を奏し、回収エリアも島の約6割まで広がった。


Case2 ニーズをくんでそれぞれが満足する活動を並行して行う

市川雅美さん
市川雅美さん ウガンダ / 環境教育 / 2017年度2次隊

PROFILE

福島県出身。小学生の頃から水生生物や動物に興味があり、大学で野生動物や自然環境の研究を行う。卒業後、屋久島のエコツアーガイドをしたり、山梨県でネイチャーガイドのスキルを学んだりした後、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。帰国後、協力隊に参加。

配属先:ウガンダ・コミュニティ・ツーリズム協会
要請内容:湿地資源を活用した観光プログラム推進、地域の生徒を対象にした環境教育プログラムの企画・実施

マーケットに出店する市川さん

観光客が多いマーケットに出店し、商品を販売した

日本でネイチャーガイドをしていた市川雅美さんの配属先は、首都・カンパラにあるNGO「ウガンダ・コミュニティ・ツーリズム協会(以下、UCOTA)」だったが、活動先はUCOTAが支援する「ベータ」だった。ベータはルテンベ・デヴェ村を拠点に活動するNGOで、メンバーはルテンベの地域住民だ。地域には世界で3番目に大きな湖であるビクトリア湖があり、湖畔の湿地には400種以上もの野鳥が生息していることから、ラムサール条約に指定されている。このルテンベの湿地保護活動を推進しながら観光業を盛り上げたいUCOTAに対し、ベータでは地域住民の環境問題への意識は低く、メンバーのいちばんの希望は収入向上だった。

地元の幼稚園や小中高校で月に1回、環境教育のワークショップを継続して行った

地元の幼稚園や小中高校で月に1回、環境教育のワークショップを継続して行った

「ルテンベの湿地帯は観光のポテンシャルは高いのですが、ポイ捨てされたゴミが浮いていたり、ネイチャーガイドの経験不足や知識不足も感じられ、課題は多岐にわたっていました」
地域が持続可能に発展していくためには、地域住民に対する環境教育も必要と考えた市川さんは、2つのNGOの要望も取り入れ、「観光事業促進」「環境教育」「収入向上」の3つを並行して進めることにした。

「観光事業促進」では、伝統的漁法や村の暮らしについて聞き取り調査を行い、ルテンベの歌や踊りも取り入れた文化プログラムを考案した。これにボートでのバードウォッチングやネイチャーウォークを組み合わせることで、スタディツアーと村体験ができるオリジナルの観光プランができあがった。あわせてネイチャーガイドには定期的に研修を実施。ウェブサイトやパンフレットを作成し、ルテンベの自然の魅力をアピールできるようにした。

オリジナルの観光プランを紹介したリーフレット

オリジナルの観光プランを紹介したリーフレット

「環境教育」では、地元の幼稚園や小中高校で環境教育の授業を行った。 「教員と一緒に授業を行うことで、教員の知識の向上も図りました。教材の使い方なども把握してもらったので、活動を引き継ぐ際もスムーズでした」
「収入向上」では、ビニール素材を編んだ籠バッグや、UCOTAにミシンを購入してもらったことで、布製品を作ることもできるようになった。
「収入向上に直結する活動はやる気になるメンバーが多かったので、技術を持った女性にリーダーになってもらい、メンバー間での技術共有を促進し、質の向上に努めました。完成した商品の販売先もコーディネートしました」
市川さんは早い段階で配属先と活動先のニーズの違いを察知し、それぞれの状況に合わせて横のつながりをつくるコーディネーターとして柔軟に活動を進め、確実に成果を挙げた。




Case3 テレビ番組やSNSなど、メディアを活用

三戸朝陽さん
三戸朝陽さん エクアドル / 環境教育 / 2017年度1次隊

PROFILE

青森県出身。中高生時代から「地方でも外国人と交流をしたい」と強く考えていたため、大学時代にインドネシアのスタディツアーに参加。それをきっかけに大学を休学し、インドネシアで日本語教育のボランティアを行う。新卒で協力隊に参加。

配属先:グアランダ市役所
要請内容:市役所環境管理課職員と協力し、ゴミ分別啓発活動や小中高等学校での環境教育活動の実施

環境教育番組を作ったテレビ局で出演者の3人と三戸さん

環境教育番組を作ったテレビ局で。出演者3人と環境課の職員(左端が三戸さん)

学生時代から国際交流活動や社会貢献活動を続けてきた三戸朝陽さん。協力隊での配属先は、エクアドル中部にあるグアランダ市役所。ゴミの分別や減量、節水や自然保全などに関して、市内の小中高校などで教育活動を行うことが求められていた。「市のゴミの大部分が埋め立てのため、土地確保が難しくなっていました。まずはゴミの総量を減らすこと、リサイクルが必須でした。ゴミの分別は公共施設では行われていましたが、一般家庭には普及していませんでした」

活動初期に描いた手書きポスター

活動初期に描いた手書きポスター

 

グアランダ市は人口約9万人の小都市で、市民の生活水準は高く、日々の暮らしには不自由を感じないくらいに発展している。ここでいかに多くの人に情報を伝え、環境に対する意識を高めてもらうかも三戸さんの課題だった。
着任当初は言葉の壁があり、人脈もない。しかし三戸さんが描いたポイ捨て禁止などのイラストが同僚らの目に留まり、3か月後には市内5か所の学童保育所で未就学児や小学校低学年の子どもたちに向け、環境教育の授業を担当することになったという。
「授業回数の多い保育所では道徳的なテーマも盛り込みました。掃除の人がいるのになぜゴミをポイ捨てしてはいけないのかわからないという子もいたからです。道徳教育で動植物をいたわる心を育んだり、清掃をしてくれる方をはじめ、他者に対する尊厳の大切さを伝えることで、環境問題への理解につながると考えたんです」

学童保育所での授業やテレビ番組の様子は、積極的にSNSで発信した

学童保育所での授業やテレビ番組の様子は、積極的にSNSで発信した

 

毎日30分~1時間の授業では、子どもたちが飽きないよう、アニメのキャラクターを主人公にした環境問題の資料を作成した。それをプロジェクターで上映し、読み聞かせを行うと、未就学児でも授業を楽しみにしてくれるようになり、教室内のゴミが徐々に減った。 こうした三戸さんの活動は「外国人女性がおもしろい環境教育をしている」と話題になり、地元のテレビ局のインタビューを受けることになる。それがきっかけとなり、同時期にボランティア活動をしていたドイツ人や同僚らと、環境教育のテレビ番組の制作に携わることにつながった。
「企画だけでなくレポーターとしても出演しました。番組は2、3週間に1度の頻度で放送されていたのですが、毎回テーマを変え、ゴミ埋立地付近の汚染された川の様子の紹介や、捨てられた犬や猫の保護施設長へのインタビューなど、さまざまな課題を伝えました」
テレビ番組の放送があると、SNSでも拡散した。メディアを活用することで、三戸さんは広範囲の住民に環境問題を考えるきっかけを与えることができた。

Text=桜木奈央子
写真・素材提供=前川健一さん、市川雅美さん、三戸朝陽さん

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