[特集] 活動や経験をどう生かす?ニッポンの伝え方

Case2 健康的な食文化を広めたい
パラグアイ発『健康は美しい』

畑中遥さん
畑中遥さん
パラグアイ/青少年活動/2018年度1次隊

PROFILE

兵庫県出身。大学卒業後、小学校、中学校の教員を7年間務めたあと退職し、2018年に協力隊員としてパラグアイへ。現地のNGOで、算数教育や体育指導などに携わる。20年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で帰国し、国内で任期終了。21年からJICA関西で国際協力推進員として勤務。

チャルラの風景

チャルラの風景。前列で熱心にメモを取っている女性の姿が印象的だった

 パラグアイ・グアイラ県の県庁所在地・ビジャリカで『健康は美しい』と題して、日本祭を開催したのは、青少年活動の隊員として活動していた畑中遥さん。日本で教員だったことから、普段は小学校や中学校で算数や体育の指導をし、長期休校中には英語の講座やダイエット教室を開くなど、幅広く活動していた。

 日本祭のアイデアは、仲良しの女性隊員6人とのおしゃべりから生まれた。

「普段はみんな離れて隊員活動をしてますが、休みの日にはビジャリカのカフェに集まることが多かったです。あるとき、それぞれの任地で同じようなジレンマを抱えていることがわかりました。それはパラグアイの人には糖尿病や肥満が多いこと。砂糖の量が多く、野菜もあまり食べないので、健康指導やダイエット教室をしても、成果が出にくいといったことでした。しかし、みんなで話していくうちに、日本人が無意識に取り入れている健康的な食習慣を伝えたら、パラグアイの人たちの健康をサポートできるのではないかとアイデアがまとまり、じゃあ、そういう趣旨で日本祭をやってみようかと、企画が立ち上がりました」

野菜ジュースコーナー

野菜ジュースコーナーでは、一日の理想の野菜摂取量がわかる野菜量り体験を実施。野菜は地元の八百屋さんが安価で提供してくれた

 まず決めたのはコンセプトだ。

「単に日本文化を紹介するだけでなく、健康的な食生活を広めたいというコンセプトをしっかりさせようというところから始まりました。タイトルを『健康は美しい』にしたのは、パラグアイ人は美にこだわりがあるからです。特に女性は洋服をたくさん買うし、ヘアカラーやネイルケアにも興味があって、おしゃれ好き。ダイエット教室でも『なぜ日本人はスリムなの?』と聞かれました。だから『着飾る美しさもあるけれど、健康だから美しいこともある』、それを伝えたいと思いました」

 コンセプトを明確にしたあとは、イベントや出店の内容を考えて役割分担。同時に近隣の隊員たちに協力を募った。

「6人の中心メンバーをリーダーに、コーディネート担当、宣伝担当、食文化担当など、各セクターに分かれて、協力を申し出てくれた隊員たちと準備を始めました。コンセプトを明確にしておいたおかげで、それぞれのセクターで迷ったり修正が必要になったときも、原点に戻れてよかったです」

 イベントにかかる費用は、飲食の有料提供などを行うことで自分たちで賄うようにしたが、ボランティア規定に沿って黒字にならないように配慮した。

イベント当日は大雨! それでも100人以上が来場

箸で豆をつかむゲーム

箸で豆をつかむゲームは、子どもたちに大人気!

 イベント当日の開始時間は17時。昼間からポツポツと雨が降り始め、夕方にはどしゃぶり。開会が危ぶまれるほどの大雨になったが、会場にはパラグアイの人たちが次々と姿を現した。

 メインとなるイベントは、日本食について話す「チャルラ」。〝一汁三菜〟〝朝ご飯〟〝お弁当〟〝旬〟といったテーマごとに、1回10分程度の講座を行い、その合間にパフォーマンスやゲームを行った。出店ブースでは、摂取すべき野菜の重さを量る体験や、野菜ジュースを販売する野菜コーナー、焼きそばや巻きずしなどを販売する日本食コーナーも。チャルラを4テーマすべて聞いてくれた参加者には特製のお弁当をプレゼントした。食事だけでなく、浴衣の着付けや習字体験、折り紙ピアス販売など、日本文化を紹介するコーナーも設けた。

浴衣を着付けてもらうパラグアイの女の子

浴衣を隊員に着付けてもらうパラグアイの女の子

 17時からスタートしたイベントは19時に終了。悪天候にもかかわらず、100人以上のパラグアイの人たちが会場を出入りした。来場者の興味を最も引いたのは、やはり日本食だった。

「チャルラのときに熱心に前列でメモを取っている女性がいて、嬉しかったです。焼きそばや巻きずしをおいしいと言ってくれる人も多く、日本食への関心の高さが伝わってきました」。日本文化を伝えるだけでなく、健康的な食生活を広めるという、畑中さんたちの目的はしっかりと果たせたようだ。

 イベント成功の要因を聞くと、畑中さんは2つ挙げてくれた。

「一つは文化交流です。私たちがただ『日本っていいでしょ』と伝えるだけでなく、パラグアイダンスを踊って、パラグアイのことを学んでますというスタンスを見せたことで、地元のパラグアイのコーラスグループの人たちも日本の歌を歌ってくれました。そういった文化交流ができたことがよかったです。もう一つは地元の人の協力を得られたことです。ビジャリカの隊員のつてで市の施設を無料で会場として借りることができましたし、地元のコーラスグループが入ってくれたのも、普段から隊員たちと交流があったからです。野菜ジュースで使う野菜も、隊員が普段よく買い物をしていた八百屋さんから安く仕入れさせてもらいました。ポスター作りや広報活動も、パラグアイの人たちが、ずいぶん協力してくれました」

イベント告知用のポスター

オリエンタルな雰囲気たっぷりのイベント告知用のポスター

 イベントが思いがけず、地元の人と協働するきっかけになり、畑中さん自身、その後の隊員活動にも変化が出てきたという。

「積極的に現地の人に助けを求めるようになりました。例えば、学校菜園をするときも、学校の先生だけでなく、保護者にも入ってもらいました。そうすると、どんどんプロジェクトが大きくなっていきました。イベントをきっかけに、自分一人で抱え込まず、現地の人に助けを求める大切さを学びました」

 パラグアイの人たちは愛情深く、協力隊員に対して家族のように接してくれるという。家族だからこそ、いつまでも健康でいてほしい。そのためにも、このイベントが次の代にも引き継がれてほしい、最後に畑中さんはそんな希望を語ってくれた。





細切れの講座“チャルラ”

細切れの講座“チャルラ”をメインに


1本10分程度の“チャルラ”と呼ばれる講座を4回行う。畑中さんは一汁三菜を担当。和食とパラグアイの食事を比較して、3大栄養素の取り入れ方のコツについて話した。チャルラの合間には、日本人が踊るパラグアイダンス、箸で豆をつかむゲーム、地元のパラグアイ人のコーラスグループによるコンサート、紙飛行機飛ばしゲームなどが行われた。

『健康は美しい』開催までの道のり

2019.9
現地隊員6人で発案。コンセプトを決めて近隣の協力隊員に協力を要請。役割分担して、セクターごとに準備を進める。

2019.10
チャルラの原稿を作成し、講座の練習。SNSやポスター掲示で、イベントを告知。イベント3週間前から週末ごとに大型スーパーなどでチラシを配布する。

2019.11
イベント前日から当日昼まで食事などの準備。当日は夕方からイベントを開催。


イベント成功の3大ポイント

1 コンセプトを明確にする

2 地元の人の協力を得る

3 雨でも対応できる場所で行う


Text=池田純子 写真提供=畑中 遥さん

知られざるストーリー