[特集] 語学講師、VC、OVの知識と経験を集めました
活動言語を身につける

多くの協力隊員が赴任して最初にぶつかる壁が、コミュニケーションの重要ツールである言語だ。
訓練所でグンと語学力が上がった隊員でも、任地の人々が話す言葉が聞き取りにくかったり、こちらの発言を聞き取ってもらえなかったりと、苦労することは多い。
本特集では、現役隊員の応援団でもある、訓練所の語学講師や在外事務所の企画調査員[ボランティア事業](VC)、さらに先輩隊員(OV)と、総勢15人にご協力を仰ぎ、言語習得のコツを愛情込めてお話しいただいた。
言語を習得したことで、活動が大きく前進したと話すOVは少なくない。言語の壁を感じたとき、読んでみてほしい。

LESSON1 駒ヶ根&二本松から鼓舞激励!
訓練所語学講師陣が伝える、習得の心得①

青年海外協力隊訓練所で訓練生に語学を教える語学講師は、巣立っていった隊員のことを今も心に留めている。今回は10人の講師から、担当言語の習得力アップのポイントや心得を聞いた。

英語

ブライアン・ドリチュラー先生
ブライアン・ドリチュラー先生

アメリカ・ニューヨーク州出身。1995年に来日し、2010年から駒ヶ根訓練所英語講師。




フォーマルも学びましょう

ブライアン先生は読書で日本語を学んだ

ブライアン先生は読書で日本語を学んだ

   文法や読解の力も大切ですが、英語は会話で実際に使ってみるのが一番身につきます。間違いを恐れずにどんどん話して、カジュアルな言葉とフォーマルな言葉の両方を使い分ける技術を身につけていきましょう。例えば自動販売機で飲み物を買うとき、「買う(buy)」か「購入する(purchase)」か迷うかもしれません。正解はbuy。purchaseはフォーマルな場面で使います。語学の習得に近道はありませんが、シーンに合った単語や文章を習得できると自信がつきます。ネイティブのように流ちょうでなくても、派遣国では臆せずチャレンジしてください。

   趣味や好きなことの延長で身につける方法もお勧めです。私は海外の作家の和訳小説を読むのが好きなので、本を通じて知らない言葉を辞書で調べたり、新しいセンテンスをまねしたりして日本語を覚えました。移動中も本を読み、帰宅時や就寝前に実際に使って、パートナーに間違っていないか確認してもらいました。

   配属先では、英語を使いながら疑問に思うことが多々あると思いますが、友人や仲間をつくってすぐに聞ける環境をつくるとよいと思います。興味のある本をむさぼり読む時間も語学力向上につながります。


英語

ジャッキー・ニューポートジュニア先生
ジャッキー・ニューポートジュニア先生

日米両国で育ち、日本企業で人材育成や学校開設に携わる。青年海外協力隊広尾訓練所講師を経て、1995年から二本松訓練所英語講師。



自分を見せること

   訓練所では話すトレーニングに力を入れています。私の役割は隊員の皆さんに自信を持ってもらうこと。トムクルーズの映画に「Show me the money」という有名なセリフが出てきますが、まずは「Show me your ability」。恥ずかしがらずに自分のことを話し、人となりや考え方を見せていくことが上達の一歩です。

   訓練生のなかに、とても英語力の低い看護師隊員がいました。「名前は?」と聞いたら、「仙台出身です」と答えてしまうレベルです。でも彼女への要請内容は、アフリカで低出生体重児や母子を支えることであり、会話ができなければ、命に関わる場面にも遭遇します。彼女の場合、語学力のなさを隠すことなく看護師としての知見をフル活用しながら積極的なコミュニケーションを取っていった結果、飛躍的に上達しました。配属先では心をオープンにして、あらゆる人とつながり、たくさん会話してください。たった一度の人生ですから、挑戦しないともったいないです。


フランス語

サネ・ムッサ先生
サネ・ムッサ先生

1999年に初来日し、2002年から長期滞在。06年と20年に新潟大学で博士号(理学/言語)取得。07年から駒ヶ根・二本松両訓練所フランス語講師。



専門分野の言葉も大切

コロナ禍の語学訓練。感染症対策をし、少人数制で実施

コロナ禍の語学訓練。感染症対策をし、少人数制で実施

   フランス語と日本語では文の作り方が異なります。習得のコツはインプットするときに日本語ではなく、フランス語の文法・語順で学ぶ癖をつけること。日本語は主語を省略することが多いですが、フランス語の場合は主語、動詞、目的語が必ずあり、その前に冠詞や前置詞がつきます。前置詞は日本語にもありますが、数などを示す冠詞はあまりありません。その点を磨くと任地で役立つと思います。

   日常会話はある程度できるようになると思いますが、職種に関連した単語を覚え、語学力を鍛えましょう。対話できることが大事です。間違ってもいいからとにかくポジティブな姿勢でコミュニケーションをとりましょう。努力すれば後悔はしません。配属先でも努力する側の人間であり続けてほしいのです。


スペイン語

石井裕之先生
石井裕之先生

ホンジュラス/農畜産物加工/1986年度3次隊・東京都出身。1993年から駒ヶ根訓練所スペイン語講師。教材開発なども手がける。



基本に立ち返る勇気を

   スペイン語は日本語と母音が同じで、日本人にとって比較的聞き取りやすい言葉ですが、アクセント記号がついた単語の発音や男性・女性名詞、動詞の変化などスペイン語ならではの基本ルールがあります。訓練所で学ぶ期間はとても短く、任地でも学び続けなければ上達しません。現地での生活に慣れるまでに訓練所で学んだ基本を忘れてしまうかもしれませんが、そのとき、どうか心を無にしてゼロからやり直す勇気を持ってください。語学上達に必要なのは、独学に耐え得る基礎と、そこに立ち返る精神です。

   協力隊の活動は、観光や語学留学などと違って、自ら人々のなかに入り込み、課題を見つけて解決を目指すという特徴があります。まず自分が何者かをしっかり伝え、配属先で何が必要かを把握するための「質問力」が求められます。伝えたいことを正しく伝えるために、やはり発音は重要です。

   かつて無口でシャイな隊員がいて、語学力は全般的に低かったのですが、訓練期間中に「無口を直そう」と自分を追い込んでしゃべり続けていたら、少しずつ上達していきました。任地でも話す努力をし続けた結果、2年後には現地の人が話しているかのようになって帰ってきたのです。語学の上達と同時に、雰囲気もガラリと明るくなっていました。

   語学力が伸びるのは、どんどん「しゃべる人」。そして、コツがあるとすれば「好き」になることでしょう。語学の上達に近道はありませんが、その国や人を好きになり、もっと知りたい、正しく話したいと思う気持ちが上達につながります。


スペイン語

マリア・ヘスス・エスクデロ先生
マリア・ヘスス・エスクデロ先生

スペイン出身。スペインの中学校教員などを務めた後、1991年から駒ヶ根訓練所スペイン語講師。




待たないのがラテンの会話

   日本人は相手の言うことを最後までゆっくり聞きますが、ラテンの国々では相手が話し終わる前に意見を伝えたり質問したりします。相手の意見に同調するばかりでなく、時に反対の意見を言ったりすることで話を発展させていくのです。だから、聞くばかりでなく、どんどん会話をしてほしい。そのために訓練所で学んだ基本を復習し続けてほしいのです。正しい文章を何度も繰り返しながら定着させる方法として、派遣国でDELE(スペイン語検定)の受験をお勧めします。

   語学の勉強はスポーツと似ていて、テレビでサッカー選手を見てもサッカーがうまくならないように、語学も毎日繰り返し練習することが重要です。やめたら筋肉は衰えてしまいます。語学上達のコツは「繰り返すこと」に尽きると思います。

Text=新海美保 Photo=ホシカワミナコ(本誌 ブライアン先生、サネ先生) 写真提供=駒ヶ根青年海外協力隊訓練所、二本松青年海外協力隊訓練所、ご登場いただいた各位

※本記事内では、駒ヶ根青年海外協力隊訓練所を駒ヶ根訓練所、二本松青年海外協力隊訓練所を二本松訓練所と表記しています。

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