[特集]巻き込み力
-仲間を増やして社会課題に挑むOVたち-

任地で多くの人に助けられながら活動した協力隊OVの多くが、帰国後も「社会のためになることをしたい」
「経験を生かして活動したい」といった意思を持ち続けています。
一方で、そうした気持ちはあっても、具体的に行動に移す手立てがないといった方もいるでしょう。
そこで、本特集ではビジネスやボランティアで社会課題に挑む6人のOVたちを取材しました。
志を共にする仲間を増やしながら草の根的に活動を続けるOVたちの「巻き込み力」は、
社会をもっと良くする力を秘めています。
17ページでは、協力隊事務局が主催する帰国隊員向け災害ボランティア研修についても紹介しています。
「何かしてみたい」と感じているあなたにも届きますように。

JOCA東北が目指す「ごちゃまぜのまちづくり」
▼共生社会づくり ▼宮城県岩沼市

河合憲太さん
河合憲太さん
インドネシア/水球/1997年度1次隊・京都府出身

PROFILE

JOCA東北IWANUMA WAYマネージャー。1997年に新卒で協力隊に参加。任期を1年延長してインドネシアで水球の普及活動や貧困地域での住民の支援活動を行う。帰国後はJICAジュニア専門員などを経験し、2008年にJOCA入職。本部勤務のあと、近畿支部(大阪・梅田)へ。18年摂津市にJOCA大阪を立ち上げて地域活動を行い、21年4月から現職。

一歩踏み出したい人へのメッセージ:そこの一員になろうとした協力隊活動の経験を大切に
河合さんにとって巻き込み力とは?:人と人を結びつける仕掛けをつくること

震災復興支援から始まった

   公益社団法⼈青年海外協力協会(以下、JOCA)は、言わずと知れた協⼒隊OVを中⼼に活動する団体で、現在、石川県輪島市をはじめ、全国6地域で「ごちゃまぜ」をコンセプトにした多文化共生のまちづくりを行っている。2021年春に宮城県岩沼市の市営住宅跡地にオープンしたJOCA東北もその一つで、スタッフ130名のうち約30名が協力隊OVであり、地域全体を巻き込んだコミュニティづくりを行っている。

地域密着型の健康増進施設「ゴッチャ!ウェルネス岩沼」

地域密着型の健康増進施設「ゴッチャ!ウェルネス岩沼」。8歳から85歳まで外国籍の方も含め現在約400名の地元住民が会員として在籍。独居高齢者の仲間づくりの場にもなっている

   広い敷地内には保育園、地域子育て支援センター、障害児・者や高齢者のデイサービス、天然温泉の入浴施設、健康増進施設(運動ジム)、飲食店などがあり、毎日、国籍・世代・障害の有無などを超えて多くの人が集う。
「地域の高齢者や子ども、障害者が自然と交流できる場所を目指しています」と話すのは、JOCA東北IWANUMA WAYマネージャーの河合憲太さんだ。家族とともに岩沼市に移住し、世代交流事業を通じたコミュニティづくりを実践している。

   JOCA東北の成り立ちは11年3月11日に起きた東日本大震災にさかのぼる。震災後、全国から協力隊OVの有志が集まり、岩沼市をはじめ宮城、岩手での復興⽀援活動を行った。震災直後の緊急支援期間を経て、同年6⽉にJOCAと岩沼市の間でサポートセンター運営に関する協定が締結されると、支援内容は仮設住宅入居者支援、住民のコミュニティ支援に移行していった。

JOCA東北外観

JOCA東北外観。中心に園庭があり、室内から園児たちが遊ぶ様子を見ることができる

   被災地域には仮設住宅や復興公営住宅が形成されていくに従い、住民の孤独死や自死が問題になることもある。一方で、沿岸地域から大規模な住宅移転が行われた岩沼市においては、孤独死や自死は発生しなかったと河合さんは話す。
「岩沼の仮設住宅ではJOCA職員が毎日それぞれのお宅に訪問し、ちょっとした声かけや健康チェックをしていました。この活動が現在のJOCA東北の基盤になっています。協力隊OVは専門家ではありませんが、それぞれの任地で人々と同じものを食べ、同じ言語で話し、地域住民の一員として暮らします。その経験が仮設住宅での見守り支援に役立ったのではないでしょうか」

「看取りあい」の関係性を目指す

2階テラスはモンゴルの移動式住居「ゲル」を設置

2階テラスはモンゴルの移動式住居「ゲル」を設置。「放課後に小学生が遊びに来ます。夏はビアガーデン、冬は芋煮会などさまざまなイベントを企画しています」(河合さん)

   河合さんは「JOCA東北で実現したいのは昭和の下町での暮らしにあるようなご近所付き合い」だという。自身がそれを体験したのが協力隊活動で3年間を過ごしたインドネシアだった。現地では「困ったときには近隣の住民同士で助け合い、地域全体で子どもを育てるような関係性やコミュニティが健在でした。日本にこうしたコミュニティのあり方を『逆輸入』できるのでは、と感じました。
   また、河合さんが18年から代表を務めたJOCA大阪での経験もJOCA東北で生かされている。

「JOCAに来てくれる人には『いらっしゃいませ』ではなく『こんにちは』という言葉をかけたいと思っています。飲食店や物販など有料コンテンツもありますから、お客様としてもおもてなしをしながらも、同じ地域に住むご近所さんとして、今まで話したことのない人同士が会話するきっかけをつくる場所にしたいと思っています。実際に口コミでJOCA東北を知り、来ていただけるようになった方も多いんです」

「J'sこどもLabo岩沼」(児童発達支援・放課後等デイサービス)に開所時から週4回通っている親子

「J'sこどもLabo岩沼」(児童発達支援・放課後等デイサービス)に開所時から週4回通っている親子。「それぞれの子どもの特性を理解して、できることを伸ばし、苦手なことを克服するというスタンスで運営しています」(河合さん)

   大阪時代、河合さんが特に印象深かったのが「看取りあい」の関係性だ。JOCA大阪の常連だったおばあちゃんが亡くなるとき、異変に気づいて駆けつけたのも、亡くなったあとに告別式に参列したのも近所に住むJOCA大阪の常連客だった。

「僕も告別式に参列させてもらったのですが、近所の方たちが最後のお見送りをしておられました。JOCA東北でも地域の方々のお付き合いが深まる場所となって、『看取りあう』関係になっていくとすてきだなあと思います」


あえて壁をなくした理由とは

地域子育て支援センターの一角にあるワークスペース

地域子育て支援センターの一角にあるワークスペース

   JOCA東北は時間帯によって施設の雰囲気や主な機能が変化する。午前中は園庭に保育園児たちの声が響き、お昼時にはそば屋を訪れた地元客が食事を楽しむ。午後には放課後の小学生たち、夕方以降は温泉目当ての入浴客とさまざまな人が出入りする。そして、壁の少ないオープンなスペースでデイサービスを利用する障害者や子育て支援センターに来られる親子などが過ごしているので、来場者との間に自然な交流が生まれる。
「各機能を分断しないという意図で施設内には壁がほとんどありません。ガラス戸などを多用することで、音や視線が交差し人が自然に『ごちゃまぜ』で交流するよう設計されています」

 

    一般的な高齢者や障害者福祉施設では利用者だけを対象とすることが多いが、JOCA東北では、福祉施設の利用者を含めた地域住民の交流によって地域全体を活発化させていくことを目的としている。スタッフが話のきっかけを振ることもあるが、利用者同士が何度か顔を合わせることで自然な会話が生まれることも珍しくない。
「特別なイベントではなく日常生活のなかで、世代や障害の有無を超えた『ごちゃまぜ』の交流があり、お互いが関わり合って暮らしていく。本来地域にあったおせっかい人情とか(笑)、人と人のつながりがあることで生活に安心感が持てるというような。これからもJOCA東北という一つ屋根の下で、お互いに支え合って生きるコミュニティづくりの仕掛けをつくっていきたいです」

Text、Photo=桜木奈央子

知られざるストーリー