帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:株式会社かいはつマネジメント・コンサルティング
事業概要:JICAなどのODA関連機関や、海外進出を検討している民間企業をクライアントとして、途上国の調査・分析、専門技術の移転、プロジェクトの実施などのサービスを提供
植松美喜さんは、化粧品会社の研究技術部門に6年間勤務したのち、協力隊に参加し、感染症・エイズ対策隊員としてホンジュラスに赴任した。診療放射線技師免許、保健学修士を取得しているなど保健分野のバックグラウンドはあったとはいえ、まったく異なる業界からのチャレンジだった。
帰国後に進むことになる「開発コンサルタント」という仕事に興味を持つようになったのは、JICAがホンジュラスで実施している保健分野の技術協力プロジェクトに従事していた開発コンサルタントたちと交流を持つようになったのがきっかけだ。プロジェクトの運営を間近で見て、その仕事ぶりに感銘を受けたという。
「自らは裏方に徹してカウンターパートをサポートする姿が印象的でした。一方的に解決方法を提示するのではなく、辛抱強く答えを導き出しているように見えました」
協力隊に参加した当初は、帰国後の進路は決めかねていたというが、活動の終盤になる頃には、国際協力を仕事として続けたいと考えるようになっていた。そして帰国後、株式会社かいはつマネジメント・コンサルティングへの就職を決めた。
さらに「開発コンサルタントとは異なる立場から国際協力事業に携わり、視野を広げたい」と、会社を退職してJICA中南米部に専門嘱託として勤務し、エルサルバドルやホンジュラスの国担当としての業務を経験した。そこで改めて感じたのは、援助機関と現地の間に立ち、現場に最も近い立場でプロジェクトを進める開発コンサルタントの役割の大きさだ。
再入社後の現在は、スペイン語のスキルを生かし、中南米の技術協力プロジェクトを担当。その分野は、農業、金融など、多岐にわたる。
「やりがいを感じる境地に達するにはさらなる経験が必要ですが、尊敬する先輩たちの仕事を間近で見ながら、近づけるように頑張っています」
配属先のレンピーラ県保健事務所は、県内の保健所の監督、指導を行っている組織です。私のここでの活動の柱は二つ。一つは、学校や地域を巡回して感染症予防の啓発活動を行っている保健所の保健プロモーター(普及員)を対象に、教材作りや研修会を行い、保健プロモーションの質の向上を目指すこと。もう一つは、デング熱に関する知識・態度・行動調査の実施です。約400世帯の住民を対象にアンケートを実施し、デング熱に関する知識と予防行動の関係、地域ごとの差異などを分析し、論文にまとめました。また、ホンジュラスにいる保健分野の隊員が集まり、町内会のリーダー的存在である保健ボランティア向けの教材を作成・配布し、活動に役立ててもらいました。
開発コンサルティング会社に就職したいと思っていたものの、しばらくのんびりするつもりでいたので、求人情報を積極的に探すことはしませんでした。しかし、帰国後に出席した帰国隊員報告会で、進路相談のカウンセラーと話をする機会があり、スペイン語人材を募集している開発コンサルティング会社があると教えてもらいました。それが、今の会社です。その時点では、どの会社に行きたいという具体的な希望はなかったのですが、就職活動に慣れるために、とりあえず応募をしてみようと思い、書類を提出しました。
提出書類 ▶職務経歴書・志望動機書・履歴書
大学院時代に就職活動の経験はありましたが、職務経歴書や志望動機書を書くのは初めてでした。特に工夫した点というのはないのですが、協力隊の2年間で感じたこと、国際協力に関わっていきたいという思いを、素直な気持ちで書きました。
内容 ▶面接、筆記試験(適性テスト、英語、スペイン語)
面接は、雑談のような雰囲気のなかで行われましたが、その後の筆記試験は半日がかりと時間が長く、かなりきつかったです。語学は、和訳と英訳・西訳があり、技術協力プロジェクトに関する文章を訳すという実践的な課題もありました。
内容 ▶最終面接
二次試験は社長による面接です。細かなやりとりは覚えていないのですが、開発コンサルタントに興味を持った理由について「現場が変わっていく様子を、一番近い場所で見られるところに魅力を感じる」というようなことを言った記憶があります。
入社以降、「農牧バリューチェーン強化プロジェクト(※1)」(パラグアイ)、「金融包摂を通じたCCT受給世帯の生活改善・生計向上プロジェクト(※2)」(ホンジュラス)など、中南米地域で実施しているJICA技術協力プロジェクトで、業務調整、研修やワークショップの運営、情報収集・分析などに携わってきました。途中、JICA専門嘱託職員として中南米部に勤務し、国やセクターという大きな視点での支援戦略、案件形成の過程を経験したことで、多くの関係者の努力により立ち上げられたプロジェクトの実施段階を担うコンサルタントとしての責任をより強く感じています。
開発コンサルタントの先輩たちは、向上心が強く、新しい知識を吸収することに貪欲です。将来、開発コンサルタントを目指すなら、知らないことを知りたいと思う好奇心を大切にしてほしいです。学ぶことが好き、楽しいという人に、開発コンサルタントは向いていると思います。どんな仕事を目指すにしても、途上国の日常生活に2年間、どっぷりとつかった協力隊での経験は、非常に貴重なものです。それはこれからの人生の強みとなるはずです。
※1 生産、民間、公的、学術部門間の効率的な連携・調整体制の構築を図り、農牧産品の多様化と商業化に資するバリューチェーンを強化する。
※2 最貧困層を対象に、家計管理、金融教育、零細ビジネス開業支援、市場活動支援などを提供。金融サービスの活用を支援すると共に、その効果を分析。
Text =油科真弓 写真提供=植松美喜さん/株式会社かいはつマネジメント・コンサルティング