[特集] 令和版   隊員活動のトラブル脱出法
着任期 〜 適応期編

本誌「クロスロード」の前身である「若い力」は、青年海外協力隊の派遣が始まった年と同じ、1965年に創刊された。歴代の記事を読み返すと、活動中に得た教訓を後輩たちに生かしてほしいと、先輩隊員たちが自らの失敗や知恵を客観的に振り返り、誌面に提供してくれている。
温故知新。協力隊の歴史と共に、先輩たちが残してくれたこの大きな財産を活用すれば、もっと2年間の活動がスムーズで充実したものになるのではないか。そこで、今回は1996年の本誌の記事「隊員活動のトラブル脱出法」をテキストに、より現代にマッチした任期中の過ごし方の提案をすべく、NPO法人九州海外協力協会に所属する協力隊OVとコラボレーション。4月号と5月号の2号にわたり、2年間の活動で気をつけたいこと、やっておきたいことを考察する。

26年前の誌面
「隊員活動のトラブル脱出法」から学べることを語ろう

クロスロード1996年10月号

「クロスロード1996年10月号」。26年も前の号だが、今なお協力隊員が任地で活動する際に読んでおきたい貴重な体験記が掲載されている。当時、NTT国際本部海外事業推進室に勤務しながら、現職参加でインドネシアの電子通信事業会社・PTテレコムニカシ・インドネシアに赴いた丹羽 進さん(電話線路/1993年度1次隊・岐阜県出身)が、自身の派遣国事情や体験をまとめた「インドネシアで学んだ体験的 隊員活動のトラブル脱出法」だ。

   そもそも丹羽さんがこの記事を書いた動機は、「求められる技術が高いインドネシアで、自らも悩み、またマンパワーか技術移転か、どうどう巡りの疑問に悩む仲間たちが多かったこと」「インドネシアの後輩訓練生たちへ、自分が体験したのと同じ苦労を少しでもやわらげられないか」と感じたからだそうだが、隊員になる前の自分への遅すぎた手紙でもあるという。

   記事の構成は、派遣される前の心構えから、着任後1~3カ月でやっておくべきこと、半年過ぎてもうまくいかないときの対処法、1年半から2年の任期終盤の過ごし方など、任期中に誰もが直面する悩みやトラブルを乗り切るためのノウハウが凝縮されている。

クロスロード1996年10月号

   とはいえ、これは26年前に、インドネシア政府の国有企業(95年に上場して以降は同政府保有企業)が配属先になった、現職参加の丹羽さんのケース。国や配属先、時代が違えば、当然状況も変わってくるはずだ。そこで今回は派遣国や職種、隊次の違う協力隊OVが多数在籍する「NPO法人九州海外協力協会」から5人の方に協力を仰ぎ、自身の協力隊活動を踏まえて、この記事について語り合ってもらった。

   丹羽さんの記事は膨大なので誌面では一部を転載し、この4月号では「着任期~適応期」を、5月号では「活動記~開花期」と、2回に分けてまとめていく。記事の全文はPDFをウェブサイトに公開するので、ぜひ読んでみてほしい。

大まかにみた協力活動の2年間

※「クロスロード」1996年10月号より

着任期(着任~3カ月)

見るもの聞くものすべてが初めてで、職場に行っても仕事になりません。まずは基盤の生活を整える時期。

適応期(3カ月~半年)

職場の人たちの顔や名前を覚え、仕事の内容が少しずつ見えてきますが、まだ本格的な活動はできません。

活動期(半年~1年半)

職場の人たちにも慣れ、仕事も一緒にできるようになり問題点も見えてきて、本格的な活動が始まります。

開花期(1年半~2年)

今まで取り組んできた活動の成果が徐々に出始めます。活動の引き継ぎや、帰国の準備で大忙しです。

〈体験記を書いたのは〉

丹羽 進さん
NTT退職後、岐阜県で有機農業・自然農を行いながらご家族で農家民宿「なかよしかぞく」を経営。


クロスロード1996年10月号の丹羽さんの記事の全文はPDFをウェブサイトに公開中

参加してくれたNPO法人九州海外協力協会の皆さん

丸田隆弘さん
事務局長   丸田隆弘さん

ホンジュラス/村落開発普及員/1986年度2次隊・長崎県出身

農協を退職後、1986年に協力隊に参加。ホンジュラスの農業協同組合で経理、財務を担当。89年にホンジュラスのボランティア調整員(現企画調査員[ボランティア事業]、以下VC)、94年にニカラグア事務所長、2006年にドミニカ共和国VC、18年グアテマラVCなど、中米・カリブを中心に活動。現在NPO法人九州海外協力協会事務局長。

酒井マリさん
酒井マリさん

ネパール/きのこ/1992年度1次隊、 ブータン/きのこ/1995年度9次隊、SV/ネパール/きのこ(林業森林保全)/2004年度0次隊・鹿児島県出身

メーカー勤務を経て、海外暮らしへの憧れから協力隊に応募。1992年にきのこ隊員としてネパールへ。農業研究所のきのこ部門で、きのこの栽培法を研究。その後は95年度に短期でブータン、2004年度に再びネパールにシニアボランティアとして赴任。現在は鹿児島県国際交流センターの事業主任。

桑山昌洋さん
桑山昌洋さん

ボツワナ/SE(コンピュータ技術)/2000年度3次隊・鹿児島県出身

大学でウイルス学を研究中、研究活動の一環で南米に行った際、子どもの貧困問題を目の当たりにし、自分も何かできないかと協力隊に応募。教育単科大学のイングリッシュ&コミュニケーション科にSE(コンピュータ技術)講師としてボツワナに赴任する。現在は鹿児島県国際交流センター所長。鹿児島県OB会顧問。

下松裕和さん
下松裕和さん

日系JV/ブラジル/日系日本語学校教師/2010年度0次隊・鹿児島県出身

東京都内の百貨店に勤務後、鹿児島県にUターン就職。古き良き日本が残る日系社会に惹かれて、ブラジルでの日系日本語学校教師を志望。日伯文化連合会に配属され、日本語授業のほか、劇やミュージカルの指導も行う。現在は鹿児島県アジア・太平洋農村研修センター(KAPIC)総務課長。

前原無量さん
前原無量さん

スリランカ/環境教育/2015年度1次隊・兵庫県出身

民間の事務局勤務を経て、フィリピンに語学留学。途上国の環境問題に触れたのを機に、帰国後、協力隊に応募。スリランカの市役所の保健教育部に環境教育隊員として派遣される。ゴミの削減問題をメインに活動に取り組む。現在は鹿児島県アジア・太平洋農村研修センター(KAPIC)に勤務。

NPO法人九州海外協力協会

JICA海外協力隊など、海外での在住経験者が中心になって構成。「すべての人々がお互いを尊重し認め合える世界」の実現を目指し、ワークショップや国際協力プロジェクトなどを行う。鹿児島県国際交流センター、鹿児島県アジア・太平洋農村研修センターも委託運営する。

Text=池田純子 Photo=干川修(クロスロード)、ホシカワミナコ(取材時)

知られざるストーリー