派遣国の横顔~知っていますか?
派遣地域の歴史とこれから[スリランカ]

40年前に4カ国目の協力隊派遣国として派遣が始まったスリランカ。2022年には日本との国交樹立70周年を迎えます。スリランカの大まかな歴史や文化、協力隊事業について振り返ります。

スリランカ

スリランカの基礎知識

  • 面積:6万5,610平方キロメートル(北海道の約0.8倍)
  • 人口:2,103万人(2016年)
  • 首都:スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ
  • 民族:シンハラ人(74.9%)、タミル人(15.3%)、スリランカ・ムーア人(9.3%)(一部地域を除く値)
  • 言語:公用語(シンハラ語、タミル語)、連結語(英語)
  • 宗教:仏教徒(70.1%)、ヒンドゥ教徒(12.6%)、イスラム教徒(9.7%)、キリスト教徒(7.6%)(一部地域を除く値)

※2021年7月2日現在 出典:外務省ホームページ

派遣実績

  • 派遣締結日:1980年5月15日
  • 派遣締結地:コロンボ
  • 派遣開始:1981年4月
  • 派遣隊員累計:1,151人

※2021年9月30日現在 出典:国際協力機構(JICA)

長期間にわたる内戦、相次ぐ災害を経て、経済発展を続ける「インド洋の真珠」

植民地支配からの独立、内戦復興、災害復興と、スリランカの歴史を知ると協力隊に求められる要請の真意も見えてくる。スリランカと日本の国際協力の懸け橋として教壇に立つアーナンダ・クマーラ名誉教授に、まずはスリランカの歴史や文化についてお話しいただいた。

アーナンダ・クマーラさん
アーナンダ・クマーラさん Ananda Kumara

PROFILE

スリランカ出身の名城大学外国語学部初代学部長で、現在同大学名誉教授(専門は国際開発や開発経済学など)。在日本スリランカ人研究者協会副会長。1983年に国費留学生として東京工業大学に留学して以降、日本国内の国連機関の研究員や大学教授として勤務。これまでにODA評価スリランカ国別評価チームアドバイザー(2013年)、三重県協力隊を育てる会会長(10-14年)をはじめ、さまざまな社会連携活動に従事し、第16回JICA理事長表彰を受賞。今後はスリランカ初となる日系の大学設立に従事、人材育成に励む。

茶畑

スリランカの重要な輸出品の一つである紅茶は、イギリスによる植民地時代にプランテーションとして始まった

今年、協力隊派遣40周年を迎えたスリランカ民主社会主義共和国(以下、スリランカ)。1981年4月の4次隊3名(野菜、手工芸、竹工芸)の派遣を皮切りに、農業・保守操作部門を中心に派遣数を伸ばし、派遣隊員数は累計1000名を超えている。

〝インド洋の真珠〟とも呼ばれるスリランカは、インド南東部のインド洋上に浮かぶ熱帯の島国だ。紀元前から仏教国として栄え、「アヌラーダプラ遺跡群」など8つの世界遺産でも知られる。19世紀初頭に英国植民地になったが、48年に英連邦の自治領として独立。72年には完全独立を果たした。

主要産業は農業で、〝セイロン紅茶〟をはじめ、天然ゴム、ココナツ、コメなど、熱帯モンスーン気候を生かした多彩な農作物を産出している。また、サファイアやルビーなど、世界有数の宝石産出国でもある。

スリランカは北海道の約8割の国土に複数の民族が暮らす多民族国家だ。人口約2000万人の内、7割強をシンハラ人、2割弱をタミル人が占めているが、過去には両民族の対立から不幸な内戦を経験した。

83年から北・東部州を中心に住むタミル人の反政府勢力「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」との内戦が本格化。内戦は26年間続き、2009年に終結したが、その間にも協力隊の派遣は継続し、社会福祉、教育、スポーツなどの分野に活動を拡大。また、04年に発生したスマトラ沖大地震により甚大な被害が生じた際には、JICAによる被災地復興支援も実施された。

スリランカの街並みと子ども

平均識字率は9割を超えるスリランカ。幼児、体育、美術、音楽といった教育関連の要請も多い

内戦終結後は東部州への隊員派遣を再開。北部州への派遣も開始され、内戦後の民族融和にもかかわってきた。スリランカ出身で「三重県協力隊を育てる会」初代会長を務めるなど、協力隊との縁が深いアーナンダ・クマーラ名城大学名誉教授は、「政府の融和政策や教育が進んだため、特に過去の確執がない若い世代の間では、両民族の相互理解、交流が深まっています。そのなかで、中立の立場で話ができる協力隊員の果たす役割は大きいはずです」と話す。

平均識字率が9割を超えるスリランカは教育水準が高く、内戦終結に伴う国内情勢の安定を背景に、近年、経済発展が進んでいる。「平和」を礎にしたさらなる発展が期待されるなか、引き続き協力隊の活動が求められている。

Text=田端広英(本文) 写真=渡部光哉(茶畑) 写真提供=アーナンダ・クマーラさん

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