派遣から始まる未来
~進学、非営利団体入職や起業の道を選んだ先輩隊員

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会入職

石塚咲さん
石塚咲さん   Saki Ishizuka
マダガスカル/青少年活動/2009年度3次隊・神奈川県出身





現地の人々に寄り添いながら子どもたちの成長を支えたい

「カンボジアで行っている幼児教育事業で成果が出せるように、現地のさまざまな立場の人たちと一緒に取り組んでいます」

   そう話すのは、石塚咲さん。現在、アジアを中心とした地域で、子どもに読書の機会を届けるといった教育支援を行うNGO、シャンティ国際ボランティア会の職員だ。カンボジアのバッタンバン州で幼児教育の質を改善する事業をコーディネートしている。

マダガスカルで、活動先のコミュニティセンターに集まる子どもたちと石塚さん 

マダガスカルで、活動先のコミュニティセンターに集まる子どもたちと石塚さん 

   石塚さんと国際協力、そして、カンボジアが最初につながったのは、大学4年の夏。入団していたガールスカウトの推薦で内閣府の国際青年育成交流事業に参加し、カンボジアに派遣された。現地の若者との交流をはじめ、日本のNGOの活動やJICAの事業など国際協力の現場を見る機会に恵まれた。「特に、現地の人々の暮らしを良くしようと、彼らと共に活動している海外協力隊員の姿が印象的でした」。

   帰国して隊員募集を知り、新卒で応募、2010年1月、青少年活動隊員としてマダガスカルに派遣された。首都から約200㎞離れたベタフという町で、放課後にコミュニティセンターに集まる子どもたちに魅力的なアクティビティを提供することが要請内容だった。

   配属先は外国人ボランティアを受け入れるのが初めてだった。それまでは、施設をただ開けているだけのような状態であったが、石塚さんは同僚たちと話し合いながら、活動内容を考え、保健衛生のワークショップや読み聞かせを一緒に行うようにしていった。石塚さんの任期終了後も同僚たちが活動を続けられるように曜日ごとのプログラム作りなどにも取り組んだ。

シャンティ国際ボランティア会の研修を受けた幼稚園の先生たちと石塚さん

カンボジアのバッタンバン州で、シャンティ国際ボランティア会の研修を受けた幼稚園の先生たちと石塚さん(前列右から2人目)

   スキルが足りず軌道に乗せるまでの苦労は多かったものの、家族同様に迎えてくれた大家さん一家をはじめ多くの人に支えられ、慣れない任地での活動を終えることができた。現地の生活にどっぷりとつかった2年間が終わる頃には、帰国後も国際協力の仕事に携わりたいという気持ちを強くしていた。一方で多くの隊員同様、国際協力とどのように関わりながらキャリアを築いていくかに悩んだ。

「NGOをはじめ国際協力の世界では専門性はもちろん、社会人経験や即戦力が求められます。私は社会人経験がなかったため民間企業で働くことにし、少しでも世界と関われる仕事がないか進路相談カウンセラーに相談しました」

   そして、フランス語圏アフリカへの国際輸送を行う企業に入り、ODAの機材運輸などに4年半携わった。その後、メーカーの物流部門へ転職してしばらくした頃、シャンティ国際ボランティア会の求人を知る。

「それが、大学4年生の夏に訪れたカンボジアで見た図書館活動をしていたNGOだと気づいて応募しました」

   18年5月に同会に転職、ラオス事業を東京からサポートする業務を担当した。インドネシアのスラウェシ島で地震・津波災害が発生したときは被災した女性の生計回復を現地で支援した。

子どもたちの教育のために働くバッタンバン事務所の同僚と石塚さん

子どもたちの教育のために働くバッタンバン事務所の同僚と石塚さん(右から2人目)

   そして、19年10月からはカンボジアの事務所に赴任し、チーフコーディネーターとして「幼児教育カリキュラムに基づく『遊びや環境を通した学び』実践のための基盤構築事業」を担当している。小学校につながる「勉強」が中心に行われているカンボジア幼児教育において、子どもの年代に合わせて「遊びなどを通した学び」を普及させるもので、教員教育の実施とそれを担う教育省の能力強化を行う、JICAの支援を受けている事業だ。

「ガールスカウトや協力隊で行った活動は、いわゆる『勉強』以外で生きる力を育むことやさまざまな体験から学ぶことを大切にするものでした。今、関わっている幼児教育の事業でも、子どもたちが学校内外に関係なく、友達や地域の人と経験を共有したり新しい発見をしたりするなかで、人生を切り開いていく力を身につける機会やそのきっかけを提供することを大切にしていきたいと思っています」

   現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、日本から専門家を招いて行う研修は延期を余儀なくされているため、教員向けの現地語のガイドブック作りなどを進めている。

「教育支援の成果はすぐには見えないので長丁場になると思いますが、子どもたちのために頑張っていきたいです」

石塚さんの歩み

小学校3年生のとき、両親の勧めでガールスカウトに入団。現在もリーダー役として子どもたちの活動をサポートしている。

国際理解にも力を入れている団体で、文房具などをアフガニスタンの子どもたちに贈る活動をしたことで開発途上国に興味を持つようになりました。

2008年、大学4年の夏にガールスカウトの推薦で、国際青年育成交流事業でカンボジアに。

協力隊員の姿がとても印象的で、カンボジアにもまた行きたいと思いました。

2010年1月、新卒で協力隊としてマダガスカルへ。

小・中学校で図工や音楽、体育、日本語も教えました。派遣中の隊員たちで先輩隊員が作った「手洗いソング」による啓発活動も各地で行い、隊員活動の醍醐味を感じました。

帰国後、民間企業2社で国際輸送に携わる。

引き続き国際協力に関わりたかったのですが、知識も経験も不足していたため、就職しました。

2018年5月にシャンティ国際ボランティア会に転職。19年10月、カンボジアに赴任。

転職当初は、カンボジアで国際協力のフロントラインに立つことなど想像していませんでした。いろいろな経験があったからこそ、今につながっていると思っています。

Text&Photo(顔写真)=工藤美和 写真提供=石塚咲さん

知られざるストーリー