[特集]巻き込み力
-仲間を増やして社会課題に挑むOVたち-

三方良し、皆が幸せになるフェアトレードを実現
▼ソーシャルビジネス ▼フィリピン × 熊本県

番匠麻樹さん
番匠麻樹さん(旧姓:山田)
フィリピン/村落開発普及員/2010年度2次隊・熊本県出身

PROFILE

株式会社Girls, be Ambitious代表取締役 CEO

大学時代にボランティアで行ったフィリピンで、何もないところから幸せを生み出せる現地の人々に感銘を受ける。フェアトレードの考え方を知り、フィリピンと日本をつなぎ「フェアトレードをビジネスとして成功させる」という目標を持ち、卒業後、商社の貿易部門勤務ののち協力隊に参加。帰国後に同社を設立する。

一歩踏み出したい人へのメッセージ:起業は自分の思いを形にする手段の一つ
番匠さんにとって巻き込み力とは?:ありのままの自分を生かして生きていくこと

幸せは自分たちでつくっていくもの

   無農薬・非遺伝子組み換え・フェアトレードの商品を扱う「Girls, be Ambitious(ガールズビーアンビシャス:以下GBA)」は、フィリピンのサステイナブルな暮らしからインスピレーションを得て誕生した。

モリンガの農園

フィリピンの首都から数百キロ離れた田舎にモリンガの農園がある

   2012年、協力隊の活動を終えて帰国した翌日にGBAを立ち上げた代表取締役の番匠麻樹さん。大学のときに渡航したフィリピンで「何もないところから幸せを生み出せる」人々の姿に感銘を受けたという。

「フィリピンのある地域に滞在した夜、台風で外は暴風雨、家のなかも停電で真っ暗になりました。暗闇のなかで机の上に1本だけろうそくを立て、誰からともなく不安を打ち消すかのように歌を歌い始めたら、家族4世代の大合唱になっていき……。大変な状況でも幸せを見いだそうとする姿に胸がいっぱいになりました。物質的には足りないものだらけだけど、日本にはない豊かさがここにはある。そして、幸せは与えられるものではなく、自分たちでつくっていくものだと思いました」

   そんなフィリピンの人たちの心の豊かさの象徴だと番匠さんが感じたのが、伝統療法に使用されるハーブ「モリンガ」。昔から人々の健康や美容を支えてきたメディカルハーブだ。緑茶に似た味を持つ葉や種子を加工して商品化し日本の人に使ってもらうことでフィリピンの精神的豊かさを伝えている。

モリンガの葉を加工した茶葉とパウダー

モリンガの葉を加工した茶葉とパウダーはドリンクや料理に使える。種子から作るオイルはスキンケアに用いる

   GBAでは、モリンガパウダーや茶葉、美容オイルやココナツやコーヒーなども取り扱っている。これらの商品は、原材料や製造過程だけでなく生産者の生活の質までにもこだわって作られている。GBAに関わるすべての人たちの幸せを追求し、そしてより長く質の高い生活を持続できるよう工夫もしている。

   「生産者に対し、家族が健康になる食事の栄養バランスを勉強会で伝えるなど食育にも取り組んでいます。また、フィリピンの地方では経済的な理由から都会へ出稼ぎに出る若者が多いのですが、生産者の生活の質が上がり収入が安定したことで、若者が地元に戻ってきて農園を手伝うなど、自然に後継者も育っているようです」

   フィリピンでは昔から残る地主制度で、農家が貧しい生活を強いられていることを知った番匠さんは、現地の農家をグループ化し、そのリーダーを事業主として契約を結んでいる。そして、それらの農家グループのマネジメントは現地の事業パートナーの女性に一任している。「フィリピンでの協力隊活動の任期終了後GBAを立ち上げて、すぐ彼女に会うためにフィリピンに戻りました。農業で地方の雇用を生み出したい、高品質な商品でお客様を喜ばせたいという志を共有し、彼女を信頼して事業を進めています」。


わくわくする商品作り

   番匠さんはフィリピンで初めて高品質のモリンガを見たときから、これなら日本の人たちにも喜ばれると確信した。

「隊員のときは村落開発隊員として活動し、フェアトレード商品を生産する団体のマーケティングや品質サポート管理をしていました。また、前職で商社の貿易部門で働いていたので、これらの経験を生かし、GBA設立当初はモリンガを使用した商品の卸販売をメインにしたビジネスモデルを描いていました。でも、ありがたいことに卸先が増えていき、法人格を持っていなければ、食品や化粧品はお取引できない会社もあり、14年にはGBAを法人化しました」

   番匠さんがGBAというブランドで大切にしているのは、関わる人全員が「わくわくする」商品作りだという。

GBAでは現地スタッフ

GBAでは現地スタッフに適切な給与を保証し、適切な評価制度を策定し、インセンティブを支給する

「お客様が商品を手にとってわくわくすることはもちろんなのですが、生産者たちにも自分が育てた作物が商品になり日本の人たちを幸せにしていることを想像してわくわくしてほしいと思っています」
   一方でブランドの要である商品の製造過程では厳しいルールを課している。モリンガの葉の色のカラーチャートを作り、商品化できる・できないをシビアに判断し、変色して仕上がってしまったものは販売しない。

「ブランドの要である商品がぶれてしまったら、GBAに巻き込んだすべての人に幸せになってもらうことはできません。生産者さんにも自信とプライドを持って、その人らしくGBAに関わり続けていただきたいからです」
   GBAとの関わりで生活が大きく変化したフィリピンのある家族がいる。モリンガ農家として働いているAさんは夫と子ども2人の4人家族。以前は夫婦共に夜遅い時間まで山で燃料用の木を拾い生計を立てていたが生活は苦しかった。しかし、モリンガ農家としてGBAに関わることで、Aさんは夕方には仕事を終えて帰宅できるようになった。

「2人の子どもたちは不安定な生活のなかで不登校になってしまっていたのですが、モリンガ農家として働くことで収入が安定し、母親が家で食事を作ることができるようになりました。また夫婦共にヘビースモーカーだったのですが、食育のワークショップで健康について学び、タバコもやめて健康的な生活をするようになりました。家庭の雰囲気が明るくなり、子どもたちは学校に登校するようになり、勉学に励みました。その結果、長男は去年大学に進学し、私に『エンジニアになりたい』と夢を語ってくれたんです」

   番匠さんは、だからこの事業は辞められない、と嬉しそうに話す。巻き込んだ人すべてを幸せにしていこうとする信念の強さを感じた。


Text=桜木奈央子 写真提供=GBA

知られざるストーリー