[特集] 語学講師、VC、OVの知識と経験を集めました
活動言語を身につける

LESSON1 駒ヶ根&二本松から鼓舞激励!
訓練所語学講師陣が伝える、習得の心得②


アラビア語

黒木靖子先生
黒木靖子先生

ヨルダン/手工芸/1994年3次隊・千葉県出身。カイロ・アメリカン大学大学院で修士号(アラビア語教授法)取得。2011年から二本松訓練所アラビア語講師。



音声を使った練習が大切

ブアラブ世界では最初に好意の表明を

アラブ世界では最初に好意の表明を

   アラビア語は、イスラム教の聖典であるコーランの言葉であり、アラビア語を公用語としない国や地域でも使われていて、フスハー(正則アラビア語、標準語)とアンミーヤ(方言)が存在します。訓練ではフスハーを中心に学びます。フスハーは学校教育やマスメディアで使われており、その規則をよく理解することがアンミーヤ上達につながります。左右の文字がつながったときに形が変わるビギナー泣かせの言語といわれますが、文字と発音がリンクしないと次のステップに進めないため、基礎が大切です。喉の奥で発音する独特の音(咽頭音)があり、文法にも規則や例外が多いので、習得には時間を要します。

   訓練所では、音声を使った練習、リスニング・リピーティング・シャドーイング・音読・穴埋め式ディクテーションを行います。リスニングの手順は、「①まず聴く ②テキストを見ながら聴く ③生活のなかでBGMのように聴く」。リピーティングは「音声を区切りの良いところで一時停止し、同じように発音する」。シャドーイングは「音声を止めずに同じように発音する」。特にリピーティング→シャドーイングの順番が大切です。会話編の音読はストップウオッチで速度を測定し、音源との差を比較します。穴埋め式ディクテーションは、会話編のテキストをコピーし、重要単語を修正テープで消して再度コピーしたものを利用し、音声を流して書き込んでいます。

   派遣国では家庭教師をつけて自分の作文や録画・録音したデータの添削をしてもらったり、テキストや単語集を音読してもらって録音したりと、独自の教材を作ることをお勧めします。

   アラブ世界において大切なのは、初対面でも、相手にまず好意を伝えること。部族社会ではよそ者を警戒し、相手が敵か味方かを判断する風潮があるので、まず「この国(町、村)が好き」「あなたに会えて嬉しい」等と伝えて下さい。好意の表明がアラブ世界で受け入れてもらう第一歩なのです。


スワヒリ語

エスタ・サムエル・カノマタ先生
エスタ・サムエル・カノマタ先生

タンザニア・タンガ出身。青年海外協力隊広尾訓練所講師を経て、1995年から二本松訓練所スワヒリ語講師。




上達のカギは目的意識

   スワヒリ語は、周辺国を含む東アフリカ一帯で広く使用され、スワヒリ語人口は1億人にも上ります。文字はローマ字で、発音は日本語と似ているため、日本人にとって比較的発音しやすい言語です。ただ文法はアジアやヨーロッパの言語と全く異なるため、初めて学ぶ人は戸惑うかもしれません。文法と語彙を習得する近道は、会話で覚えることだと思います。隊員がスワヒリ語を上手に話せば、現地の人たちは心を開きおしゃべりに花が咲き、活動が楽しくなると思います。

コロナ禍以前のスワヒリ語の語学訓練の様子

コロナ禍以前のスワヒリ語の語学訓練の様子

   言語の習得が早かった、ある訓練生のエピソードがあります。かつてタンザニア旅行中に病気にかかってしまいましたが、当時英語もスワヒリ語も話せなかったため、病院にかかることもできませんでした。しかし、現地で偶然出会った協力隊員に助けられたそうです。彼はその出会いをきっかけに協力隊を目指し、二本松訓練所に入所しました。語学の力をつける意義を経験から理解できていた彼はとても意欲的で、その姿勢はほかの生徒にも広がっていきました。なぜ学ぶか、目的意識がしっかりしている人は語学の上達も早い。恥ずかしがらず、ミスを恐れず、おしゃべりになることが大切です。


シンハラ語

シリパーラ・ウィラコーン先生
シリパーラ・ウィラコーン先生

スリランカ出身。1986年に来日し、99年から駒ヶ根訓練所シンハラ語講師。




大きな声で毎日発音の練習

   シンハラ語は、スリランカの公用語の一つです。多くの隊員は訓練所で初めてシンハラ語に触れます。アとエの中間のような日本語にない音もありますが、文章の語順は主語・述語・動詞と日本語と同じで、日本人にとって比較的学びやすい言語だと思います。半面、単数・複数形、男性・女性・中性名詞などに応じて語尾の変化が異なるなど、難しい側面もあります。文字もアルファベットとは異なります。

   訓練所で語学力が飛躍的に伸びた人は、早朝から大きな声で発音の練習をしたり、授業の前後に「間違いを正してほしい」と質問に来たり、訓練期間中ずっとシンハラ語に触れる努力をしていました。最近では、南米に赴任後、コロナ禍で帰国となり、任地替えでスリランカに行った隊員がいます。彼は1度目の派遣で、語学力が活動に大きな影響を与えることを身をもって知ったので、寝ても覚めてもシンハラ語を使うようにし、短期間で上達したそうです。

   私は日本語の習得にあたり、新聞やテレビからもたくさんの情報を得ています。任地ではまず耳で覚えて、それをまねするのが効果的だと思います。


ネパール語

デヴェンドラ・サヤミ先生
デヴェンドラ・サヤミ先生

ネパール・カトマンズ出身。1980年に来日。二本松訓練所講師を経て、84年から駒ヶ根訓練所ネパール語講師。




「通じればよい」では伸びない

   短期間で上達する人に共通するのは「意識」に尽きます。ネパール語はネパール以外でほとんど通じない言語で、動詞の語尾変化があるなど難しい側面もあります。それでも「深く知りたい」「ちゃんと伝えたい」という意識を持てるかどうか。通じればよいという意識ではなかなか伸びません。

「現地で恋人ができると話せるようになる」とはよく聞く話ですが、恋人をつくるだけでは不十分で、相手を深く知ろうとする意識が、語学のレベルアップにつながると思います。

   例えば、日本でシャツを数えるときは「枚」、ズボンを数えるときには「本」という単位を使います。細かく覚えなくても通じますが、一つ一つの言葉には歴史や生活習慣などの背景があって、周辺の知識を得ながら言語を習得するのはとても楽しいことです。ネパール語もそんなふうに前向きに学んでみてください。

   新しい言語を学ぶためには、使う頻度を増やす努力が必要です。日記を書いたり、音声を聞いたり、就寝前に一日を振り返るのもよいと思います。


インドネシア語

マリア・ヘスス・エスクデロ先生生
エディザル先生

インドネシア出身。1987年に来日。駒ヶ根訓練所講師を経て、95年から二本松訓練所インドネシア語講師。




笑顔でコミュニケーションを

インドネシアでは笑顔も大切に

インドネシアでは笑顔も大切に

   インドネシア語はローマ字表記で語順は英語に似ているため、比較的学びやすい言語です。周囲の人と積極的にコミュニケーションを取りながら、語学を習得してください。

   訓練生には「まず自分のことを好きになり、相手を好きになってほしい」と伝えています。日本人は謙虚で礼儀正しいですが、自己肯定感が低いように思いますので、自分を認めて、他人や他国のことにも寛容でいられるとよい。それが語学取得の秘訣です。

   インドネシアは世界で最も笑顔が多い国といわれますが、相手が笑っていないと不安になります。インドネシアと日本は文化や習慣も違いますが、周りの人を観察しながら、笑顔で明るく信頼関係を築いていける人は、語学の上達も早いと思います。ストレスで免疫力が低下してしまったら活動どころではなくなってしまいますので、まずは笑顔。隊員同士で互いに助け合いながら楽しく活動してください。

Text=新海美保 写真提供=駒ヶ根青年海外協力隊訓練所、二本松青年海外協力隊訓練所、ご登場いただいた各位

※本記事内では、駒ヶ根青年海外協力隊訓練所を駒ヶ根訓練所、二本松青年海外協力隊訓練所を二本松訓練所と表記しています。

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