[特集] 語学講師、VC、OVの知識と経験を集めました
活動言語を身につける

LESSON3 元企画調査員が実感 語学が上達する隊員の共通点

複数の国の在外事務所で企画調査員[ボランティア事業](VC)として隊員を支えてきた3人に、任地で語学力が飛躍的に伸びたと感じた隊員の共通点を、ご自身の勉強法と共に教えてもらった。

お話を伺ったのは
小林亜希さん
小林亜希さん

日本の小学校勤務後、協力隊に参加(ブルキナファソ/小学校教諭/2006年度0次隊・福岡県出身)。2011年から21年まで、VCとして、ベナンやマダガスカル、ブルキナファソ、セネガルのフランス語圏で隊員をサポート。


石濱由実子さん
石濱由実子さん

日本の農場などを経て、協力隊に参加(パラグアイ/養鶏/1987年度3次隊・神奈川県出身)。JICA事業の技術協力プロジェクト調整員およびVCなどとしてコスタリカ、ホンジュラス、パラグアイなどラテンアメリカ各国で勤務。


中原二郎さん
中原二郎さん

民間企業を退職し、協力隊に参加(パプアニューギニア/コンピュータ技術/2001年度1次隊・広島県出身)。2005年、短期緊急シニア隊員としてマラウイに派遣。06年から、VCなどでシリア、イエメン、ソロモン諸島、スリランカ、ラオス、ガーナへ赴任。

Q   語学力が伸びる隊員の共通点は?

小林さん   現地で受験できる語学試験に申し込むなど目標を持って学び続けること。一人で学ぶのは根気がいるので、勉強会を開催するなど、ほかの隊員と切磋琢磨していた人もいます。
   早めに自身の得意技能や語学習得法に気づくことも重要です。現地の人と話すことは大切ですが、隊員のなかでも読むのが好きな人は新聞を読んでそれを話題に会話したり、書くのが得意な人は日記を書いたり、聞くのが好きな人はラジオを活用したりしていました。
   配属先に提出する月次レポートをフランス語で書いていた隊員がいて、最初は箇条書き程度でしたが、そのうちに努力が認められて配属先からアドバイスをもらえるようになりました。月を重ねるごとに起承転結のある立派な文章に変わっていき、その成長ぶりに感動しました。

石濱さん   隊員の最終報告会に参加した際、隊員とその配属先の同僚のスペイン語がそっくりで驚き、同時にほほ笑ましく、うらやましく思いました。いかに任地の人と積極的にコミュニケーションを取ってきたかがわかる瞬間でした。
   語学力が向上する隊員は、語学試験や語学学校、個人レッスン、ラジオ、ユーチューブなどさまざまな方法で勉強をし続けています。ただ協力隊に求められる語学力は、一般的な語学力とは少し異なる気がします。
   現地に溶け込み、現地の人の目線で、というテーマを鑑みると、隊員に必要な「語学力」とは「コミュニケーション力」が半分以上を占めると感じます。任地の言葉を正確に話す・使うことはもちろん大事ですが、まずは人間関係構築のために自分を知ってもらう、相手を知る、理解する・理解してもらうのが先。正確さを求めるあまり、そこが後回しになると活動や生活に不便なところが出てしまいがちです。

中原さん   私の場合、アラビア語圏のほかラオ語やシンハラ語など現地語を必要とする国々で仕事をしてきましたが、どの言語にも言えるのは、難しく考えない、シンプルに伝える、これに尽きるでしょう。
   正確さがあるに越したことはありませんが、単語をつないだだけでも意味は通じます。最初は語学力が高くなくても、まず意図を伝えることに重きを置き、配属先や大家、近所の人などと積極的に人間関係を築いている隊員は伸びが早いと思います。

Q   任地での伝え方のコツは?

小林さん   フランス語圏では、表現力が乏しいうちは、まず短く結論を言ってから、理由を補足していく話し方を意識するとよいかもしれません。日本語は動詞が最後に来るのでその感覚で話をすると、「結局、何が言いたいの?」と言われてしまう隊員もいます。
   私の例では、ベナンで現地スタッフから「もっと大きな声で話したほうがいい」と言われ、その後はほかの国でも大きな声で話すようにしていました。ところが、島国のマダガスカルでは「高圧的」と言われ、同じフランス語圏のアフリカでも、国や地域によってコミュニケーションの仕方が異なることを知りました。現地の人の話し方を観察し、まねをするとよいと思います。
   アフリカのフランス語圏では、現場の活動は現地語、レポートはフランス語、というケースが多いと思います。現地語は辞書がないことが多いため、メモを取って自分で辞書を作っている隊員もいました。2つの言語を同時に学ぶのは大変ですが、困ったことがあれば配属先や周囲の人に遠慮なく聞く。現地の人と一緒にいる時間が長い人ほど伸びが早いです。表情豊かに話す隊員は好感が持たれやすく、語学力を超えたコミュニケーション力を身につけていると感じます。

石濱さん   日本人は正しく話そうと思って黙ってしまいがちですが、スペイン語圏では間違えてもいいからとにかく話すこと。「私はあなたとコミュニケーションしたい!」ということを表現すれば相手も耳を傾けてくれますが、無反応だと何も考えていないとスルーされてしまうことがあります。もちろん中南米のなかでも国や地域によって違いはありますが、ラテンの人々は概しておしゃべり好きな人が多いですから。
   口だけでなく、目、体、筆記用具などなんでも使ってみてください。ある隊員は広いスーパーで卵売り場が見つからず、店員に聞こうにも「たまご(huevo)」という単語が思い出せず、店員の前で鶏が卵を産むジェスチャーをし、無事卵売り場まで連れていってもらえたそうです。この経験以降、「huevo」は忘れませんでした。諦めずにジェスチャーを使って伝える印象的なコミュニケーションが増えれば、語彙も増えていくと思います。ハサミに「tijerra」、アイロンに「plancha」など、家中のものに単語を貼りつけて覚えたという隊員もいました。

中原さん   配属先では、まず口語での会話を広げていくことです。ネットが通じる環境であれば、タブレットやスマホなどでGoogle翻訳を使ってコミュニケーションを図るのも一つのツールになり得るかもしれません。私個人では、英語で言えばシャドーイングという学習方法はリスニング力を上げるのに効果がありました。アラビア語も、市場の人や運転手、知人などが話す内容をオウム返しにして口に出すことで、日常会話程度の語学力を習得していったように記憶しています。
   読み書きを強化する際、都市圏であれば新聞を活用するのも一つの手段ですが、隊員の任地は辺境地が多いため、活動上で見聞きする文章や市場など生活圏で目にする単語や表現を中心に、とにかくたくさん読んで、読み書きの練度を上げるのがよいでしょう。難しいのは話し言葉と読み書き言葉が異なるアラビア語で、両方をマスターするには2倍の学習が必要です。活動上頻出する文章を数多く読むとよいと思います。

Q   隊員へのメッセージをお願いします

小林さん   隊員の中間報告会で、現地の人々がニコニコしながら聞いているのを見て、語学は完璧でなくても人間関係はつくっていけると感じました。他方、活動がうまくいかないのは、ミスコミュニケーションに起因する場合もあります。語学力を向上させるために努力し続けることは、相手と接するときの気持ちの余裕につながり、人間関係が構築されれば、活動の強みになります。それには「自己紹介」も重要で、自分や活動のことはもちろん、JICA海外協力隊を説明できるよう、準備しておくことをお勧めします。

石濱さん   活動中、特に初期は、耳で聞いて覚える「サバイバルレベル」でいいので、とにかく積極的に「伝えたい」「わかりたい」と意思表示をすることで、双方の理解が進み、自信がついてくると思います。
   もともと語学が苦手という隊員も、「コミュニケーション力」を発揮することで人間関係ができていって、相手を知りたい、もっとちゃんと伝えたいという気持ちが自然に芽生えてくると思います。そして、それこそが語学力向上のモチベーションにつながっていくと思うのです。

中原さん   挨拶をはじめできるだけたくさん話すことで、語学力の向上だけでなく人間関係の構築にもつながり、活動の進捗にも影響します。語学力は高くても、配属先でほとんど誰とも顔を合わせることなく自室で過ごしていた隊員は、配属先から不信感を持たれ、活動がスムーズにいかないことがありました。
   人と人とのつながりこそが隊員の醍醐味です。良好な人間関係の構築は語学力向上にもつながるので、意識して現地の人々との交流を深めていってください。


Text=新海美保 Photo=ホシカワミナコ(石濱さん) 写真提供=小林亜希さん、中原二郎さん

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