JICA海外協力隊に参加する人はどんな人?

【CASE3】「コーヒー生産地が抱える問題を知りたい」
趣味が高じて参加した協力隊の2年間がきっかけとなり、技術協力の専門家に

趣味から関心を持って参加した玉田侑希さんの場合
► JICA海外協力隊コミュニティ開発隊員としてルワンダへ ► 帰国後:技術協力プロジェクトの専門家として再びルワンダへ

玉田侑希さん
玉田侑希さん
ルワンダ/コミュニティ開発/2016年度4次隊・京都府出身

大学在学中にスターバックスでアルバイトを始め、大学卒業後、スターバックスに入社。3年後、ルワンダへ。帰国後、タイでの協力隊短期ボランティア(農業協同組合)、オンラインコーヒーツアーなどの活動を経て、2021年より技術協力プロジェクトの専門家としてルワンダに赴任。

   スターバックスのアルバイトをしていた玉田侑希さんが、初めてコーヒー農園を訪れたのは、留学中に旅したアフリカのタンザニア。宝石のように輝く赤い実をつけた、美しいコーヒーの木に魅せられると同時に、そこに住む人たちがどうやって生活しているのか、生産者たちが抱える問題は何か、自分も生産地に身を置いて一緒に解決したいと思った。卒業後スターバックスに入社したが、そうした思いはより強くなり、海外協力隊への応募につながった。

現地の農家に向けた収穫期前のトレーニングを実施したときの様子

隊員時代:現地の農家に向けた収穫期前のトレーニングを実施したときの様子。完熟したコーヒーチェリーを収穫することがおいしさにつながることを説明した

   採用された職種は、コミュニティ開発。2016年夏に採用されてから、11月、12月、翌年1月のコミュニティ開発の技術補完研修に加えて、コーヒーに特化した技術研修を受け、3月にルワンダへ。ルワンダ東部県ルワマガナ郡カレンゲセクター(自治役場)事務所に配属された。

「もともとの要請は、コーヒーの品質と収量の改善。でもこれが難しくて……。なぜならコーヒーチェリーの買取価格は政府が決めているから。どんなにいいチェリーを採っても、買取価格は変わらないので、農家は品質には大して興味がないのです」

   活動の足がかりをつくろうとしても、連携するはずの農業技官は忙しすぎて、それどころではない。「半年間はなかなかやるべきことが見つからなかった」という玉田さんに、チャンスが訪れたのは、たまたま道を歩いているときだった。

「現地の同世代の女性が話しかけてくれて、学校の農園にコーヒーの木が700本ぐらいあることを教えてくれました」

   早速学校に足を運び、校長先生と話したところ、学校の所有する農園では生徒が農業の授業で畑を耕したりしていることを知る。その光景を目の当たりにした玉田さんは、「子どもたちの親の多くが農家なので、親たちがどうやってコーヒーを育てているのか、育ったコーヒーがどのように飲まれているのか、子どもたちの学びにつながればと、苗作りから一緒にやることを提案しました。校長先生から快諾を頂き、特に環境クラブという課外活動で関わってくれた子たちが、積極的に参加してくれました」。

 そこから活動は、軌道に乗ってきた。

「コーヒーのプロモーションのために、女性の協同組合を支援し始めました。組合の女性たちが作る、かごバッグやバスケットをマーケットに出したり、イベントのブースに出店したりしました」

「ただ会うだけでなく、自分には何ができるのか」ということを考えて活動していたという玉田さん

隊員時代:「ただ会うだけでなく、自分には何ができるのか」ということを考えて活動していたという玉田さん

   いくらお金にならないとはいえ、加工場の管理も重要と、村のコーヒー加工場の品質管理にも取り組み始めた。

「チェリーの糖度の違いでどうおいしさが変わるか、どういうコーヒーの品質が良くて外国に売れるのか、加工場の人たちと話し合いながら、農家に伝えていきました」

   玉田さんが自ら見つけ出した活動が実を結んだのは、カレンゲセクターで開催されたイベントでのことだった。

「EU大使がイベントを訪れたんです。そこでブースを出していた女性の協同組合や加工場の人たちが、EU大使にコーヒーを入れたり、特産品をプレゼントしたりして、すごく喜ばれました。私の関わっている活動が、すべてつながった嬉しい瞬間でしたね」

   自ら動くうちに、ルワンダ全土で毎月の最終土曜日に行われるUMUGANDAという地域奉仕活動のなかで、コーヒーの木の剪定デモンストレーションや、肥料のまき方のレクチャーを行うなど、配属先と一緒に活動することも増えてきた。

「いろいろ動くうちに、改めて私の職種って“コミュニティ開発”なんだと気づきました。コーヒーの栽培にこだわっていましたが、栽培は一つの手段であって、一番大事なのは住民の収入が上がること。コーヒーを通して、それができるなら何でもいいと思い直しました」

   気づきを得てからは、さらに活動の中身が濃くなっていった。

「加工場でコーヒー豆を“村別に選別する”ことを試してくれるようになりました。村別にすると、その地域の特性がわかるので、問題点も可視化されます。それはファームの管理面でもマーケティング面でもすごく重要。それを始めてから、私の帰国後、ある村の豆が日本の商社に輸出されたんです」

農協に所属する女性たちに聞き取りを行っている様子

帰国後:農協に所属する女性たちに聞き取りを行っている様子。ルワンダ語で冗談を言い、ルワンダの人たちに興味を持ってもらうことが得意

 何でもチャンス、どんな出会いも何かにつながるという気持ちでやってきた玉田さん。隊員活動の意義をこう語る。

「農園を持っている人が何をしているか、女性の協同組合が何を作っているのか、加工場がどういう取り組みをしているのか、政府の機関が把握しきれていないことはたくさんあります。でも外から来た人間なら、全体を俯瞰して見た上で、それぞれの点をつなげることができる。そういうつながり合いから新しいものを生み出し、本来の要請に応えることができれば、隊員活動の意義があるのかなと感じました」

   帰国後もコーヒーに関わる活動を続けていたが、2021年にJICAの技術協力プロジェクトの公募に合格。今度は専門家という立場で、10月からルワンダに赴任している。

「今回は“ルワンダコーヒーバリューチェーン強化振興プロジェクト”ということで、農園の管理や品質の調査をしながら、バリューチェーン全体を俯瞰して問題点に取り組んでいくことになります。私に課せられたタスクは農協強化。農園の管理と品質の管理、両方を見ながら、農家の収入アップを目指していきます」

   今後の夢は?と聞くと「今のポジションを見つけられたことで半分、夢はかなった」と言う。

「このミッションを果たした2年後に、また違う生産地の専門家になれたら、もう半分の夢もかなうのかもしれません」


玉田さんから応募者へのMESSAGE

現地の人たちとたくさん話して、自分のできることをやることが大切ですし、それがやりがいにつながります。そのためには語学! 私もルワンダ語を話し、ルワンダ人として暮らすことで、現地の人との距離が縮まった気がします。

職種ガイド : コミュニティ開発

「計画・行政」分野の一つで、地元の住民が望む生活改善や収入向上、地域活性化に貢献することを目的とした職種。フィールドワークや住民参加型のワークショップを企画・運営し、地域住民の状況やニーズを把握し、課題解決のために活動する。玉田さんの場合、ルワンダ東部県ルワマガナ郡カレンゲセクターにて、農業技官と連携し、農家や協同組合の現地調査、現地女性グループとの活動、栽培技術の提案を行いながら、地域住民の収入アップを目指した。

Text=池田純子 写真提供=玉田侑希さん

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